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業界インタビュー9 損害保険会社の仕事

身近で働いている人にインタビューして、どんな仕事をしているのか、どんな課題を抱えているのか、といった話を蓄積していく企画の第9弾。今回は損害保険会社です。

損害保険って何なの?

まず生命保険と損害保険は何が違うのか。生命保険は入院や死亡などの際に事前に約束した金額を給付する、定額給付の保険。一方、損害保険は事故や災害によって被った損害分だけを補償する実損補填の保険。

リスクがあるところには保険がある。自動車を運転していて、人を轢いてしまった、損害を与えてしまった、となると賠償金を払いきれないので、みんなで保険をかけて、いざというときは保険でまかなう。

損害保険の半分以上が自動車保険。台風などの天災に備えるものも多い。他にもレストランで食中毒を出してしまったときの保険とか、最近だと、コロナでコンサートが中止になったときに備えて、主催者が売り上げが立たなくなることに対して保険をかけたり、お客さんも交通費や宿泊費が無駄になるから保険で補償する、というものもある。

損害保険の価格は毎年見直されていて、たとえば今はコロナで外出が減っていて自動車事故もだいぶ減ったので、そのぶん保険料も安くなっているらしい。この保険は割がいいからお得とか、このプランはぼったくりとかあんまりなくて、どの保険も常に適正な価格を維持してくれているようなので、ありがたい話である。

保険の売り方

一般ユーザーが保険を買うルートは主に3つ。分かりやすい図をいただいたのでそのまま紹介する。

保険商品の販売の流れ

まずは直接販売。保険会社の社員が売り込みにくる。生命保険会社のお姉さんがよく会社の食堂とかに昼休みにやってくるけど、そういうタイプ。生命保険ではメジャーだけど損害保険ではあまりいないらしい。

次に保険代理店。「ほけんの窓口」みたいなところがお客さんに話を聞きながら保険を売る。損害保険はこの売り方がメインだそう。カーディーラーが車と一緒に自動車保険を勧めてくるのも、この保険代理店扱いになるらしい。

最後にネット販売。「ライフネット生命」みたいにウェブ上で申し込みとかが完結するタイプ。人件費が抑えられるので割安なのが特徴。最近どんどん増えているらしいけど、まだ生命保険の3%、損害保険でも7~8%程度しかないらしい。みんな意外とネット販売使ってないんだね。

生命保険は特約とか多くて、素人には難しい。人生にはいろんなリスクがあるから、条件がすごく細分化されているらしい。一方、損害保険は分かりやすい。自動車で事故にあう、家が大雨で浸水する、など条件が明確なのでネット販売に向いているようだ。確かに自動車保険のCMの方がよく見る気がする。

最近の保険のトレンド

冒頭にコロナ対策保険みたいなのを紹介したが、それ以外にも保険商品はどんどん多様化している。とにかく、リスクがあれば全てが商品になるのだ。人々の生活も多様化してきているので、保険の商品化の方が追い付かないのが現状。

そこで登場したのがP2P保険。これは、消費者同士で「こういうリスクに対してみんなでお金を出して保険作ろうよ」というのを募ることができる。保険会社はプラットフォームを提供して、そこで共通の悩みを抱える人たちが出資してお互いに支え合う仕組み。

たとえば、YouTuberが投稿禁止にされたときの収入減に備える保険とか、美容整形に失敗したときのやり直し保険とか、本当になんでもいいらしい。言われてみればそれが保険の正しい姿だと思うし、小さい額でもきちんと公平に運用できる技術や制度が整ってきた、ということなのかな。

こうした時代の流れに対応するため、保険会社では新しい支払いの仕組みも模索しているらしい。保険金を現金振り込みではなくLINE Payで払えるようにできないかとか、自動車事故が起きたときドライブレコーダーの情報を感知して、お客様からの連絡がくる前から対応を開始できないかなど。

一番大変なことは何か?

ヒアリングした方の個人の感想としては、お客様への督促が一番大変だそうです。たとえば海外旅行保険とかで、ものをなくしました、盗まれました、壊れました、いろんな事故報告を受けます。お客さんも海外では頼る先が少ないから、電話で相談したくなります。でも、なんとか帰国すると、もう保険のことなんか忘れています。無事に家まで帰れてよかった、じゃないんです。

保険会社は事故報告を受けた以上、しっかり保険金をお支払いする義務があります。そういう契約を交わして保険金を受け取ってますからね。会社が支払いを踏み倒すわけにはいかないのです。でも旅行者からすれば、数千円の損失も旅の料金みたいな感じだし、わざわざ家に帰ってから数千円のために書類を書いたりするのは面倒なわけです。

その結果、保険会社は督促する必要が出てきます。お願いだから保険金を払わせてくれ、どの口座に振り込めばいいんだ、早く教えろ、早く払わせろ、そうしないと業務が完結しないんだよ!

全く想像していませんでしたが、そんな面倒くさいことになっていたんですね。保険会社は請求されなくてラッキー、利益が増えたぜ、ってなるのかと思ってましたが、実態は真逆でした。みんな、素早く保険金を請求しましょう。

改善したい課題は何か?

これまたスライドを用意していただいたので、そのまま紹介します。ここでは企業の古いやり方が改善されていない、というのが挙げられています。

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これは企業側でなんとかしたいこと、こうした方がもっと仕事がうまくいく、という課題。一方、お客様が感じている課題もまとめていただいた。

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一消費者としては、とても納得できる内容。とくに左半分の4人に共感した。おそらく、交通事故も、自然災害も、死亡も、非常にリスクが下がっているせいで全然危機感がないんだと思う。安全・安心な世の中になりすぎて、保険をかける必要性を感じなくなっている。

地震だって、震度5くらいでも案外なんともなく日常生活に戻ったりする。家は耐震性能が高くなったし、火事も全然起きない。身近にリスクを感じないから保険の必要性を感じない。

台風で川が氾濫して家が浸水する、といったニュースもよく見るけれど、被害にあった方は「こんなの生まれて初めてだ」とよく言っているので、やはり平均的には一生に一度あるかないか、くらいにレアなことなのだろう。だからこそ、P2P保険のように、もっと身近なリスクに対する保険の方が人気が出るのかもしれない。

また、コロナの影響による課題も挙げていただいた。

保険商品の課題

保険代理店としては、窓口まで来てもらわないと仕事にならない、という感覚が強くあるようです。でもお客様はコロナだから窓口に行くのは怖い。ただネット販売もいろいろ不安なので、非対面でもいいから相談して決めたい、ということのようです。

これは保険が必要と感じているお客様のニーズかな。私はコロナとか関係なく、ほけんの窓口とか入るのもけっこう勇気がいると思いますが、自分で調べる方が楽だと感じる人は少数派なのか。世の中の人は、そんな気軽にあの相談コーナーに立ち寄ってるのか……?

その他のコロナの影響は?

紙の使用量が大きく減ったとのこと。今まで申込書、見積書、いろんなものが紙だった。まだまだ紙文化だった。しかしコロナで社員もリモートワークするようになり、申し込みがWebになり、見積もりもWeb化して、紙がだいぶ減ったらしい。

まだ運輸局など行政がからむ部分は紙文化が残っているけれど、コロナによって社内のIT化がだいぶ進んだようだ。それはとても良い影響だ。

でもまだまだ社内のシステムは古いまま残っていて、不便なところは多いらしい。基幹システムの変更はどうしても難航しますよね。コロナで突然全社員にパソコンが配布されたけど、その管理はExcelで手作業でやっている、といった感じの改善途上にあるようです。それでも、必要に迫られたら古い体質の会社だって変わるんですね。すごいですね、コロナ。

そんな感じで、損害保険の商品の流れについてざっと話を伺いました。私は保険に疎かったので、とても勉強になりました。

さて、ここでもう一つ、私があまり意識したことがなかったけれど、損害保険会社にとって欠かせない大きな仕事がありました。それが「損害の査定」です。今回のおまけパートでは、この査定の話を紹介します。

おまけ:査定とは

自動車保険の場合、事故を起こした車を見て、ここが壊れている、この部品代はいくら、といった損害額を算出する必要があります。これが査定です。ここにも大変な苦労話がつまっていました。

まず損害保険会社で働く人のうち、査定するための社員というのが3分の1を占めているそうです。そんなにたくさんいるんですね。冒頭にも書いた通り、損害保険は被害額を補填するための保険なので、被害額を査定するのはとても重要な仕事。

事故にあった車の写真から査定することもあるけれど、高級車の場合は直接車を見に行って、この部品代はいくら、こっちの部品はいくら、というのを算出しなければいけない。この事故のケースでは、どこまで補償範囲になるか、などケースバイケースで判断が必要となり、現場で間違いなく進めていくのも大変らしい。

事故現場で査定するときは、お客様対応も同時にしなければならない。お客様の不安・相談に答えるのはもちろんのこと、事故の場合は、相手側からも怒られたりするらしい。お前のところの契約者が事故を起こしたんだろ!など理不尽に怒られても、基本的には謝る以外にない。

お客様によっては、金じゃなくて代車を持ってこい!など要求されることもあるけれど、モノで賠償することはなく、契約通りお金で賠償する必要があるので、お客様に理解いただくのもまた一苦労だ。

査定レス化への道

この査定をなくせば、損害保険はだいぶ簡素化できるのではないだろうか。しかし、ちょっとバンパーをぶつけただけでも、全損して走行不能になっても同じ保証となったら、基本的に保険料を高くせざるを得なくなる。査定によって、必要十分な金額を出すからこそ保険料を適切に抑えられているのだ、という。

でも、そのための査定コストが大きく膨らんでいるのも事実で、何かしら折り合いをつけられないだろうか、と思ったら、そういう試みもすでに始まっているらしい。

インデックス保険というもので、たとえば震度6以上の地震が発生したら一定額を支払います、というもの。実損補填ではなく、生命保険と同じ定額給付型の損害保険だ。そうやって査定コストが下げられれば、損害保険はもっとシンプルで安くなるかもしれない。

まぁ、そうすると査定専門の社員がリストラされて、それはそれで社会問題になるのかもしれませんが。難しいですね。保険会社が介護事業を始めて社員を介護業に異動させたら問題になった、なんて話も聞きますしね。。。

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