
#54 地方自治法を僕なりに読み解いてみる(その2 発注とか契約の巻)
さて前回に続き、地方自治法を読み解いていこうと思うが、今回は公共発注とか契約などの話を中心にまとめていきたい。
これ、実に頭を悩ませている公務員(まぁ受注側となる民間事業者も同様だろうが)は非常に多いのではないかと思うし、昨今の公共工事などで頻発すつ入札不調のニュースなどを鑑みるとかなり頭の痛い問題である。
というのも、役所が行う調達行為(物品購入・各種業務委託・工事など)って、めっちゃその手続きが面倒くさいし、入札で事業者を決めなきゃいけなかったりと、(それぞれの調達を)発注する側も受注する側もかなり煩雑な手続きを要すことになる。
今回は、その手続きの根拠となっている地方自治法にどんなことが書かれていて、なぜそんな手続きが必要なのかということを改めて検証するとともに、法律の中でどれくらいのことが許されているのか?みたいなことを探っていきたい。
前回のnote(#53)で書いた「その1 全体論の巻」をまだ読んでない方は、こちらも併せて読んでみてね。
法律ではどう定めらているのか?
今回扱うのは、地方自治法 第二編の普通地方公共団体のうち、第9章「財務」第6節「契約」の部分となる。
さて契約について、法第234条では次のように定められている。
第二編 普通地方公共団体
第9章 財務
第6節 契約
(契約の締結)
第二百三十四条 売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。
2 前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。
3〜6 省略
と、契約について超重要なことがめっちゃあっさり書かれている(笑)
これ要約すると、役所が発注する売買や賃借や請負契約など基本全ての契約は、原則一般競争入札によることとし、政令の中で書かれていることのみ、指名競争入札と随意契約を認めるというものである。
(*せり売りはレアケースなので今回は省略)
また、ここで出てくる政令とは、地方自治法施行令第167条から第167条の3までを指しているが、このうち、よく話題となる随意契約のことが政令(第167条の2)でどのように記されているかも併せて確認してみたい。
第二編 普通地方公共団体
第5章 財務
第6節 契約
(随意契約)
第百六十七条の二 地方自治法第二百三十四条第二項の規定により随意契約によることができる場合は、次に掲げる場合とする。
一 売買、貸借、請負その他の契約でその予定価格(貸借の契約にあつては、予定賃貸借料の年額又は総額)が別表第五上欄に掲げる契約の種類に応じ同表下欄に定める額の範囲内において普通地方公共団体の規則で定める額を超えないものをするとき。
二 不動産の買入れ又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。
三 省略(障害者団体やシルバー人材センター等のことが書いてある)
四 省略(新製品開発等のことが書いてある)
五 緊急の必要により競争入札に付することができないとき。
六 競争入札に付することが不利と認められるとき。
七 時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあるとき。
八 競争入札に付し入札者がないとき、又は再度の入札に付し落札者がないとき。
九 落札者が契約を締結しないとき。
とまぁ、政令の方には比較的細かく書かれている。
ここでは、各号の細かいところには触れないが、競争入札に適さない内容のものや、低価格での調達、緊急的な調達など、政令に掲げられている何らかの理由さえ立てば、随意契約をしていいとされている。
ただ、特に第二号と第六号の記述が曖昧であり、どう解釈しても良さそうに書かれているので、その判断は個々で分かれるところだろう。
そのためにこの行間を埋めるべく、(おそらくほとんど自治体において)だいたい似たり寄ったりな随意契約ガイドラインなるものが存在し、それぞれの団体で運用していると思われる。
(ネットでググってみると実にたくさんのガイドラインを見ることができるが、だいたいどこも同じことが書いてある・・・笑)
このガイドラインの元ネタはどこから来たのだろう?という好奇心は尽きないが、それを探すとなると時間がいくらあっても足りないので諦めることとするが笑、きっとその昔、総務省あたりがテンプレート的なものを用意していて、それが全国に広まったのだろうと推測している。
そもそも何故入札が必要なのか?
さて、法律では一般競争入札が原則であり、指名競争入札や随意契約は同じようにできる規定とされている訳であるが、なぜ、自治体が発注する調達のうち、指名競争入札は当たり前に運用されていて、随意契約は認めないという慣習になっているのだろう?
これは、前回の全体論の中で触れた法第2条に書かれてある「最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」という規定が前提としてあるということと、特定の業者に随意契約で発注する=癒着や利益供与、みたいな風潮が根底にあるためだろう。
確かに、役所が行う調達行為の財源は、住民などが収めた税金であり、不適切に高額な調達は、最小の経費という原則に反するものであるし、恣意的に特定の業者のみと契約するようでは公平性を欠くことになるのも事実である。
なので、調達行為は入札によらなければならないという論調は多くの自治体で聞かれるし、また実態もそうなっている。
あと入札不調が続く今では懐かしいような感覚もあるが、ひと昔前までは、公共工事に談合の影あり、みたいな声もよく耳にしていたし、公共発注を受注することが、それを受注する業者にとっておいしかったのだろう。
ではここからは、そもそもなぜ入札という仕組みが必要なのか?という根本のところを改めて考えてみたい。
原理原則論は上に書いたようなことで間違いないのだが、(調達行為の場合)入札=1円でも安く調達するのが一番お得=誰から調達しても同じクオリティのものが担保されるという、そもそもの条件設定があるからに他ならない。
そう、入札とは、誰と契約しても同じ内容の成果物(物品や公共物も含む)を手に入れられるということが前提の調達方法であり、発注者側で求めるゴール(成果物)が明確に決まっていなくては話にならない制度である。
裏を返せば(細かく言えば1円単位まで)役所側で予定価格を設定し、事細かく発注仕様を定め、役所側が成果物が納品されるまでを細かくチェックし、そのクオリティがしっかり担保できた上で、受注者側には基本的には裁量権は用意されていないという前提があって初めて入札と制度が機能するのである。
一方で、昨今の社会情勢を鑑み、自治体の職員不足や技術力の低下などを踏まえると、入札一本足打法では、正直、そもそもの行政運営が成り立たないのは火を見るより明らかな状況であるし、もっとクリエイティブで柔軟な発注を考えなければ、そもそも調達すらできない(入札不調)という時代であるということに、我々も思考を改めなければならない。
行政と民間の立ち位置が変わってきている?
公共工事を例にとると、分かりやすいだろう。
公共工事は現状でも入札が当たり前のように行われているが、これ歴史を振り返っていくと、起源は明治時代くらいまで遡らなければならない。
明治維新後、日本が近代化していく中で、超優秀な技術者はこぞって欧米に渡り、西洋の技術を日本に持ち帰ってきた訳であるが、彼らの大半は国の技官(国お抱えの技師)として活躍していた。
つまり戦前くらいまでは、建設技術の知見やノウハウは、官側に蓄積されていて、公共工事は技官が自ら設計・施工する官庁直営方式で実施され、それが非常に理にかなっていたのである。
翻って今日では、民間側の技術やノウハウの方が圧倒的に高く、民間側で(仕様を含めて)コントロールした方が、より良いものをより安価に施工できるというのが常識となっている。
一般の人が自宅を建てる時のことを考えれば分かりやすい。
マイホームを建てようとするオーナーが自ら家を設計し、施行中の現場に行って、建築の内容や施工状況などを事細かく全てチェックしている人ってほとんどいないだろう。
(僕は建築オタクなので自宅を自ら設計したレア人材なのだが・・・笑)
大抵の場合、ある程度の予算を決めて、自分の好みに合う工務店やハウスメーカーを探してきて、その範囲の中で民間側の知見に委ね、完成した家を引き渡してもらうというのが一般的なロールモデルとなっている。
(マンションに至ってはパッケージされているものしか見ないのが普通)
当たり前であるが、こういったケースにおいては、入札という制度は全く馴染まないというのは言うまでもない。
つまり発注者側が、受注者側の裁量権に大きく委ねているためである。
以前(それも随分昔の話)は官側の方が技術的にも優れていて、民側をコントロールできる立場にあったからこそ、入札という仕組みが理に適っていた訳であり、官と民の立ち位置が逆転した現代にあって、どういった方法での調達行為が、地方自治法の原則である「最少の経費で最大の効果」という成果を挙げられるのだろうか?
さてここから先は、仕様発注と性能発注みたいな話になってくるのだが、これについてはまた次回のnoteでまとめていきたい。
ということで、今回はここまで。
地方自治法テーマはまだまだ続きそうなので、次回もお楽しみに!