業界インタビュー2 銀行系システムの仕事
身近で働いている人にインタビューして、どんな仕事をしているのか、どんな課題を抱えているのか、といった話を蓄積していく企画の第2弾。今回は銀行系システム(?)の話でした。いろんな業界のことが分かれば、きっと何か新しい発見があるはず!
どんな会社?
今回は大手メガバンクではなく、地方銀行(地銀)の子会社でシステム開発をメインにしている部署にお勤めの方でした。なので、銀行系システムといっても、みずほ銀行のシステム統合の裏話みたいなすごい話ではないです。
数年前までは、銀行の合併やシステム統合がたくさんあって忙しかった。売り上げの半分くらいは、そういう親会社からの依頼。
もう半分の売り上げは、銀行にお金を預けている地元の中小企業が、ついでに社内の給与計算も銀行にお願いしたい、というニーズがあるらしく、給与明細を作ってあげるサービスをしているらしい。今回はこの給与明細サービスの話がメインです。
給与明細サービスって何?
会社で出退勤時間などの勤怠入力をすると思いますが、それが電子化されておらず紙で記録を残しているような会社がまだまだあるそうです。従業員の名前、勤務時間、残業時間、各種手当ての有無、などが一覧となった紙がお客様からFAX等で送られてきて、それをPCに手入力して、各自の給与を計算し、給与明細書を作って納品する、という仕事らしいです。
昭和かよ。
自社内に経理機能を持っていないということは、よっぽど小さな会社なのかなと思ったらそうでもなく、従業員数100人クラスの企業がメイン顧客らしい。本当に零細企業なら給与計算も自分たちでやるけど、なまじっか人が増えてきたら手に負えなくなって委託する、という感じなんだろう。他にも銀行に融資してもらっているとか、株主だからとか、そういうお付き合い要素で委託しているケースもあるらしい。
そういうお客様が、地銀の見ている県内に100社くらいあるそうで、まだまだ世の中全然電子化されてないんだなぁ、と驚かされました。
仕事の流れ
お客様から送られてきた紙をPCに入力するのですが、文字が不鮮明だったり汚くて読めない、というときは電話で折り返し確認。訂正文書をFAXで送ってもらったりする。そしてそのFAX受信に気付かず給与明細を仕上げてお客様に怒られたりするらしい。
データ入力する人はキーパンチャーと呼ばれ、かなり熟練の技を必要とする職業らしい。新しい人を育成するのは時間もお金もかかるので、最近はOCRを使った電子化も検討しているらしい。でも結局OCR結果が正しかったかどうか人の目で全数検査しているらしく、あまり効率化には繋がっていない。
入力されたデータから給与計算を行うシステムは、IBM PL/I を使って組んでいるらしい。そして得られた計算結果を出力する。ここでは複写式で袋とじになる専用の明細書に、ドットインパクトプリンタという複写式用紙にちゃんと複写されるように、インクリボンに圧力をかけて印刷するタイプのプリンタで出力するらしい。何を言ってるか分からないかもしれませんが、昭和の時代にはそういう紙や機械があったんです。
こういう明細書だと思います。そしてプリントされた内容が正しいかを再び全数検査するそうです。しかも2人体制のダブルチェック。お客様の支払う給与額に直結する重要な情報なのでミスは絶対に許されません。
全体を通して、なんとでも電子化できそうな業務だけど、全て人手でやって全数検査してるから、ものすごく工数のかかる作業になっています。もう何から手を付けたらいいのか分からないですね。昭和ってすごい。
超多忙な社員たち
だいたい給与明細を発行する時期は、どの会社も似通っています。20日とか25日とかが給料日だと思うので、そのちょっと前にタスクがいっぺんにやってきます。
100人規模顧客が100社あるとしたら、1万件の明細を作る必要があります。これを数人程度の部署で全数手入力して目視検査するわけですから、ものすごく忙しいです。忙しすぎて全く報連相が成り立たないそうで、だからお客様からの訂正FAXも見落としてしまうんですね。
会社のトップは何を考えているのでしょう。会社のトップは、銀行本体などから出向してくる(天下り? 左遷?)ケースが多いらしく、だからあんまり長期ビジョンとかないんでしょうね。業務を電子化・効率化して人を切るより、みんなで手分けして全数検査してる方が仕事してる感ありますし。それでも利益が出るんだから、銀行というのはすごいところです。
古き良きタテ社会組織なので、働いていると上司から謎の怒られが発生しやすい。みんな全数検査でとても忙しいのでピリピリしてるし、それでもやっぱり人間が作業しているから一定割合でミスが発生するわけで、もう構造上どうしようもないですね。しわ寄せが若い社員に向けられて、怒られて謝罪して丸く収まる仕組みです。
そうやって叱ることが管理であり、マネージャの仕事になっているのでしょう。すごいですね。昭和ですね。
課題とは?
銀行ってコロナの影響あったのか、ちょっと聞いてみた。すると、昼休みの窓口を閉めるようにしたとか、経費削減のために残業抑制されるようになったとか、仕事が減ってきて経営指導がちょっと厳しくなっているらしい。
やっぱりちょっとは危機感があるんだと思います。でもなんか次元が違うよね。なんていうか、現代の技術レベルを考えると、根本的に、なんか次元が違うよね。でも、きっと中で働く偉い人たちの問題意識と、私の感じるそれは大きく乖離していて。きっと伝わらない、この気持ち。
老害というのは、情報のアップデートをやめた人のことだ、という話を聞いたことがありますが、まさに会社単位で情報がアップデートされずに昭和のまま生き続けている感じがして、そこはかとない異世界臭を感じる、とても面白いインタビューでした。
以上で記事はおしまいですが、おまけパートとしてこの旧態依然とした銀行システムの根幹を司る組織についても少しだけ話を聞きました。私たち末端の人間に全容はつかめませんでしたが、分かったことをメモしていきます。
おまけ:金融機関の元締め
一般社団法人 全国銀行協会(全銀)という組織があるそうです。ここが全国の金融機関コードなどのシステムをとりまとめているらしい。銀行が統廃合したり、変わったりしたことがきちんとシステムに反映されていないと、振り込みとか困っちゃいますからね。そういう銀行横断の仕組みを作っているようです。
そのため、口座種別、口座番号、顧客名とかのフォーマットも一括で管理されていて、全国の銀行は全て、この全銀が決めたフォーマットに従ってデータベースを作成する必要があるわけです。これだけでも利権のにおいがしますね。
ということで、今回インタビューした地銀でも、専用のメディアコンバータ「XL-NICE」というものを使っているそうです。
この大層なシステムは、なんと、磁気テープ、フロッピーディスク、MO、DVD、USBメモリなど様々なメディアから情報をインプットし、全銀ベーシック手順(?)にのっとり、専用のデータ形式に変換してくれるそうです!セキュリティもばっちり!Windows 10にも対応!
すごい!昭和が令和にやってきた!
なんだこれ!意味わからん!
これが業界トップシェアを誇るメディアコンバータらしい。おそろしい業界だ。これを使って確実にデータを取り扱うことが金融機関にとっては大事なことらしい。郷に入っては郷に従え。
ということで、社内でデータをやり取りするときもクラウドストレージとかメール転送とかは使わず、DVDにデータを焼いて持っていくそうです。でも、DVDがしょっちゅう読み取りエラーを起こして作業が止まるんだとか。データを確実に扱うための道のりは険しい。。。