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#57 廃校利活用ホテルの滞在記(凝り性の建築訪問記Part4)

先日、職場の親睦旅行に行ってきたのだが、今回のnoteはその時のことを凝り性の建築訪問記シリーズとして記していきたい。

で、その旅行なのだが、コロナ以来となる約5年ぶりの職場旅行復活ということで、せっかく行くのなら仕事に関係しそうなところをチョイスしてみようということになり、鳥取県八頭町にある旧小学校を利活用したホテルに泊まってきた。
その空間やサービスの内容に、僕的には非常に感銘を受けたというか、相当テンションが上がったので、その内容をレポートしていきたい。

肝心な宿泊先であるが、「OOE VALLEY STAY」というホテルで、旧大江小学校がリノベーションされて、2019年に開業となった比較的新しいホテルである。

では、そのエリアのこととか、廃校となった小学校のこととか、リノベ後のホテルの空間・サービスの内容、感想といった順にまとめていくこととする。


鳥取県八頭町における大江地区とは?

鳥取県八頭町は鳥取市の南側に隣接し、平成17年の市町村合併により、旧郡家町・旧船岡町・旧八東町の3町が合併し誕生した町である。

その中で大江地区というのは元々は大江村という村であり、それが大正時代の1918年に伊井田村と合併し大伊村となり、その後、船岡町・大伊村・隼村が合併し船岡町になったという経過を辿っている。

町全体としての人口は約1.5万人で、まぁまぁな過疎地域であるが、大江地区に限っていうと200人を割っており(R2.国勢調査データ)相当な過疎地域であることが数字上からも分かる。

そんな過疎化が著しい大江地区であるが、その過疎地にあって年間30万人以上の来客を誇っている大江ノ郷自然牧場(OENOSATO RESORT)というとんでもない企業がある。

企業の沿革を拝見させてもらうと、元々は放し飼いの養鶏場からスタートし、ブランド卵(天美卵)を中心にパンケーキなどスイーツと地元ならではの食(EC販売も含む)を提供する一大企業(というかすごい観光地)となっている。
社員数は200名近くにも上り、200人に満たない地区の企業とは思えない規模である。

今から10数年前に全国でパンケーキがブームになった頃(billsとかEggs 'n Thingsとかが次々進出してた頃)に、大江の郷でもふわっとしたパンケーキが話題となり、そこから年を追うごとに事業拡大しているようなイメージで、今や八頭町の大江地区=大江の郷自然牧場みたいな場所になっている。

旧大江小学校のこと

前置きが長くなってしまったが、今回訪れた「OOE VALLEY STAY」というホテルは、その大江ノ郷自然牧場が2019年に旧小学校をリノベして開業したホテルである。

大江ノ郷がやっているということと、旧廃校活用ということで前々から気になっており、僕自身は過去に家族を連れて2度ほど現地を訪れていたが、宿泊するのは今回が初である。

この旧大江小学校、Wikipediaで調べてみると、2017年3月に閉校となり、その後2019年にホテルとして開業している。
田舎の小学校としては珍しく3階建て(RC造)の校舎で、建物としては比較的新しそうだ。
パッと見に築25年程度といった感じだろうか?
校舎と体育館があり、雪深い地域のためか、2棟をつなぐ渡り廊下で構成されている。

外壁にはオレンジ系でレンガ調のタイルが全面的に貼られており、屋根も瓦葺き(赤い瓦)で、よくありがちな無機質な学校建築と違って、可愛らしい意匠が特徴の校舎である。

改修前の旧大江小学校の様子(Wikipediaの画像より)

OOE VALLEY STAYの空間について

さて、ここからは本題の改修された後のホテルについて。
まずは空間的なところから写真を中心に見ていこう。

ちなみに金曜日の業務終了後に出発したので、到着は19時ごろとなり、夜景からスタート。

明かりが来客者を誘うエントランス
エントランスにはOOE VALLEY STAYの浮き文字が
校舎のフロア構成はこんな感じ(2・3階に客室を配置)
3階の客室前廊下(高いヴォールト状の天井が特徴)
2階の客室前廊下(こちらは照明が特徴)

ここまでの写真を見てもお分かりのように、小学校という面影はかなり薄く、リノベと言ってもかなり手を入れた改修であった。

ここからは客室を見ていこう。

僕が泊まった部屋はシングルユースの部屋で、コンクリート剥き出しとなった当時の躯体部分を除けば、ほとんど新築に近いくらいのしつらえとなっており、非常に快適な客室空間となっている。

ゆったりダブルサイズのベッドを有するスタンダードダブルの客室
洗面台や冷蔵庫を備えた家具もお洒落に設られている
バスルームとトイレは同一空間でガラス張り
高い天井にはシーリングファンが備えられている

チェックイン後はすぐに夕食の時間ということで、みんなで揃って1階のダイニングスペースへ。
広いダイニングスペースの中央には、オープンスタイルの厨房スペースがあり、その周りを囲むように囲炉裏の客席が配置されている。

ダイニングスペース中央にある厨房スペース(ちょうどヤマメを調理中)
ドリンクをサーブするスペースもお洒落にデザインされている
ひときわ目を引く日本酒瓶のディスプレイ棚
今回用意されていた客席で真ん中には囲炉裏がセットされている

ここから先は夕食が始まって、完全に酔っ払い状態になるので、次からの写真は翌日の朝に施設をぐるっと廻ってのものである。

校舎の全景(外部はダークグレイを基調としたカラーに塗り替えられている)
体育館はおそらく当時のまま使われている
体育館のピロティ下には焚き火スペースが(実は昨晩焚き火を楽しんだ)
体育館にはトランポリンやボルタリングウォールが設置されている
小学校時代の絵や垂れ幕が記憶を残す
大人用の体育館シューズが用意されているのが嬉しい
校舎と体育館の間にはバレルサウナも設置されている
ダイニングスペースはirori Diningとしてランチ営業もしている
エントランスにはミースのバルセロナチェアも

実は朝食後に、数名で施設内を見学していたら、気を利かせてくれた支配人さんが、全ての客室タイプを見せてくれるという、なんとも素敵な機会を演出してくださった。(他にお客さんがいなかったというのもあるだろうが、本当に感謝感謝である)

写真は撮っていないが、どのタイプの客室も手が込んだお洒落な空間となっていて、廃校活用とか関係なく素敵なホテルとなっていることに驚かされた。

OOE VALLEY STAYのサービスについて

さて、ここからはOOE VALLEY STAYを特徴づけているサービス面の方にフォーカスを絞って綴っていきたい。
実は上述したように、廃校活用とは思えない空間の質にも驚いたのだが、実はもっと驚いたのはそのサービス面の方である。

オールインクルーシブの里山リゾートというサービス!

このホテル、客室単価は一泊一人約2万円〜5万円と結構な客単価設定がされているのだが、その料金の中に朝食と夕食代はもちろんのこと、飲み物代や体験コンテンツなどが全て含まれたオールインクルーシブのサービスなのである。

飲み物と言っても、そこら辺の居酒屋レベルのものではなく、全て地元鳥取での生産にこだわったもので選び抜かれており、純米酒・吟醸酒・大吟醸酒などの地酒、地元のワイン、地元のクラフトビール、地元産の果物を使ったフレッシュジュースなど、全て地元産にこだわったものとなっている。

これらの飲み物は、2.5時間の夕食時は飲み放題であるのはもちろんのこと、朝食時にもオーダーすれば提供してもらえるというサービスぶりである。

もちろん、朝食・夕食ともに地元産の素材で厳選された料理であり、そちらも抜群に美味しいのは言うまでも無い。

手の込んだ料理が並ぶ夕食がスタート
鳥取和牛を囲炉裏で焼いていただく
地鶏の焼き物
綺麗な山女魚の塩麹焼き
こちらがこの日の夕食メニュー
地酒をたらふくいただく

また、夕食後の焚き火サービスも料金に含まれているし、予約すればグランピングテントでくつろぐこともできる。

体育館ではトランポリンやボルタリング、卓球などを行うこともでき、レンタサイクルで近くで周遊することも可能である。
もちろんこれらの料金もインクルーシブされている。

天美卵と土鍋炊きのご飯が最高に美味しい朝食
焼き魚とだし巻き卵もとっても美味しい

確かに宿泊単価は少し高いかもしれないが、非常に満足感の高いサービスが全て料金の中に含まれているということで、なんだか非常に割安な感じにも思えてくるから不思議だ。

なお、当然のことではあるが、スタッフのホスピタリティも最高である。

泊まってみての僕的な感想

大江の郷自然牧場が廃校活用を行ったということで以前から気になっていて、外観だけを見に来ていたホテルであったが、泊まってみての感想としては、廃校活用という枠は完全に超えていて、非常に満足感の高い宿泊施設であった。

空間のしつらえはもちろんであるが、何よりオールインクルーシブというサービスが非常に満足感が高かったのと、提供される食事や飲み物などの質が非常に高くて、僕的には大満足な旅行であった。

訪れたのが厳寒の2月ということで、シーズンを通して最もオフシーズン(下手したら大雪で辿り着けない時期!)とのことで、この日は我々団体だけの宿泊であったようだが、夏場のハイシーズンにはほとんどの客室が満室となるようである。
勝手な想像であるが、(大江の郷の本拠地も含めて)ここは完全に目的地化していて、リピート率も結構高いのではないだろうか。
(事実、僕も次は家族と一緒に宿泊しようかなと考えている)

ちなみに大江の郷自然牧場は、一度会員登録をすると季節ごとに新メニューが掲載された(超そそられる)パンフレットが郵送で自宅に届くので、それを見てまた行こうかなという感覚になり、我が家はついつい出かけてしまうリピーターでもあり、その商売手腕にはいつも感心している。

最後に今回宿泊させてもらって、(僕たちのまちもそうであるが)過疎地の田舎というだけで、何か諦めのような気持ちを持つ人も多いが、田舎だからこそのコンテンツというものを改めて感じさせられた。

田舎だからって諦めることはない!
いや、田舎だからこそ作れるコンテンツはあるし、田舎だからこそ展開できる商売もある!

そんなことが頭をぐるぐるよぎりながら帰路についた。

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