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「まるで、温泉に入って緩んでいくかのようなプロセス」実践型対話スクールDANRO Springファシリテーター 岡田裕介さん
人と人とのつながりの中には、”目には見えない温かさ”がある。その温かさが増し、循環する時、きっと、世界は今よりもっと明るくなる。そんな想いから『深いつながりを紡ぐ、実践型対話スクールDANRO』は生まれました。
2025年春、7期目となる「DANRO Spring」開催にあたり、ファシリテーターを務める 岡田裕介さん に、DANROスクール卒業生でもあるインタビュアー廣田彩乃 がお話しを伺いました。
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沐舎 創業者/文化資本研究所 理事
石川県出身。立命館大学を卒業後、新卒で株式会社パーソルキャリアに入社し、採用コンサルティングに従事。退職後、オルタナティブスクールを運営する教育系の一般社団法人を共同設立、ソーシャルセクターにおける持続可能な経営モデルを模索。退任後、ポスト資本主義の具現化を目指すNext Commons Labに参画し、ローカルベンチャーの起業支援に携わる。その後、株式会社THE COACHに取締役として参画。THE COACH ICPのカリキュラム開発・R&D等の管掌を経て、代表取締役を歴任。退任後はコーチとして関わりながら、一般社団法人文化資本研究所を共同設立、理事に就任。茶道に代表される日本文化に息づく精神性とコーチングの交点を探究。2024年には、沐舎(もくしゃ)を創業し、人に本来ある純粋性を解き放つプログラム「ライフアウェアネスプラクティス(LAP)」を提供している。国際コーチング連盟認定コーチ(PCC)
時代の変化/合理的、生産性を求めた先
━━事前に岡田さんの経歴などを拝見しました!…が、今世だけで人生何周されたんだろう?と思うくらい情報が多く「つまり、何をされている人なの?」とシンプルに気になって、今ここにいます(笑)
岡田さん:そうですよね(笑)何をしているかを答える前に、ひとつ明確にある僕が生きているなかで向き合いたいテーマをお伝えすると「自由」なんですね。
令和の時代を、人が自由に生きていくということはどういうことなのか、それをどう表現して事業にするのか。これが僕の活動の根幹にあります。
余談ですが、2024年に設立した『沐舎(もくしゃ)』も『moksa』というサンスクリット語で自由、解放、悟りという意味があり、インドを起源に古くから東洋に伝わってきた哲学的概念として知られている言葉で。
古くからあるこの概念を「今の時代に置き換えるとなんなんだろう?」と、そこに紐づく事業としてライフアウェアネスプラクティスというプログラムを提供したり、文化資本研究所の理事やコーチ業をしています。
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拠点を構える石川県の茶房で仕事として始めました。
━━なるほど。総じて”生きることの本質”を長年探究され続けてきた印象を受けました。解放と自由を言い換えるなら「ありのまま」とか「自分らしく」とも呼べるかと思いますが、ここ数年特に耳にしてきた言葉だなと個人的に感じていて。岡田さんは、今の時代になぜ「解放」と「自由」が求められてきているのかと思いますか?
岡田さん:大事な問いですね。これはいろんな角度から言えると思いますが、時代として、感じることとか感性だとか人間らしさというものがますます大事になってきているなと。これは(歴史の話になりますが)遡ると明治時代以降の近代化がひとつの転換点になっていると思うんですけど。
世界的に工業が発展して、日本にも明治維新以降、西洋の文化や哲学が入ってきました。経済成長にともなって、人が人らしくというよりも工業化していく流れですね。
こうした感じることよりもいかに合理的に考えるか、効率的に考えるか、という機械論的な世界観が広がった時代背景が、結果として人を道具として見るようになるきっかけになっていたのかと。
現在の学校教育にも工業化の名残りがまだ強くあるように、合理的な考え方で経済が発展した。一方で、人間らしさの部分が弱くなったり失われていった側面もあるんです。
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━━確かに。暮らしがどんどん便利になってAIも活躍する今、「このままでいいのか?」と、ますます”人として生きる意味”を問いかけられる機会が増えたように感じます。
岡田さん:「人はどう生きていくのか」というところがより注目されたり、機能的な生きやすさではなく一人の人間としての生きやすさが求められつつあるのも、こうした背景があるからだと思いますね。
対話やコーチングというものがこれまで以上に求められるようになったのも、この大きな流れから来ているように感じます。
人がより自由になっていくというプロセスに寄り添う
━━すでに個人や事業を通して対話やコーチングに携わられている岡田さんが、今回なぜDANRO Springのファシリテーターを務めることに?
岡田さん:大袈裟かもしれませんが、僕は人が自由になっていくというプロセスに、自分の時間を使っていくということが今世の役割だなと感じていて。THE COACHや沐舎など、表現は変われど共通してそれをやってきたように、DANROもそのひとつだなという感覚なんですね。
━━根幹にある想いに違いはない、と?
岡田さん:そうです。もともとDANROとは、代表のHIROさんとTHE COACHという会社が始まる前くらいからのお付き合いで。
「なにかしたいですね」という種火がすでにあって、定期的にディスカッションを重ねていた2024年10月。DANROで『哲学対話』を開催させて頂いたことが、初めての共創の場になりました。
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岡田さん:それを機に、さらにDANROという器と人達とつくる場所に興味が湧いて。これまでとはまた違う人達と出会える、そこで生まれる化学反応が見てみたいなと思ったんです。
━━なるほど。……あの、すごく今さらなんですが「哲学対話」ってそもそも何なんでしょうか?
岡田さん:それも大事な問いですね。シンプルに言うと「深く自分を知る」ということなんですけど、何か自分自身の実態だとか命そのものとの対話を通して、その人自身に必要なプロセスが始まっていく手段なのかなと。
━━(分かるような、分からないような……)
岡田さん:もう少し言葉にしてみると、究極的に一対一で行うコーチングも、複数人で行う哲学対話もやっていることは同じで「その人がより自由になっていくためのプロセス」だと思っています。
「哲学対話」考えることと感じること
岡田さん:あるテーマをもとに対話するというプロセスを通して、これまでの自分が背負ってきたものを降ろすことができたり、誰にも言えなかったことを外に出せたり、解放されていくことによって自分自身の本音に気付きはじめる。
自分を制限していたものをほどく(自由になる)ことで、より本来の自分を生きていけるようになる。哲学対話は、それを支えるものという感じですかね。
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岡田さん:僕もある時、西田幾多郎(哲学者)の西田哲学を専門にされている方に「哲学ってなんですか」と尋ねたところ「考えることだと思います」と言われたことがあって。
哲学対話とは哲学的な問いに対して自ら考える、ということだと思うのですが、僕はこの『考える』という行為に至る前の『感じる』がとても大事だと思っていて。
━━と、言いますと?
岡田さん:うーん……。仮に「考える」ということを表面的に捉えると「感じること」は対極にあるように感じませんか? 同じように、思考と感情も対比されるもののような。
僕が囲みたい場は、頭で考えることだけではなく「自分自身がなにを感じているのか」それに言葉を当てていく感覚に重きをおいているというか。場合によっては、考えることそのものを手放していくという感じもあるんです。
━━感じるものがあるから思考が湧いてくるというプロセスは、対話の場でよく体感しています。一方で「感じているようで、実は脳(思考・情報)が働いていた」ということも多々あるなと…。実際、今朝の私は、脱同一化の瞑想をして「感情だと思っていたものが思考だった!」というプチパニックを起こしていました(苦笑)
岡田さん:確かに。これは余談で、同じく西田幾多郎の『純粋経験』がそれなのかなと思います。人間の実態とはなんだろうと哲学してきた彼曰く「言葉が当たってる時点で、それは思考である」と。
なにか身体が感じて、頭がそれを「こう感じている」と言語化する。それはすでに感覚ではなく思考になっている状態で、さらに「言葉にならない」感覚を「言葉にならない」と言葉にするのもまた、すでに思考になっていると……。
これも考えすぎていくと延々と終わりがない気がしますが(笑)
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━━「あれ?これって感じてる? それともすでに思考なの…!?」って、困惑しそうですね(笑)
岡田さん:頭で考えたり本来の自分を突き詰めようとするほど、人はどんどん自分探しの迷宮に入って分からなくなりますよね。でも、今の世の中にある自己分析とか、自己探求って”思考的なもの”が溢れていると思うんです。
純粋な自分を生きるために、自分を脱落させていく
岡田さん:最近ベストセラーになった「自分とかないから」が売れているのも、まさに時代だなと。東洋的な考え方だと、自分というものは本来なく”関係性のなかでしか存在しない”ことになるんですね。
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岡田さん:例えば、【DANROのファシリテーターとしての僕】は、今この場に【DANRO】や【インタビュアーの彩乃さん】がいなくては成立しないことになる。僕が存在するというよりも「関係性が僕を表す」というのが東洋的なものなんです。
自分だと思っている自分はある意味空想であり、そのフィクションを脱落させていくと、そもそも自分は今、すでに純粋な自分であったということに気づく逆説的なプロセスがあると思います。
本当の自分は探せば探すほど見失っていきますが、本当の自分を探したくなる根元をみていくことができれば、本当の自分は現れてくると。
━━誰かがいないと自分の存在を認識できないのではなく、自分そのものを見つめていくということでしょうか?
岡田さん:そうですね。自分のなかにすでにある恐れや怖さを見つめていくことで、フィクションは溶けていくと。
人はやっぱり社会に適応できないと怖いので、周囲から『あなたってこんな人だよね』とか『こう生きていきなさい』とかいろんなフィードバックを受けて、仮面をたくさん作っていきます。逆説的ではあるけれど、結果的に恐れに囚われなくなれば、仮面をつける必要もなくて。
リラックスした状態に繋がり、さらに自分自身を感じやすくなっていけば、自ずと純粋な自分を生き始めるのだと思います。
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━━…本来の自分が土偶くらい小さな人だとすると、いろんな泥(経験や情報や思考など)を浴び続けて身体が大きく、重くなった状態が今の自分の姿だとして。対話によってその泥が洗い流されて削がれた先に、シンプルな「自分」がいるようなイメージが湧いてきました。…なぜ例えに土偶が出てきたのかは分かりませんが(笑)
岡田さん:大事なメタファーだと思いますよ(笑)でも、本当に本来の自分ってシンプルだと思うんですよね。それに気付くだけで、だいぶ楽に、生きやすくなると思うんです。
「よきかな」DANRO Springのフィナーレは、千と千尋の神隠し?
━━最後に、このDANRO Springはどんな時間になると思いますか?
岡田さん:そうですね。願いとしては、参加する人がどんどん楽になっていくといいなと。この約3ヶ月で対話はもちろん、瞑想や身体へのアプローチ、アートワークだったりいろんなことをしていきます。それを通してその人がよりその人らしくなっていく。そんな体験が起きてくるといいなと思います。
━━岡田さんは、その人らしくなっていく様を目にした時、どんな感覚が湧いてくるのでしょう?
岡田さん:なんでしょうね…。でも、癒された感じになるかもしれませんね。
━━喜びとか嬉しさではなく「癒し」なんですね?
岡田さん:僕は、ホンモノに触れると安心した感覚になるんですよね。別にそうならないといけない訳ではないけれど、やっぱり真実が現れる時って「あぁ、よかった」って感覚になるんです。
メタファーが合っているかはわかりませんが、まるで温泉に入る時のような。何か力んで、踏ん張って、頑張ってるところから温泉に入るとすごくリラックスしてほどけていく感覚になるというか。
今思い浮かべたのは、まさに千と千尋の神隠しの「よきかな」ですね。
━━! あの名シーンですね!?
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(画像引用:アニメ探訪)
岡田さん:このシーンのプロセスとすごく近しいかなと思うんです。人間が川に投げたゴミが身体に同化して「腐れ神」と間違えられるくらいになったけれど、様々なものの手で身についたものを洗い流したり削ぎ落したり。最後は真実の姿で、リラックスした状態になる。
こうやって、その人が変わっていくというよりも、真実(=本来の自分)に出会いはじめると、頑張る必要がなくなってどんどん力がほどけていく感覚になると思うんです。
DANROスクールもまさにこの「よきかな」エンディングで、自分の一部になっているものをひとつひとつPRACTICEや実践を通して置いていくことができる時間になればと思います。
インタビューを終えて…
お話しを伺う直前、実は私(筆者)はちょっと緊張していたんです。でも、話をすればするほどに身体の力がほどけ、最後にはまるで温泉に入っているかのような体感の変化を味わっている自分に驚き!「な、なんなんだこの人は…!!」と強い衝撃を受けました。
それくらい、岡田さんが体現されている「解放」が佇まいにも滲みでていたように感じます。
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「自分を知る=解放、自由」という簡単な方程式ではなく、知っていくと解放されて、知っていくと自由になる瞬間がある。その瞬間を意識的に日常に取り入れていくことによって、本来の自分が持つシンプルな使命(生きる喜び、楽しさ)に気付きやすくなるのではないかなと感じます。
DANRO Springの最終日。みんなが全く同じ温泉の温度で、全く同じ身体に力みのない状態でいることは、一人ひとりが違う人間だからこそ起こり得ないかと。ただ、少なくともスクールに入る前よりも力みの抜けた状態で、生きやすくなる姿が目に浮かびました。(インタビュー/執筆:廣田 彩乃)
\実践型対話スクールDANRO Spring詳細はこちらから/
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\ 体験会日程はこちらから /
①2/1(土)20:00-21:30
②2/8(土)20:00-21:30
③2/15(土)20:00-21:30
DANRO公式LINEより、【スクール説明会】とお送りください。
DANROについて
「日常に対話を、対話を文化に。」をスローガンに掲げるダイアログカンパニー。私たちがともにこの世界に生きていくために、人、自然、社会など全体性を探求しながら、循環し合える空間を創造しています。
実践型対話スクール、DANRO CHILDREN、自己を探究するダイアログコミュニティの運営などを行う。その他対話を軸とした事業を展開。
取材・執筆:廣田彩乃(インタビューライター、パーソナルコーチ)
”自分の人生が愛おしく思える瞬間を、日常に増やす”ことをMISSIONに、人生の棚卸や感情の言語化に携わるインタビューライター、パーソナルコーチとして活動中。自分が満たされたその先に、大切な人との「今」をもっと大切にしたいという循環を後押しすべく、家族の物語を1冊の本にする家族向けのインタビューサービスも行っている。Instagram