KISS-RAIL 2.0を読んで鉄道事業について考えてみた話 ~鉄道事業計画の名著~
KISS-RAIL 2.0は、都市鉄道の事業化について、具体的手法や経験談が非常に詳細に書かれてる鉄道事業化の教科書的存在。日本の鉄道の海外(おもにアジア諸国)展開に携わった方々によって執筆されています。
とにかく、具体的な例が豊富で読んでいてとても実用的だと思いました。
本の目次は、以下
序 章 なぜKISS-RAIL 2.0なのか
第Ⅰ章 都市鉄道の成立条件
第Ⅱ章 プロジェクトの計画から工事着手まで
第Ⅲ章 事業の評価
第Ⅳ章 都市鉄道システムの計画と設計
第Ⅴ章 財源の調達と財務
第Ⅵ章 運営方式の設計
第Ⅶ章 地域開発との連携
第Ⅷ章 輸送のシームレス性と統合性の確保
第Ⅸ章 建設の実行
第Ⅹ章 都市鉄道の接続的オペレーション
第Ⅺ章 収益増加の方策
終 章 これからの海外都市鉄道
付属資料
1~11章をざっくりまとめるとこんな感じ。
めちゃくちゃざっくりまとめてみました。
本の内容
第Ⅰ章 都市鉄道の成立条件
都市鉄道が成立するためには、都市の構造(パームフィンガー型であること)や規模、交通や社会の発達度合いや段階、そして事業者のマインドも重要であるとのこと。実際に事業をやった人でないと出てこなさそうな意見ですね。
第Ⅱ章 プロジェクトの計画から工事着手まで
事業化の流れが、ざっくりと書かれています。詳細は下記の章にて。
第Ⅲ章 事業の評価
フィジビリティスタディの章ですね。需要予測には幅を持たせるべき、といった話から、国交省のフォーマットを使いましょうといった話から、鉄道事業は公共の側面が強いため、単なる損得ではなく、社会への効果も勘案すべきといった話など。また、本を通じて、鉄道事業に対する公的資金の重要性が書かれています。
第Ⅳ章 都市鉄道システムの計画と設計
システム設計の話ですね。鉄道は、個別の技術はそう難しくはないが、組み合わせれるシステムが多く、複雑になることが難しいところだという趣旨がはじめに書いてあります。とはいっても、配線、軌道構造、土木・電力、信号指令、車両、駅それぞれどのように設計すべきか、具体的に書かれており、大変参考になります。ただし、あくまでも日本で確立している鉄道システムをどのように海外に展開し適用させていくか?という目線なので、例えば車両を一から設計していく方法などについては解説はありません。車両タイプ(第3軌条、リニアモーター、地下鉄、高架・・・)別で、どのようなメリットデメリットがあり、どう選択すべきか、といった観点ですね。
第Ⅴ章 財源の調達と財務
財務の話です。公的、民的のメリットデメリット。中央政府。地方政府の違い。償還方法や運賃水準の設定方法まで、財務に関することが実務者目線で書かれています。参考になりますね。
第Ⅵ章 運営方式の設計
上下一体方式と・上下分割方式のメリットデメリットから、運営組織の作り方、スタッフの訓練法まで、こちらも実務者目線で書かれています。
第Ⅶ章 地域開発との連携
この章は、例えば宅地開発などで沿線価値を上げたりと、地域開発について書かれています。
第Ⅷ章 輸送のシームレス性と統合性の確保
乗り換えの容易化や相互直通、道路交通との連携によって、鉄道のウィークポイントであるドアtoドアの長さを解消し利便性を向上させる方法についての章です。
第Ⅸ章 建設の実行
用地買収~工程管理、予算管理、安全管理、試運転まで、建設フェーズにおける具体的な流れが書いてあります。
第Ⅹ章 都市鉄道の接続的オペレーション
建設した鉄道を安定的に運営するための手法が書かれています。運営組織の設立、安全マネージメント、作業効率化まで、トヨタカンバン方式の話なんかも出てきました。
第Ⅺ章 収益増加の方策
宣伝、サービス拡充、関連事業の章ですね。
感想
読んでいてつくづく思いましたが、鉄道事業というのは、不動産的規模も時間的規模も大きくて大変な事業ですね。それでも、完成した暁には地図に載ったり、生活の足として多くの人に役立ったりと、社会に与える影響が大きいからこそ、鉄道事業に駆り立てられるんでしょうね。
本の中でも頻繁に触れられていたことが、鉄道というのは社会のインフラであり、公的資金の注入が重要だということです。日本では、インフラの建設の相応分には公的資金が注がれることがあるそうですが、ヨーロッパでは、インフラ建設には全額、さらには運営についても赤字補填の形で公的資金が使われることが多いそうです。日本は人口集積都市が多いので、都市鉄道という事業で利益を上げやすかったことも、上記の違いを生み出しているのかもしれませんが、鉄道による社会的効果(人々の生活を支え、環境の負荷も少ない)を考えると、日本も公的な補助を増やすべきなのではないでしょうか。とくに、これから先進諸国に先んじて人口減少・少子高齢化を迎える日本において、人口集積度の減った都市でも交通インフラを運営していく必要性が増していくとすれば、なおさらです。
一方で、事業化を目指す民間事業者側も、民間ならではの柔軟性を持って、革新的なアイデア(車両デジタル広告や新交通システム、CASE視点での改革など)でより収益を上げやすい工夫をしていくことも重要だと思います。
例えば、YOKOHAMA AIR CABINのように目を引き広告塔のような存在になるなデザインや発光装飾を取り入れたり、通信・自動運転・電動化や環境負荷低減といったキーワードで従来の車両構造やシステムを見直したり、といったことです。とくに信号システムでは、近年センサや通信の性能向上・安定が目覚ましいので、GPS/GNSSの位置情報を基盤とした地上一次型交通システム(車両の運行を地上基地で統括して行う)とするのが効率が良いと思います。おそらくJRや既存の民間私鉄・地下鉄の信号システムも時代とともに切り替わっていくんだろうと思います。
いずれにしても、鉄道(のみならず公共交通)は、これからも進化を続けていくでしょうね。楽しみです!!