恋と時間のいたずら【小説1/3】
●頭から赤い血が流れている。
周りには鉄の棒を持った不良が
10人倒れていた。
周りから見ると非日常な光景だが
一郎にとってはいつも通りの光景だった。
頭から流れている血を拭いながら
橋の下から立ち去った。
ぼろ屋のアパートの3階に着いてから、
床に転がっているおにぎりを口に運んだ。
一郎が荒れ始めたのは
高校一年生の頃だった。
中学校までは文武両道で
剣道では全国大会優勝、
勉強でも学年のトップ3に入っていた。
そのまま地元の進学校に進学した。
高校の一年生の頃に両親が
いきなり行方不明になった。
住んでいた家にも住めなくなった。
近い親族が居なく、遠い親戚を
たらい回しにされた。
不況の時代と言うこともあり、
お金の掛かる高校生は
腫れ物扱いされたのだと思う。
それから半年が経ち、
親戚の家を飛び出して
高校にも通わなくなった。
適当に誰でも借りられる宿を借りて、
収入は国からの雀の涙ほどの
お金と喧嘩した時に相手から
渡される献上金だった。
将来に対する漠然とした
不安を抱いていたが、
現状を変える手段も見当たらず、
ひたすら現状の生活を維持していた。
荒れ始めて半年の間に
今まで喧嘩をした相手は3桁を超えていた。
かなりの恨みを買っていたが、
一郎の強さの前に為す術が無かった。
喧嘩をした中の一人が
一郎の帰りを尾行して家を特定した。
そして恨みを晴らすために、
一郎のアパートに火を付けた。
居眠りをしていた一郎が
目を覚ました時には体が動かなかった。
煙を吸いすぎて意識が朦朧としていたのだ。
「やべぇ、体が動かない」
一郎は意識が遠のいていた。
「くだらねぇ、死に方だな。」
●一郎は激しい頭痛で目を覚ました。
周りを見渡すと一面の草原だった。
「ここはどこだ?俺って煙で
意識を失ったはずだよな?」
周りは青空の草原に囲まれていた。
「死後の世界なのか?」
ずっとそこに居るわけにもいかないので、
周りを探索し始めた。
遠くに馬に乗った黒い人が3人くらい
いることに気がついた。
ずっと向こうの人を見ていたら、
向こうの人が一郎に気がついた。
ものすごいスピードで迫ってきていた。
凄い形相だったので
異常な事態であることに気がつくのに
長い時間は必要では無かった。
よく見ると槍を持ちこちらに
構えながら向かってきた。
一郎は怖くなり近くにあった高台に登った。
3人の集団が追いつき、
馬では登れないことを悟って、
馬から下りて高台に登ってきた。
一郎は殺されると思い、
近くにあった木の棒を手に取った。
相手が高台に登ってきて
逃げ場が無くなった
一郎は戦うことを決意した。
相手が武器を振り回しながら走ってきたので、一郎も棒を持ち戦った。
震える手で夢中で振り回していたが、
気が付いたら相手の3人は倒れていた。
一郎は呆然として
小一時間その場に立ち尽くした。
「意味が分からねぇ、誰なんだこいつら?」
一郎は状況を分析し始めた。
馬に乗って槍を持って戦いを
挑んでくるって戦国時代のようで
あることに気がついた。
倒れた3人を見ると、
鎧のようなものを身に付けて
蕪とを取るとちょんまげを結っていた。
「まじで戦国時代かよ。
あっ映画の撮影か?」
様々な憶測が飛び交ったが
「映画の撮影なら本気で殺しに
掛かってくるはずもないし、
カメラも無い。」
一郎は状況を理解するためには
あまりにも急すぎた。
しばらく立ちすくんでいると、
後ろから馬の音がした。
振り返ると馬に乗った先ほどと
同じような風貌の人が10人ほどいた。
「やばい、また殺される、、、」
逃げようとしたところ一声で止められた。
「我が名は虎之助。日の国の侍隊長だ。
こやつらはお主がやったのか?」
10人の中で一番強そうな男がそう訪ねた。
「そうだけど、何か?」
一郎は平然と答えた。
「こやつらは我が国の敵対国である
山の国のスパイだ、この功績に
見合う報酬をやるから付いてこい」
一郎は馬に乗せられて
日の国の城まで連れてこられた。
城での報酬を貰った一郎は
侍隊長である虎之助に情報を求めた。
「ここはどこで、いつの時代なんだ?」
どうやら今居る場所は尾張
(現愛知県のあたりであることが分かった)
虎之助は一郎に宿がないことを察して、
家に招き入れた。