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#53 地方自治法を僕なりに読み解いてみる(その1 全体論の巻)

僕も含めた地方公務員にとって法律というのは、日々の業務からは切り離せないような存在で、当然ながら色んな場面において相対することになる。
その中でも、地方自治法という法律は、我々の組織や業務の根幹となるもので、一番馴染みの深い法律と言って良いだろう。

一方でこの法律、非常にボリュームたっぷりな内容で、いかんせん300近くの条文で構成されているため、僕たち公務員の中でも、その全貌を知っている人は少ないのではないかと思う。

僕は、もっぱら(公共施設など)公有財産やら物品を担当する組織にいて、なおかつ発注・契約のことだとか、公共施設運営のことだとか、貸付・売却などに絡む業務を多く含んでいるため、地方自治法は普段からよく目を通す法律の一つである。
(もう一つ今回は触れないが、一般の人からすればワケワカメな財産区という特別地方公共団体の事務もしていて、こちらも自治法によるもの)

そんな地方自治法であるが、僕も網羅的かつ詳細に読み解いている訳ではないため、今回、自分自身の学び直しの意味も含めて、この法律の意図するところや疑問点、僕なりの法律解釈や注意点、こここんな風に変えてもらえんもんかね?みたいなことについて(シリーズものとして)綴っていきたい。

特に公共施設やFMといった業務をやってて気をつけなきゃいけない部分とか、今の実情と大きなギャップが生じている点などを中心にまとめていってみようかと思う。

なお、最初に触れたように、この法律って非常にボリューミーなので、テーマを何回かに分けて(多分3回か4回になりそう)書いていきたい。

この法律の成り立ち

この法律は、戦後間もない1947年(昭和22年)5月3日に日本国憲法と同時に施行(5月3日は憲法記念日)されている。

ちなみに同日施行された憲法の第8章にも地方自治に関する条文があり、これを地方自治法が補完する関係となっている。

第八章 地方自治
第九十二条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める
第九十三条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
② 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
第九十四条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる
第九十五条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。

日本国憲法の第8章「地方自治」→ここでいう法律が地方自治法を指している。

ちなみに現在では都道府県=地方公共団体というのが、当たり前の感覚になっているが、この法律以前の都道府県は「中央政府の下部機関」という位置付けであり、都道府県職員の身分も地方公務員ではなく、管吏(かんり・今でいう国家公務員)であった。

こういうことを見ても分かるように、戦前までの日本は、国の中央集権的な構図となっていて、市町村も都道府県も国の行政機構の一部に組み込まれてようだ。(東京都と北海道の設置はややこしいので今回は省くこととする)

まぁ、未だ(財政面などで大きく)国への依存体質が残っていて、本当の意味で地方自治ができているのか?ということに関しては若干の疑問もあるところだが、この地方自治法によって、都道府県と市町村が単独の法人格となり国から独立したというのは間違いない。

基本原則的なこと

これはどんな法律にも共通して言えることであるが、第一編の総則では、その法律の目的や骨格となることが記されている。

地方自治法においても、最初に第一編「総則」が置かれていて、基本的な条文が並んでいるのだが、その中でも第2条第14項には、以下の超重要なことが定められている。

第二条
14
 地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。

地方自治法第2条第14項

また、自治法と並んで、地方公共団体においては超重要な法律である地方財政法にも同様の条文があり、以下のことが定められている。

(予算の執行等)
第四条 地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない。

地方財政法第4条(予算の執行等)

公共発注や契約のことなどは、次回以降で触れていこうと思うが、果たしてこれを(本当の意味で)厳正にかつ着実に実行できているのだろうか?と思うところである。

何しろ、1947年にできた法律なので、現在の経済状況や事務処理、地方公共団体が置かれている立場、業務そのものの考え方などにおいて大きなギャップが生じているのではないかと感じるところも多い訳であるが、この辺りを(法律の解釈内において)どう判断するかが、効率的な行政運営には欠かせないのではないだろうか。(違法はもちろんダメなので、あくまで合法の範囲内で・・・笑)

また極端かつ何重ものガバナンス&チェックを効かせることによる業務の複雑化や、停滞化を招いている部分も多く、事業コストなどと違って、予算書では評価しずらい職員の人件費なども、法律の基本的原則(最小の経費かつ最大の効果)に立ち返って、抜本的に見直すタイミングに来ているのではないだろうか。

例:効率的に事務処理を行うために各種計画等を策定して、計画的に事務処理をするというのは、この原則によるものであるが、計画のための計画を策定するために、何百万もの予算を使って・・・みたいなことってどうなん?とか。

議会のこと

次に続く第二編の第6章には議会のことが定められている。
その中、第89条で地方公共団体は議会を置くことが明記されている。

第八十九条 普通地方公共団体に、その議事機関として、当該普通地方公共団体の住民が選挙した議員をもつて組織される議会を置く

地方自治法第89条

地方公共団体の首長(知事や市町村長など)と議員は、住民による選挙によって選出され、それぞれが住民の代表として相互に権限を分け合いながら、均衡と抑制を図りつつ、地方公共団体の行政運営を行う仕組みとなっている。
それぞれが直接選挙で選ばれるから二元代表制とも言われる。

首長は我々職員たちのトップに立って、具体的な政策や事業・施策を住民に提供し、議会は、議決行為などによってその意思決定を行うことになっている。

住民と首長と議会の関係(各種参考資料を元に筆者作成)

ちなみに議会の権限は、だいたい以下のようなこととなる。
議決など重要な決定に関する事項
・条例を設け又は改廃すること。
・予算を定めること。
・決算を認定すること。
・条例で定める契約を締結すること。
・条例で定める財産の取得又は処分をすること。
・損害賠償の額の決定及び和解に関すること。
・副市長や監査委員などの選任に同意すること。

ただ、人口減少や高齢化が進む小規模自治体においては、議員のなり手が不足が深刻な状況にある。
第89条で、地方公共団体は議会を置くと定められているものの、第94条で議会を置かず町村総会を設けることができるとも規定されている。

第九十四条 町村は、条例で、第八十九条第一項の規定にかかわらず、議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる。

地方自治法第94条

現状では町村総会を設置している自治体は存在しないようだが、今後、人口減少が一層進んだ最小限の自治体においては、町村総会を選択することも可能性としてあるように思うのだが・・・。
ちなみに2024年10月現在で、人口が400人を割っている自治体は12団体あるようだ。(福島県の原発周辺は除く)

奈良県 上北山村379人
長野県 平谷村372人
鹿児島県 三島村355人
和歌山県 北山村348人
高知県 大川村336人
奈良県 野迫川村334人
東京都 利島村321人
新潟県 粟島浦村320人
東京都 御蔵島村309人
沖縄県 渡名喜村295人
福島県 葛尾村280人
東京都 青ヶ島村167人

さて、この先、こういった自治体の議会ってどうなっていくのだろうか?
賛否はあるだろうが、総会という選択肢は排除できない気がしている。

普通地方公共団体の長と補助機関について

議会の次の項目、第二編の第7章には執行機関のことが定められている。

執行機関といっても一般の人には馴染みのない用語のため、ハテ?と思う人も多いと思うが、これは地方公共団体の長(知事とか市町村長のこと)を指している。
また、教育委員会や選挙管理委員会といった各種委員会も、この執行機関ということになっている。

言葉で書いても分かりづらいので、体系図として下の図にまとめてみたので参照してほしい。

執行機関と補助機関の関係(各種参考資料を元に筆者作成)

これを見ると大きな2つのことが見えてくる。

1つ目は、我々のような一般の公務員は、首長という執行機関の下部機関であり、副市長などをトップとした市長の事務執行を行政内部的に補助する地位に過ぎず、あくまで補助職員であるということ。

2つ目は、教育委員会は首長をトップとした体系図とは別に、同列に配置されている執行機関であり、完全に独立した権限体系を持っているということ。
これは、戦前の中央集権体制による管理統制を廃止し、地方自治体の管理へと移行したものである。

体系図を作ってみて、つくづく分かったのは、首長という執行機関の持つ権限は非常に大きいということであり、だからこそ選挙というのは非常に大きな意味を持っているということ。

最近では元安芸高田市長だった石丸さんの都知事選や、兵庫県知事に返り咲いた斎藤さんがYoutubeを駆使した選挙で話題になっているが、若い世代にも首長選挙というものが、そのまちにとっていかに重要であるかということをしっかり理解してほしいと思うところである。

全体論のまとめ

こうやって自治法を改めて振り返ってみると、中央(国)からの独立、教育と政治の分離など、戦前と戦後でダイナミックに変わったことが読み取れる。
一方で、法律ができてから80年近くが経とうとしている訳で、今の世の中にとって不合理的なことも多々発生しているように感じるところでもある。法律の附則を見ると、地方自治法って毎年のように改正が行われているのだが、やはり骨格となる部分はやはり1947年当時のままだろう。

国への依存体質はもっともっと解消されるべきであるし、地方公共団体の独自性などが求められる現代において、もっと自由に行政運営がなされるべきであろう。

とはいえ、地方自治法による(あくまで個々の解釈論かもしれないが)制限もあるのも事実で、次回以降は、その辺りの不合理性などについて綴っていきたい。
(その2は、公共発注なんかとも関係が大きい契約関係についてをテーマとしてみたい)

ということで、その2以降もお楽しみに!

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