55歳 バツ2男と高校野球(完結編)
「〇〇高の兄ちゃん達のようになる」・・・
小学生の頃テレビで観た甲子園、地元の高校の兄ちゃん達の
汗と泥にまみれた戦いぶりに感動し、あこがれた夢の舞台、甲子園
テレビで観た、華やかでまぶしい程に輝いで見えた高校野球
その現実は、決して甘いモノではなかった
不安
先輩からの理不尽なシゴキ、過酷な日々の練習、辞めていく友達
自分も辞めたい と思う心の葛藤
なんとかツライ時期を乗り越えた!
ベンチ入りをして先輩の戦いぶりを間近で見る
控えではあったが、高校野球と言うモノを肌で感じ
グラウンドを踏みしめることができる喜びを実感した
そして・・・いよいよ来た自分達の時代
最後の夢舞台への挑戦!!!
最後の夏へ・・・と言う矢先の監督交代
あと3ケ月しかないのに・・・???
あれから37年もの月日が流れた、今 思い返してみても
あと3ケ月しかない中での監督の交代は酷だったな~って思う
本来ならば、レギュラーメンバーもある程度固定され、
練習試合などの実戦練習を数多くこなし
よりチームとしての完成度を高めていく
監督の目指す野球も理解し、自分達のチームの強みも弱みも理解し
ケースbyケースでのより深い連携プレーなどをこなして
個々のレベルアップに励む
そしてチーム一丸となって気持ちを一つにし、最後の大会に挑む!!!
僕、個人にしても
バッティング、守備、課題はたくさんあり 夏までに
やりたいことは山ほどあったのに・・・・
3ケ月なんてあっという間なのに・・・・
この時期に、新しい監督がくる・・・
不安でしかない・・・
どういう人なのだろう・・・?
厳しくて怖いタイプの監督なのだろうか?
優しいニコニコタイプの監督だろうか?
どんな野球を好む監督なのだろう?
攻撃重視の打ち勝つ野球か?
守備重視の1点を守りぬく野球か?
ここまでやってきた僕たちの野球に理解はあるのか?
そういうの一切関係なく自分のカラーを作っていく監督なのか?
果たして俺はこの監督の元でレギュラーを獲れるのか?
やはり不安しかない・・・みんなも同じ思いなのだろうか?
新監督
夢舞台、甲子園に向けての最後の挑戦
県予選大会まで あと3ケ月・・・
ここに来て
なんと、また横一線・・・
レギュラー獲りから始めなければならないなんて・・・
人生ゲームで言うなら、また振り出しに戻された気分だ・・・
そして4月・・・新しい監督はやってきた
第一印象は「若い・・・」だった
前監督のヤンも他校の監督に比べれれば若いほうだな~と思っていたが
更に若い・・・
30代後半だったと思う
そしてスマートで背が高い、顔は童顔でイケメンだ
失礼な言い方だが、
高校野球の監督と言うイメージには似つかない感じ
女子高生が居たならかなりモテであろう
(残念ながらウチは男子校)
僕たちと同じように練習用のユニフォームを着てグラウンドに入って指導するのだが
遠目から見れば誰が監督か わからないと思う
他校の監督や甲子園に出てくる監督はみなイカツイ人ばかりだ・・・
身構えて、少々ビビりながら待っていた僕らとしては
ちょっと拍子抜けした感じだった
逆にこの監督で大丈夫なのだろうか?と
不安を抱くほど穏やかな雰囲気をまとった監督だった
ところがこの監督・・・先に言ってしまうと
とんでもない監督だったのです!!!
僕らが卒業した何年か後には母校を甲子園に出場させます
そして常に優勝候補の筆頭に挙げられる強豪校にしてしまいます
更に何年か後に他校に移り
その移った当時の弱小高校をあっと言う間に強豪校にしてしまったのです
のちに県下でも有名な名将として名を馳せる名監督に
僕らは、今、出会っている・・・
当然、その当時の僕らにはそんなことはわからない
いきなり驚かされる・・・
なんと野球部3年生の部室に入ってきて僕ら3年生と一緒に着替えだしたのだ
「今日から俺もここで着替えるから、よろしく」
は~?・・・いやいや
急にそんなこと言われても・・・???ってな感じだ
部室と言えば俺たちの憩いの場だ
ましてや3年生ともなれば、この狭い空間の世界では
「神」だ!
特に当時の野球部の部室は他の運動部の部室とは違い、離れたところに
あり、学校の敷地内の端っこにポツンとあったのだ
なので、どんなに騒ごうが、大声を出そうが先生に注意される
なんてことはない
1年生の時はそれが、怖かった・・・
2年生になり恐怖はなくなったが、まだ3年生には気をつかう
3年生になれば、気にすることは、何もない!
部室は「楽園」なのだ
授業中の面白かったことや、ムカついたこと、先生の悪口など言いたい放題
校舎から、かなり離れているから先生が、いきなり入ってくる心配はない
昨日、観たテレビの話、他校の女の子の話、男子特有のエロな話
もちろん野球の話や悩みとかも話す、ケンカもすることだってある
今、思い出しても部室のワンシーンは青春の別冊特大号みたいなものだ
その「楽園」に監督が入ってくる
ん~・・・さすがに違和感でしかない・・・
授業が終わり、部室に来て グラウンドに出るまでのひと時のやすらぎ
ユニフォームに着替える間の短いバカ話をする時間・・・だったのに
し~ん・・・(静まりかえった部室)
黙々と着替えグランドへ
監督が「気にするな、いつも通りにしゃべっていいぞ」
・・・(しゃべれるか~)!!!
監督が着替えて、居なくなると
止めていた息を吸うように、しゃべりだす(笑)
今、思えば、監督も色々考えての策だったのだろう
あと3ケ月で3年生の最後の大会に挑まなければならない・・・
いかに早く、3年生部員を知り、また自分を知ってもらうか
このチームの監督として信頼され、受け入れてもらうか
僕ら以上に最後の夏の重要性を考えていてくれていたのかも
しれない
とにかく時間がない!
あと3ケ月と言う短い時間のなかで、若い新監督は
とてもアグレッシブに、そして丁寧に指導してくれた
不安に思っていたチーム構成も、チームカラーも変えることなく
今までをそのまま継承していく、この思いが
とても嬉しく、僕たちもすぐに新監督を受け入れることができた
前監督のヤンは、前に言ったように褒めない監督、いいバッティングをしようが、うまく守備をしようが、黙って見守る感じ
新監督は逆で、よく褒める・・・
「ナイスバッティング!」「いいスイングだ~」・・・など
しっかり声にだして褒める
そして、そのつど 今からやる練習メニューの目的と重要性を
説明し、うまくいかなかった時は なぜうまくいかなかったを
考えさせ、うまくいくまでやる
特に僕が印象に残っているのは「ひざ」の使いかただ
守備における「ひざ」が重要でよく指導された
「ひざが固いな~」「もっと柔らかく!意識していこう」
「だめ~もっと、ひざを柔らかく、もっと柔らかく意識しよう」
(ひざを柔らかくって何~?どういうことなん?)と思っていたが
あんまり、しつこく言われるので
勝手に頭の中で・・・自分の「ひざ」はゴムだゴムだ柔らかい、クネクネだ
みたいなことをイメージしてやったら
「いいね~その感覚で行こう」
(ほんとかよ~今のが正解なん!!!)ってな感じだ
でも不思議と、守備につくたびに(俺のひざはゴムだ柔らかい)と
自分にいい聞かせて臨むと変に安心して、どんな打球にも対応できた
(エラーしない呪文のようになった)
バッティングには、柔らかい「ひざ」に+「腰」が加わる
「はい!ひざを柔らかく意識して~そこで腰で打とう~」
「ヘソで打つイメージで腰をまわそう」
監督曰く、柔らかい「ひざ」を意識すれば、どんな球種にも対応できるようになる、そして狙った方向に打ち分けられるようになる
下半身のパワーをバットに乗せるには「ひざ」+「腰の回転」
これがスムーズにできるようになれば
強い打球を打つことができる!
さらに遠くに飛ばすことができるようになる!
漠然と打つ練習をしても上達はない、しっかり意識すること
が大事
「その外のコース、今打てなかったよね、ひざが固いからだよ
もっと力を抜いて、ひざを柔らかく意識するようになれば
今のコース打てるようになるよ~」
こんな感じに、その都度アドバイスしてくれる
声を、あらげて怒ると言うこともない
たまに冗談も言う・・・
新監督は 練習前、練習あとの柔軟体操をたっぷり時間を
かけて行う、柔軟体操のメニューも豊富
今まではみんなでランニングして、準備体操程度のアップだった
それが、これも練習メニューの一つと言う感覚で
しっかりやる・・・確かに、ケガの防止!
柔軟体操だけで身体がホカホカしてくるし、すぐ全力で動ける筋肉になる
そして一番変わったことはしっかりミーティングをすることだ
特に雨の日(雨の日 以外もする)
今までの雨の日の練習と言えば、
雨に濡れない渡り廊下などで、
筋トレ、素振り、ランニング(豪雨以外は走っていた)
それなりにハードなメニューなのだが、それが終わると練習は終わり
早く帰れると言うモチベーションで頑張れるのだ
新監督は教室を借りてガッツリ ミーティング!
筋トレも何もしないので楽~って思えるのだが
とても貴重な時間だったと思う
黒板を使って、戦術や作戦の話だったり
配球の中での狙い球の絞り方、サインプレーの確認
その場面での考え方、ランナーを進めるバッティングとは
場面ごとのピッチャー心理、
更に、すぐにエネルギーになる食べ物、筋肉にいい食べ物
疲労を回復する食べ物、効果的な水分補給のしかた
試合の前の日にアドレナリンが出て眠れない時の対処法
試合前の日はこれを食べるといい
試合当日の朝はこれがいい、 とか・・・
今の時代では、多分 当たり前のことなのだろうが
当時は まだ栄養学みたいなことは全く考えたことがなかった
試合の前の日なんて、試合に勝つようにトンカツ・・・だったりする
他にも、試合前には必ず、グランドの土の固さ、風の強さ、向きを
頭にいれる・・・
(土の固さは、ゴロの処理に影響してくるし、風の強さ、向きは
フライの処理はもちろんだが、ピッチャーの変化球の曲がり具合も
影響してくる)
など、今まで漠然と考えていたことを、しっかり活字として頭に
たたき込む、当たり前を確実に認識させる 意識づけ
これだけでも野球は変わっていく・・・納得である
理論的な話から精神論的な話、自分のピソード話まで
幅広く話してくれた
新監督のミーティングは、とても興味深く 熱心に聞いた
記憶がある
最後の夏
あと3ケ月と迫った中での監督の交代・・・
野球部の長い歴史からみれば、この後の(僕たちが卒業してから)
強くなった母校の結果だけみれば
この3ケ月なんて、たいしたことのない
ほんの1ページにすぎないのかもしれない
でも僕たちにとっては、とても大きな出来事だった
動揺し戸惑いもした、反発もした
最初の頃は監督の言うことが理解できずに悩んだ
今までの監督の野球を継承してくれたとはいえ
指導の仕方も違うし、今までの考え方を否定されたりもする
練習の一つ一つが変えられて、戸惑いながらの日々
練習試合では、なかなか結果がでず
更に不安になる
このチームになった時は、強豪校からも警戒される存在だった
それなりの結果も出して、今年の○○高は強いぞ とまで言われる
ようになった
なのに、グランドでプレーする僕たちの気持ちは、ほんの
何か月前とは全然違う、
あんなに自信に満ちて、どの試合にも勝つ気満々で臨んでいたのに
大袈裟ではなく本気で、もしかしたら「甲子園」に行けるかも
と思っていたのに
なかなか歯車がかみ合わない
どんなに強がってみても、やはり高校生
精神的な不安や迷いは、すぐパフォーマンスに影響してしまう
その間にも他校の情報は次々と入ってくる・・・
他校は夏に向けそれぞれが確実に力をつけ前進している
それに比べて俺たちは、その場で足踏みばかりして全く進んでいない
そんな思いが気持ちを空回りさせる
そして時間だけが無情にも過ぎていく
新監督との信頼関係を築くには、あまりにも短い時間だった
そして来てしまった・・・最後の夏
状況はどうであれ、小学生の頃から、あこがれた
甲子園への最後の挑戦
期待をふくらませて、入部した高校野球!
しかし、恐怖と絶望と落胆(これが高校野球なのか?)
でも、しがみ付いた・・・
なんとかしがみ付いてやっとここまで来た
今日この日のために・・・
結果はどうであれ
悔いのないように戦いたい
一年の時から、苦しいツライ時期も励まし合って頑張ってきた
仲間たちと、まだまだ野球がしたい
その一心で臨む
そして高校球児たちの熱い夏が始まる・・・
地区予選大会の幕はきっておとされた
一回戦は5回コールド勝ち!!!
打線爆発
ここまでの不調がウソのように快勝した
そしてクライマックスは早くもやってくる・・・
優勝候補との対戦!
第1シードだ!
いきなりラスボス登場!!!
甲子園にいくためには、必ず倒さなければならない相手だ
早いか、遅いかだけのこと
今までの対戦成績は、
公式戦ではなし
練習試合では1試合、接戦で負けている
でも、僕たちは1回戦を戦って勝っている
勢いがある
向こうは初戦、どんなに強いチームでも初戦は難しいものだ
そういった意味では相手は強いかもしれないが、五分五分だ
しかし、うちのチームには不安材料があった
それはエースのシゲだ
実は・・・大会に入る前に脇腹を痛めて完治していない
1回戦は温存、投げてはいない
今日に間に合うように調整してきた・・・とはいえ
投げてみないと分からない状態だ
昨日の様子だと、まだ全力では投げれなそうだった
うちのチームの前評判の高さはエースのシゲあってのことだ
今日の試合、勝機を見出すためにはシゲの頑張りは欠かせない
試合は本日の第3試合、今日、最後の試合
一余、ちまたでは、2回戦 屈指の好カード
さすが優勝候補、全国的にも有名なあのユニフォームから強さが
滲みでている
当然、甲子園を狙っている
こんなところで負けてたまるかオーラが全開だ
これだこれなんだ・・・
野球の強い、伝統校と言うか、古豪と呼ばれる高校は
まず、ユニフォームで威圧される
2回戦の好カードと言うことで一般の観客も多い
そして守備につく強豪校に大歓声の拍手と・・・
それと別に、驚きのザワつき・・・
ベンチに構える俺たちも、思わず・・・「マジかよ・・・」
なんとマウンドにあがっているのは、エースではなく
背番号「18」・・・
控えで登録したであろう、1年生ピッチャーだった
緊張が高まる中、プレイボールを知らせるサイレンが鳴り響く
今の時代の高校野球は継投が当たり前
1試合を複数のピッチャーで戦い勝つ
テレビで観る甲子園でも、プロ野球のように、先発、中継ぎ、抑えと
役割分担を決めて投手起用する高校も珍しくない
しかし37年前の時代の高校野球は、まだエースが完投を目指し
勝てば連戦連投する野球が主流
負ければ終わりのトーナメント戦、
控えのピッチャーを投げさせるなんてことは
よほどの格下相手である時ぐらいでしかない
確かに相手は第1シードの強豪校、その相手からみれば俺たちは
格下なのかもしれない
が、しかし・・・
地元新聞の大会前によくある、優勝予想みたいな
大会の展望記事では
ウチの高校を大きな活字で「ダークフォース」と紹介して
くれていた、今日の試合に勝てばその勢いで優勝まで行くかもしれない
その力は十分にある、とまで書かれていた
なので、いくら格下とは言え 1年生ピッチャーを、もっと言えば
つい何ヶ月まで中学生だったピッチャーをぶつけてくるような
実力差なんて、ありえない・・ビックリ、ショック、怒り
普通に「なめられた!」と思った
しかし、これも何年か後に分かるのだが・・・
この相手の1年生ピッチャー・・・とんでもないピッチャーでした
1年後?(記憶が定かではない)
甲子園に春、夏、出場し活躍、全国区のピッチャーに・・・
そしてドラフト1位指名によりプロ野球選手となり
一時代を築くほどの大投手として活躍するという・・・
とんでもない怪物だったのです
当然、そんなことなど知る由もなく試合開始・・・
・・・・・現実は厳しい、漫画のようにはいかない・・・
やはりシゲの調子はよくないようだ
セカンドから見る、いつもの光景には躍動感が感じられない
もう、この位置から何十っ試合も観てきているのだ
調子の良し悪しはすぐ分かる
序盤の3回を終わって0-7・・・
一方的な展開だ
何が何だかわからない、次から次へと打たれた!
いつの間に7点も取られたのか覚えていない
なお相手打線の勢いは止められない、5回コールドもありえる
(5回コールドは10点差)
相手チームは1年生が投げるということで、上級生が守る、みたいな
楽に投げさせてやる、みたいな、プラスα的な要素が加わっているのか
気迫がすさまじい
でも、なんとかギリギリで凌ぐ・・・ランナーは出しながらも
追加点は与えず・・・5回コールドは回避
でもこのままなら7回コールドが成立してしまう
(7回コールドは7点差)
この試合展開をつくったのは・・・
間違いなく、あの1年生ピッチャー
悔しいが、見事な投げっぷりだ!!!
僕は1番打者、まず僕が1年生ピッチャーと対峙する
第1球目・・・今でも覚えている
外角高め、浮き上がってくるようなストレート!!!
少し、高いと思って見逃した
でも判定はストライク!
「速っ!」
僕は、高いと思って見逃したのではなく
速さにビックリして手がでなかった
果たしてこの時代にスピードガン表示がされていたら
一体何キロ出ていたのだろう・・・
3球3振・・・ボールにカスルことすらできなかった
スタンドは、驚きと励ましの大歓声
これで、1年生ピッチャーは乗ってしまった
そして一気に観客をも味方につける
こんな早いボールを投げる1年生ピッチャーに
みんなが魅了されてしまった
ストライクを取るごとに拍手と大歓声
そして、それが悪夢の相手チームの打線爆発につながったのだ
僕たちは、まともなチャンスすら作ることができない
あの速いストレートと、横に鋭く曲がるスライダーに
対応できない
唯一、4番のノンちゃんがヒットを打つぐらいだ
手も足もでない・・・
正直、この時の心境は
コールド負けだけはしたくない・・・
もうひたすら、この気持ちだけだった・・・
必死の思いが通じて、6回に
相手チームのエラーがらみでなんとか1点を取ることができた
1-7・・・7回が終了
7回コールドも回避
コールドゲームがなくなったことで、急にプレッシャーから
解き放たれて開き直ることができた
最終回
そして、ついに最終回を迎えることとなる、最後の攻撃・・・
意外にも試合時間は長引いていたらしい
球場の照明に灯がともる・・・最後の試合にふさわしい演出
ナイターだ~
この偶然の演出に、勝手に気持ちが盛り上がっていく
最後の試合、ボロ負け寸前、相手は優勝候補の強敵
ピッチャーは新時代のnewヒーロー
見事なまでな引き立て役だ
情けない程の脇役っぷり
最後の円陣、みんなで声をだす!
気持ちを入れ直す!
まだ、あきらめるな!!!まだ終わってない!!!
スタンドには野球部員だけではなく学校の生徒も応援に
駆けつけてくれている
その中には、かつて一緒に汗を流した友達、
辞めていった仲間たちも、みんな応援にきてくれている
気が付けば、スタンドは高校野球ファンと生徒たちでいっぱいだ
もうこの先の人生で、こんな大きな球場で、これだけの観客なかで
この緊張感を味わって野球をすることなんてないだろう
あと1回・・・あとアウト3つ・・・
まだ野球はできる!!!
監督が叫ぶ
「勝負はここからじゃー!、お前らの意地を見せつけてこい!」
うおおおおお~!!!
一気にボルテージが上がった
やがて全国に、その名を轟かせる 相手の1年生ピッチャー
でも、今はまだ高校生になったばかりの1年生にすぎない
負ければ終わりの3年生最後の夏の大会
この試合の先発を任されると言う重圧は、かなりのものだろう
緊張と興奮、観客からの大声援
ここまでは、気を緩めることなく無我夢中だったにちがいない
そして、いよいよ最終回
あとアウト3つで終わる・・・
点差は6点・・・
ここまでの内容からすれば、あとアウト3つ、獲ることなんて
なんら難しいことではない
もう勝ったも同然・・・
少し安心して気が緩んでしまったのか、わからない・・・
野球の神様が、少し僕たちの微笑んでくれたのかもしれない
先頭打者、その次の打者と連続ヒット!
この試合初めての連打!
次打者はボテボテのゴロ・・・それでもランナーは進塁できた
1死3塁2塁!
次は、粘りに粘ってファーボールをもぎ取る
1死満塁!
相手チームがマウンドに集まる
やはり、1年生ピッチャー・・・
ここまで力投してきた、重圧と疲労が、あと1回という安心感から
緊張が緩んでしまったのかもしれない
そしてぼくらベンチ、わが校 3塁側の大応援団の声援が
ここぞとばかりにヒートアップする
続投・・・プレイ再開
1年生ピッチャーの渾身のストレートを
キャプテンが打ち返す!、快音とともに打球がとぶ!
ライト線を抜けた~!!!
1人ホームイン!
2人目もホームイン!
1塁ランナーは・・・・ストップ、ストップ!、いいボールが返ってきた~
2塁打!!!ベース上で雄叫びだ~!
尚ランナー、2塁3塁
ここで、ついに1年生ピッチャー交代!
ウチのベンチは大興奮! 大騒ぎ!
1年生ピッチャーは上級生に、励まされ労なわれながら
ベンチへ駆け足で下がっていく
スタンドは観客総立ちの大拍手!
相手の1年生ピッチャーは間違いなくこの試合の主人公だった
しかし緊張と興奮で隠れていた「疲労」が
あと1回で終わりと言う、ほんの小さな隙間から
顔をだしたのかもしれない・・・
それでも あっぱれ なピッチングだった
そして、ついに主人公を マウンドから引きずりおろした!
が・・・背番号「1」相手チームのエース登場だ!
ここから、エネルギー満タンのエースがくるのか~
それを迎え打つは・・・俺
最後の試合、こんな興奮する場面で周ってこようとは・・・
野球の神様に感謝だ
バッターボックスに入り足場を整える
プレイ!
さあ~あこがれた高校野球、その最後の打席・・・
初球はスライダー、外角に外れる
いくらエースといえども、この大ピンチのスチエーションからの登場は
平常心ではいられないはずだ
さっきまで投げていた1年生ピッチャーとはタイプがまるで違う
1年生ピッチャーは剛速球で押してくる本格派のピッチャー
俺は結局・・・1年生ピッチャーに対し3打席連続三振
俺の持ち味は足、まず何でもいいから塁に出て、塁上から
ピッチャーを揺さぶり、リズムを崩すこと
なのに・・・
俺はボールを前に飛ばすことすらできなかった
今日の試合、こんな劣勢な試合展開になってしまったのは
1番打者としての役割が果たせなかった俺の責任が大きい
ここが俺のバカなところ・・・
この時 俺は名誉挽回とばかりにヒットを打って2人のランナーを
かえすことを狙ってしまった
ここは、「繋ぐ」気持ちが必要だった、
ボールを見極めて、ボール球に手を出さない、ファーボールでもいい
次の打者に回す
とにかく落ち着いて冷静に自分の役割をまっとうする気持ちで臨んでいれば、また違った結果になっていたかもしれない・・・
俺はヒーローになろうとしてしまった
このピッチャーは変化球が得意な技巧派
変化球は多彩で鋭いがストレートは、そこそこ早い程度
1年生ピッチャーの早いストレートを見ていた分
遅く感じる・・・
2球目はそのストレート!・・・高めの見逃せばボールだ!
しかし強振!!!
ファール!・・・天を仰ぐ(チャンスボールだったのに~)
3球目また外へのスレイダー・・・外れてボール
得意の変化球のコントロールがまだ定まっていない
4球目外角のストレート、これもボール気味!
手を出してファール!
(お分かりだろう、本来ならここでフォアーボールで出塁しているのだ)
(満塁になって更にピッチャーは追い詰められていたであろう)
打ちたい、と言う気持ちが出過ぎて、リキみ過ぎだ
ポイントが微妙の遅れている・・・(気づかない)
打席を外して監督を見る・・・
胸の前で指で四角を作り、打て!のゼスチャー
よし!好球必打!
2ボール2ストライク・・・仕切り直し
ピッチャー~投げたー!
ど真ん中!ストレート!
よし!いける! 打ちにいく!
うわ~・・・シュートだ!・・・
ゴォ~ン・・・鈍い音・・・
センターに浅いフライ・・・
タッチアップもできない
アウト!
ベンチ、スタンドからの大きなため息・・・
これが高校野球、最後の打席・・・なのか・・・
情けない・・・なんとも、惨めな気持ち
みんなで作ったチャンスを俺は・・・
何やってンだ・・・ちくしょう~
カキーン
響く快音!わあー!!!
火山が噴火したかのような、一気に大爆発した大歓声
次の打者 キンヤが打った打球はレフト線を破る!!!
回れ! 回れ~!
3塁ランナーホームイン・・・2塁ランナーも帰ってきた~
ホームイン!!!
更に2点追加~5-7!!!
あと2点
落ち込んでいる場合か~まだゲームは終わってない!!!
声をだせ~
尚もランナーは2塁
2アウト、ランナー2塁・・・
バッターは3番・・・繋げば、次は4番、ノンちゃんだ!
まだ分らんぞ! このゲーム!!!
3塁側スタンドはお祭り騒ぎだ~
みんな、祈るように 3番打者 ナカの打席を見守る
一発でれば同点!!!
ノンちゃんの次にホームランが打てる長距離ヒッターだ!!!
ナイターになって逆転を演出するスポットライトのように
グラウンドを照らす
が、しかし・・・
手に汗握る勝負の結末は・・・
3ボール2ストライクと更にクライマックスを盛り上げるも・・・
空振りの三振・・・・
無情にも試合終了のサイレンがなり響く・・・
第1シードの強豪校が、まるで優勝したこのように喜びあう
次の日の新聞には「勝てる気がしなかった」と強豪校ナインの心境が書かれていた
大歓声と拍手に包まれて、最後の夏の幕はとじる・・・
快音と共に・・・
一生分の涙か、ぐらい泣いた
負けたことへの悔しさ+自分への情けなさ、ふがいなさ、
みんなへの申し訳なさ・・・色々な感情で ぐちゃぐちゃになった
テレビを観て、感動し、あこがれた甲子園
その舞台、高校野球・・・
夢と希望に期待をふくらませて足を踏み込んだ世界は
キツイ練習とコワい先輩たち・・・
しかし そこ乗り越えた先には、舞台は甲子園ではなかったが
あこがれて、夢みた高校野球
そのモノがあり、友情、興奮、緊張、学び・・・
まさに、青春だった・・・
しかし・・・悔いなし・・・なんてカッコいい言葉はなく
大いに悔いが残る、最後の試合で4打数0安打3三振は
死ぬまで「情けない」と言う気持ちは消えないだろう
今だに最後の打席の2球目をファールしてしまった場面が
夢に出てくる・・・
何度、夢で再現しても打てないのだ・・・
まあ~これも人生・・・
55歳バツ2男の人生の1ページ
負けた原因を挙げればキリがない・・・
大いに悔いが残る
あれが、あの時の俺たちのチカラなのだ
今も良き想い出として脳裏に、しみついている・・・
さあ~今年も高校野球が始まる
甲子園がある・・・
どんなドラマが生まれるのだろう
あの球場に鳴り響くカキーンが・・・
何度でも青春に戻してくれる
こんな幸せなことはない・・・・
55歳オジサンの趣味であります
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