スローバラード
壁にもたれながら、更けていく夜
窓から差し込む下弦の月明かりが
柔らかくも無関心に私を照らす
あなたを想い
いつも眠れない夜を明かす
今日も夜は、まだ続くけど
きっとまた、明けるまで眠れないだろう
傍(かたわ)らで静かに流れるスローバラードが
私の気持ちを浮き彫りにし、そして慰(なぐさ)めながら
いっしょに夜を過ごしてくれる。
何度も同じ曲を繰り返しながら
いっしょに夜を過ごしてくれる。
あなたは今頃、もう眠っているのだろうか
どんな夢をみているのかな
今はあなたがただただ恋しい
こんな私の想いを、あなたは分かっているのに
それが届かない事も知っているのに
どうして、あなたは優しい言葉をかけてくるの?
どうせなら
私の事を嫌ってくれればいいのに
どうせなら
もう少し上手な嘘をついてくれればいいのに
あなたなんかに愛想をつかし、
いっそあなたを恨めるような、
そんな上手な嘘をついてくれればいいのに
それでも
あなたの言葉に癒されてしまう
あなたの言葉に縋(すが)る心が
涙を流しながらも
あなたの言葉の心地よさに
いつも溺れてしまう
だから私の心だけが連れて行かれて
この身体だけが置き去りにされる
他の人を好きにならないでなんて言わないから
私だけを見つめてなんていわないから
ただ
私を一人にしないで欲しい
スローバラードは歌う
もう何度繰り返されたのだろう
夜も随分(ずいぶん)更(ふ)けて、月もだいぶ傾いたけど
眠れない夜はいつまでも続く
もう諦めてしまおうと
忘れなければいけないと、
何度も何度も言い聞かせているのに
あなたの背中ももう見えていないのに
あなたの優しさが、
誰かを想う優しさが
私に向けてくれているような錯覚をしてしまう
あなたがくれた幾つもの言葉が
いつまでも、いつまでも
私の胸から離れない
眠れない夜は、星に透かしてタロットのように言葉を並べる
カードが占うあなたの心は
何度やっても
何度やっても
私の望む結末にしかならないのに
どれだけやっても、
私は満たされるはずなのに
私の想いが届かない事を
あなたの言葉は教えてくれない。
記憶の中にいるあなたの言葉は、
いつも私を想ってくれている
恋心よ、恋心
こんなに苦しい恋なのに
恋心よ、恋心
どうして泣いてくれないの
あの人の言葉を抱きしめながら
どうして微笑んでいられるの
せめて泣いてくれたなら
その涙で
あの人の言葉を溶かせられるかもしれないのに
膝を抱えて更けてゆく夜に
スローバラードが繰り返し私の中を流れて行く