業界インタビュー11 建築(デベロッパー)の仕事
身近で働いている人にインタビューして、どんな仕事をしているのか、どんな課題を抱えているのか、といった話を蓄積していく企画の第11弾。前回に引き続き建築業界について聞いていきます。今回はデベロッパーです。
デベロッパーって何?
私の雑な理解を図にしたものを再掲する。デベロッパーは大規模な土地の用途とかを企画する業種だ。大きなオフィスビルを建ててビジネスの拠点にしたり、ショッピングモールを作ってテナントを誘致したりする。
と思っていたが、そういう仕事はデベロッパーとしての役割のごく一部にすぎないらしい。目指しているのは、単に物件をつくることではなく、その物件を通して街をつくり、社会をつくっていくこと、らしい。
最近では、ビルなどの建物で差をつけることが難しくなっている。東京のビルは地方のオフィスビルと全然レベルが違うね、ということにはならない。ちょっとした設備の差しかない。だからこそ、このビル、この街に来てくれる人に注目して、街全体として差別化していく必要がある。
例えばテナントの賃料を決めるのも街をつくることに繋がる。一つのビルで収益を最大化するように賃料を高くするのがベストではない。その建物があるエリアをどうしていきたいか。ベンチャー企業を誘致して新しい風を吹かせるのか、盤石な基盤をもつ大企業を呼ぶのか、海外の企業を誘致して国際的な拠点とするのか、エリアに必要なもののバランスを整えていく。
リモートワークが広まって、東京に集まらなくても、どこででも働けるような時代になった。そんな中、このオフィスビル、この街に集まる意味、必要性を考えていく。
いろんな人が集まる、いろんな企業が集約していることで、土地当たりの付加価値が上がる。IT企業がみんなシリコンバレーに集まったように、一つのテーマの元に人々が集まることの価値を打ち出していく。
それは、街づくりという範疇にとどまらない。隣の街との交流、更にはこのエリアに来ない人たち、メディアを通して見るだけの人たちも含め、その全てにとって最適化した社会を作っていく。賃料だけでなく、窓の清掃会社を決める、テナントに入るお客様を審査する、そういった全ての決定に意味を持たせるのがデベロッパーの仕事。
壮大な理念を掲げていることは分かりましたが、現実はどうなんですか?
実際に何で稼いでいるかというと、やはりビルや商業施設などの物件を建てることが大きな割合を占める。
一つは、ビルを長期保有して価値を高めていくもの。数十年単位で使っていくことを想定して、物件を良くしていく。愛着がわいてくる、みんなが集まる場所になる、知名度が高まることで、ビルやエリアの価値がどんどん上がっていくように企画していく。そのためにも、賃料をいくらにして、どんなテナントに入ってもらうか、というアセットマネジメントが重要になる。
もう一つは売却していく物件。これから発展しそうな土地に投資していく。ビルを建てて人を呼び、魅力を作って、売る。東京にオフィスビルを作って日本への進出を希望する海外企業に売るとか、北陸新幹線ができる前の金沢にビルを作って新幹線が開通したら売るとか。
他にも、ベンチャーキャピタルのような投資をしたり、小さなコワーキングスペースのような施設をつくったり、海外でのビル建設事業を始めたり、いろいろな方面に挑戦している。デベロッパー各社でどの部分に力を入れているかのポートフォリオは異なるが、大筋はこんなところ。
デベロッパー各社の違いってどんな感じですか?
どういう街づくりをして、どういう社会を目指していくのか、というビジョンに各社の特徴が出る。
三井不動産であれば地方活性化で、沖縄のリゾート開発だったり、日本橋の歴史を活用した新しい街づくりにも取り組んでいる。NTT都市開発は地方の遊休地を使った地方創生。三菱地所は東京をアジアのビジネスセンターとすること。
他にも、鉄道会社が似たような街づくりをしている。鉄道は街と街をつなぐことで住宅からオフィスまで一つの大きな生活圏を作っている、広義のデベロッパーのような存在。東急不動産や小田急不動産のように、鉄道だけでなく駅周辺の開発にも積極的なところが増えている。
目指す社会のあり方が違えば、そこに作るビルの規模感や、中に入れるテナントの種類も全然違うものになる。例えば大規模商業施設と一口に言っても、ららぽーととプレミアムアウトレットでは全然違う。
デベロッパーは歴史ある大企業ばかりですが、大企業病のような課題はありますか?
確かに保守的な側面もあるけれど、それは悪い意味ではなく、意味のある固さだと思っている。たとえば世間的に高級感のある、歴史あるエリアで新しいことを始めることが必ずしもプラスにはならない。変なテナントを入れない、安心感のある物件をつくる、というのも重要だったりする。
大企業ではあるけれど、社員数が1000人前後とそれほど巨大ではないのも特徴。少数精鋭で人の循環も早いので、若い人の声も反映されやすい。社長から一般社員までの距離も近く、風通しがいい。
また、仕事柄、常に世の中の最先端の情報に触れているため、情報がどんどんアップデートされていく。ニュースを見て感じることと、ビジネスをしていて感じることがとても近い。
私生活で感じることも、全て勉強になる。他の会社が作っているエリアに行って友達とお茶するだけでも勉強になる。時間があればいろんな場所に行って、体験して、感じたことが、自分に蓄積されていく。先輩社員もみんなそうやって常に自分を磨きながら働いているので、大企業病にはなりにくい。
どんな街が好きですか?
世間的にできあがりつつある町に残っているテナントは面白い。たとえば六本木ヒルズのまわりとか、一本路地を入ったら小さなお店がいっぱいあって、都心にこんな店があったのか、という発見がある。
パッと見では完成されて区画整理されている場所でも、その土地にもともといらっしゃった昔ながらのおじいちゃんの店舗などがいっぱい残っていて、そういうところに残っている人たちには必ずこだわりがある。過去からずっと引き継いできたものがある。それを見るのがとても面白い。
(――私は昔ながらの個人店より、大規模チェーン店の方が好きですが)
それも大事。私も週3回はマックに行きます。安心感がある。それぞれのお店に意味がある。その店を利用する人にとってどんな意味があるのか、その意味を追求し続けるのが大事。それを考え続け、感じ続けることで、新しい街をつくっていく。
安心感のある安牌だけで構成された街もつまらない。時代が変化する中で取り残されてしまう。保守的に抑えるべきところは抑えつつも、チャレンジしていく面もあるべき。攻撃は最大の防御となる。
まとめ
ということで、非常にセールストークが上手い方だったので、何を聞いてもポジティブな返事がかえってきて、課題も愚痴も全然聞き出せませんでした。頭の回転が速い人はすごい。強い。
さて、今回のおまけパートでは、この方がどうしてデベロッパーという職種を選んだのか、これから日本はどのように成長していくと考えているか、について聞いた話を紹介します。
おまけ:これからの世界・これからの日本
1970年代、高度経済成長でいいものを安価に大量に生産することで日本は強くなった。今はものづくりからデータに価値が移って、GAFAが世界を席巻している。ではこれからの世界はどうなっていくのか。
スマホの情報だけではユーザー像は掴みきれない。いかにして良いデータを収集するか。より包括的にユーザーの生活を知るには、家電だったり、自動車だったり、そういった生活に密接したモノが重要になる。ものづくりを得意とする日本の企業は、これからまた強くなる。そういえば、同じ趣旨のニュース記事を最近読んだ。
Googleが自動運転の開発に失敗した。命にかかわるところは、しっかり安全を検証していく必要がある。ものづくりには保守的な側面が絶対に必要で、守るべきものをしつこいくらい守っているのが日本の良さであり強さだと思う。
そういう文化を伝えていくために、オフィスが必要になる。現状維持の仕事をするだけならテレワークでもいいけれど、新しい風を吹かせることはできない。人が集まって、交流が生まれて、年代を超えた、部署を超えた情報が伝達されていく。
なんとなく出社するだけならリモートワークでも変わらないけど、こうやって学ぶため、伝えるため、伸びていくためにオフィスが必要になる。だからそういう場所を作ることで、日本を成長させていきたい。そうすれば海外からも優秀な人が集まってきて、ますます意味のある場所になっていく。
(――そしてデベロッパーが儲かる)
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