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業界インタビュー13 建材メーカーの仕事

身近で働いている人にインタビューして、どんな仕事をしているのか、どんな課題を抱えているのか、といった話を蓄積していく企画の第13弾。建築業界シリーズとして、今回は建材メーカーの話を聞きました。過去ログは以下を参照。

建材は儲かりますか?

窓ガラスを扱っていますが、中国の安いガラスには太刀打ちできない。ペアガラスで遮熱とか高機能なものも出しているけれど、どうしても値段が高くなるので、それに価値を認めてもらわないといけない。雨風がしのげれば十分、という窓ガラスだと薄利多売。

確かに中国品などは品質が良くない。具体的には、よく見ると平滑じゃなくて少しうねっていたりする。でも気にしない人は気にしない。別に安いガラスだから割れやすい、とかではない。

ガラスは鉄鋼と一緒で、作りはじめたら止められない。立ち上げ・立ち下げにものすごくロスが生じるので、基本的に24時間作り続ける。そのため毎日何万トンものガラスが出てくる。これがはけてくれないと困るので、大量に売れる用途がないと難しい。

高機能なガラスにはどんなものがありますか?

ヨーロッパでは、カラーガラスが室内の内装によく使われている。カラーガラスは見た目がすごくきれいなので、ヨーロッパでは好まれている。でも日本では「ガラスの内装だと割れるじゃん」と言われるケースが多い。いや、窓ガラスだって割れるよね、といっても先入観で嫌がられてしまう。

高機能ガラスの多くは、ガラス表面にコーティングすることで機能を出している。例えばUVカットだったり、赤外線反射だったり。

美術館で絵を展示するところのガラスは、全然光が反射しないガラスが使われている。全然ガラスが見えなくて、そのまま絵に触れそうなくらいで、ガラスあったんだ、と驚くレベルのものもある。そういうガラスはちょっと高めの値段で購入いただける。

調光ガラス(透明/不透明を切り替えられるガラス)は以前からあるが、なかなか数量が出ていない。透明太陽電池を使って発電できる窓ガラスというものも世の中にはあるが、どれだけ売れているかは不明。新しいガラスのアイデアで、多孔質で湿気を吸ってくれるガラスを室内に使う、というものもあったが、調湿機能のある壁材がすでにあるので難しかった。基本的にはコストーパフォーマンスのバランス(コスパ)になるので、どんなに機能があっても価値に見合った価格でないと買ってもらえない。

もっと新しい所では、スピーカーのように音が出るガラスとか、とか、プロジェクタを映せるガラスとかもある。こういうものは、やっぱりガラスならこれくらいの価格のレンジだよね、という概念から外れられるかもしれない。

顧客は何を求めていますか?

窓ガラスの機能は、雨風をふせぐことと光が取り込める(外が見える)こと。一方で、家の中の熱が失われるのはだいたい窓ガラスから。そのため、断熱性能を高めたペアガラスなどもあるが、断熱性能が3倍になったからといってどれだけ価格に転嫁(顧客に訴求)できるかは分からない。

顧客に「こんな機能があったらいいと思いますか」と聞いたら、誰だって「あったらいいと思う」と答えてしまう。だから聞き方には注意が必要。たとえば「住環境で困っていることはなんですか」と聞いたりする。

今は機能ではない別の軸にも注目している。気持ちいい、快適、健康といった、人を幸せにする、人を癒す効果を提供できないか。そういった新しい家のコンセプトはハウスメーカーさんも考えているところがあるので、そういった方々と協力しながら、実際にどういうものを作ったら効果が発揮できるか検討しようとしている。

新規事業に限らずだが、エンドユーザが喜ぶものでないとダメ。たとえば住宅周りで言えば、外壁用の塗料などは、耐久性の高い塗料は難しかったりする。普通は10年で塗り替えなきゃいけないところが30年もちます、でも値段は3倍です、といっても「本当にそんなにもつの? 普通のでいいや」と選ばれないことも多い。施工屋さんにとっても、10年おきに塗りなおしてくれた方が儲かるので、長持ちしない方が嬉しいかもしれない。

家の外装はそんなに掃除しないので、お客さんに保守点検の煩わしさをどれだけ訴求できるかは難しい。それよりも、例えば油汚れがつきにくくて毎日のキッチンの掃除が楽になります、床掃除も楽になります、といった方がリアリティがある。

うまくいった新商品はありますか?

素材で新規事業を成功させるのは難しい。日本企業はだいたいハイエンドの商品開発をしたがる。性能で勝って高く売る、っていうけど、実際は高くて買ってもらえないことも多い。

例えば、特定のお客さんと組んで素材開発した場合、そこの会社さんにしか売れないと、素材側としては量が出ない=価格がある程度までしか下がらない。一方で、競合他社さんに売ると差別化できなくなるから困るというジレンマがある。組んだ相手と一緒に、市場全てを席巻するくらい売りまくるしかない。

だから新しい市場、今までになかった市場を作りたくなるけれど、それもやっぱり難しい。世間的には、蜘蛛の糸のような細くて強い繊維のスパイバーとかが成功事例と言える?のかもしれない。

シーズとニーズ、どちらからアプローチしたらいいかと聞かれても分からない。どっちからやってもそんな簡単にはうまくいかない。ただ、アイデアを世に出して問わないと始まらないことだけは確か。ものがなくても、コンセプトだけで話をする。塗料で言ったら、発色が長持ちしますとか、さらに臭いも取れますとか、そんなレベル感で話を聞いていくこと。新規事業はほぼ失敗するから、事前に社内で練り上げたって時間がかかるだけ。

最近、物の価値が分からなくなる。たとえば水酸化ナトリウムは塩を電気分解して作るので、ものすごく電力を消費しているのに、1kgあたり数十円。一方ペットボトルに入った水は500mLで100円(つまり200円/kg)もする。大量の電力で作った水酸化ナトリウムが水より安い。素材の価値ってなんなんだろう、って感じる。

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