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安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』

すごい良かった。暗くて、重くて、切ない話だった。

2017年、JASRAC(日本音楽著作権協会)がヤマハ音楽教室などに対して、レッスン中に生徒に教える曲への著作権を払うように裁判を起こした事件があったのですが、まさにその裁判を題材にした小説でした。

主人公がJASRAC側で、著作権を払わせるための証拠集めのスパイとして、音楽教室に生徒として入会するという、かなりニッチな設定にびっくり。さらに主人公が教わる楽器がチェロの上級クラスというニッチな設定。

産業スパイなので、当然明るい話ではないですが、さらに輪をかけて主人公の性格が暗い。若くてイケメンでいろんな美人さんに言い寄られてても、それらを全く意に介さず、自分はダメだ、って鬱でふさぎ込んでる感じ。そんな主人公が、スパイ活動を通していろんな人と触れて、成長?していくお話でした。

本のタイトルにもなっている「ラブカ」は深海魚の名前だそうで、深い海の底でじっと様子を窺っている雰囲気が、全編に通底しています。重い、暗い世界の片隅で、主人公はいったいどんな世界を見ているのか。

手に汗握るスパイ描写(?)でかなり真面目にドキドキしてしまい、久しぶりに本を読んでこんなに興奮しましたね。とても面白い本でした。

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