脳のないナマコから学べることってあるの⁉ 生物学者に聞く
生き物なのに、目もなければ鼻もない。それどころか、心臓や脳みそもない。群れを作らず、海のなかでただ砂を食べているーー。それが、ナマコです。
脳がないということは当然、悩みもないということ。それってある意味、究極の生き方では? もしかして、ナマコから学べることがあるのでは? そう思いたって、生物学者・本川達雄さん(70)に会いにいきました。(土井大輔)
※この記事は2018年5月28日、ひとりを楽しむメディア「DANRO」で公開されました。
本川さんは、ナマコ研究の第一人者。東京工業大学の名誉教授で、ベストセラーとなった『ゾウの時間 ネズミの時間』の著者としても知られています。
ーーナマコには脳がないということですが、「脳のない生物」がいること自体、感覚的に理解できないというか、うまく飲み込めません。
本川:脳というのは、神経細胞が集まった塊です。目からの入力に対して膨らんでいる部分があったり、鼻からの情報に対して膨らんでいる部分があったりして、感覚器官につながっているのです。ナマコのように感覚器官のない生物には、それがいらないわけです。
ーーまさに「無神経」ですか。
本川:ナマコにも神経はあるんです。ただ、それを処理する、いわば大規模なコンピューターがないんですね。
ーーそうだとすると、結局、ナマコは「進化」したのですか? それとも「退化」したのですか?
本川:退化といえば退化なんですが、ナマコやウニ、ヒトデなどの『棘皮(きょくひ)動物』は、動かなくていい生活をするようになったんです。砂についた栄養をとったり、流れてくる微生物を身体のなかの『網』で濾(こ)して食べたり。それにともなって、脳なんか、なくなっちゃった。
ーーなんとも不思議な生物ですね。
本川:それでもホヤやナマコ、ヒトデなどは、昆虫なんかと比べると、僕らヒトと非常に近い生物です。ヒトとナマコはいわば同じ系統でありながら、神経を発達させるかさせないかで両極端にいっちゃったんですね。
素粒子と文学の「真ん中あたり」で動物学に
ーー本川さんは、なぜナマコを研究することになったのでしょうか?
本川:沖縄が本土復帰してから7年目に、琉球大学の研究施設に行ったら、その近くの海にナマコがたくさんいたんです。なぜ沖縄に行ったかというと、東大での助手時代、「若い研究者を沖縄に送ってほしい」という話があったからです。
ーー自ら志願したんですか?
本川:学生運動のとき、あれだけ沖縄の本土復帰を訴えていた人たちが、誰も手を挙げないんです。学生運動を引っぱっていた人たちは頭が良かったから、変わり身も早かった。それに腹が立って、僕が手を挙げたんです。行ってみたら、機材はない、学生がいない、研究用のマウスを手配する流通もない状態で、大変でした。
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