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PSGの“ウイイレ補強”は補弱になるリスク|LLNK_1206の毎日がエブリデイ

 それは本当に補強と言えるのか。
 フリーで乱獲、が今年のテーマらしい。昨年フリーで放り出したチアゴ・シウバがビッグイヤーを掲げたのがよほど気に食わなかったのだろう。今度は自分がやりたくなったか?プライドだけは一流ディレクターのレオナルドがやりそうな手だ。
 この中で太鼓判を押せるのは獲得濃厚となっているジャンルイジ・ドンナルンマのみである。現在開催中のEURO2020でも別格中の別格。無職のくせに大会屈指どころか頭二つ抜けたパフォーマンスを披露しており、彼がいるだけで絶望を感じる。周りのDFのパフォーマンスを引き上げるGKとさえ思えるこの選手がフリーで転がっていて獲らない理由はないだろう。何事もなければ向こう15年は門番を託せる素材だ(ライオラが何事も起こさないとは言ってない)。
 ジョルジニオ・ヴァイナルダムは評価が難しい。現陣容のMFと年齢層が被っており、彼の加入によって編成面で相当の整理が必要になる。若いエドゥアルド・カマヴィンガあたりを取ってきて、レアンドロ・パレデスとイドリッサ・ゲイエあたりを放出しないと数年後の戦力整理を難しくするだけではないか。優勝すれば良いが、しないなら向こう数年を厳しくするだけ。そして、彼を取れば優勝できると言えるほどの選手ではないように思える。彼は平均的に多くのタスクをこなせるのが特徴で、何かが傑出したタイプには見えないからだ。
 もっとも、ヴァイナルダムは一定の貢献が見込めるだけまだ安心できるかもしれない。評価がかなり厳しくなってしまうのは、アクラフ・ハキミとセルヒオ・ラモスの獲得だ。前者に関しては、ほぼWBの実績しかないのだが、4バックのチームに入れてうまくいく確証は正直低い。「やってみなければわからない」と言う人もいるだろうが、そんな根拠薄弱なチャレンジャー精神で6000万ユーロも動かされては困る。どんなに汚くてもこの水を飲むしかない人だっているんだぞ。
 そもそもPSGの右SBに適応できる選手なのだろうか。左SBは昨シーズンを棒に振ったとはいえファン・ベルナトが基本線だろうし、そうでなくても左WGがネイマールなので彼と連係できる攻撃力が欲しい。
 一方で右SBは左とバランスを取る観点では守備的な選手が望ましい。加えて言えばPSGの右CBはカバーリングが得意なマルキーニョスなので、対人性能に長けた選手が欲しい。同じ守備的なSBでもティロ・ケーラーはカバーリングを得意とするタイプで、あまり積極的に賛成できない。そもそも彼はCBだろう。
 とはいえもうハキミが来てしまった以上は、左右を攻撃的なタイプで占めることになる。となると、中央をしっかり固めるしかない。アンカーはマルキーニョスにしろダニーロ・ペレイラにしろ、CB兼用レベルの守備能力を持った選手にすべきだろう。何が言いたいかって言うと、レアンドロ・パレデスはもう船降りろ。
 一方のセルヒオ・ラモスは、現時点で補強になる要素を見出すのがかなり難しい。レッドカードの枚数はもう十分昨季で揃えたはずだが…。レオナルドもこれを喜んでいるファンも、頭の中からウイイレをアンストする必要があるのではないだろうか。そもそも普通にチアゴ・シウバに失礼だよねそれ。
 否定的な理由は複数あるが、最大の懸念は年齢的な衰えだ。35歳で膝にメスを入れており、昨季の稼働率も低い。衰えていないという声も多いが、正直私はビッグイヤー3連覇時代末期から厳しくなっているように思う。対人型のCBで一番重要になる出足が鈍くなりつつあり、現状能力でプレスネル・キンペンベを上回れるとは思わない。そもそも身体能力は高くても身長は低く、肉体消耗が早いタイプのアスリートだろう。実際アフター・ロナウドのレアル・マドリーでは、勝負所での欠場など稼働率の悪さも目立つ。
 ストロングポイントとして評価されている経験値も不安要素だ。国外初挑戦は経験値が高いことになるのだろうか。ある程度の年齢での初挑戦なので、適応とかが問題だとは言わない。問題はリーグとの相性である。先述の通り身体能力は高いが、身長という物理の観点では明らかに不利。リーグ・アンのアタッカーはリーガほどテクニカルではない分力任せだ。そこに対応できる術は持ち合わせているのか。正直疑問だ。
 メンタリティ面も不安が強い。彼が控えに回るレベルである可能性は正直かなり高いと思うが、それを受け入れられるか。やってみなければわからない、とここでも言う人は言うのだろうが、その根拠薄弱なチャレンジ精神であの年俸を出すのはやはり受け入れられない。そもそも控えになるリスクを考慮してもあの年俸はナシだろう。重大なのは、彼を主将として重用してきた前所属クラブが別れを決意した事実だ。控えを受け入れ、後進の育成に励めるタイプにはとても見えないが…。ロッカールームに再びジャンルイジ・ブッフォンやダニエウ・アウベスを抱え込むことに抵抗はなかったのだろうか。
 最後になるが、ハキミとラモスをスタメンで使える3バックという案は絵に描いた餅だろう。最大の問題は3バックの組み方。キンペンベは先のEUROスイス戦で見たように3バックが得意には見えず、マルキーニョスは3バックの中央にあまり適性はないため右サイドで使うことになる。一方で3バックなら中央か右サイドになるラモスは、中央だとキンペンベとの相性、右サイドだと年齢的な機動力の問題と先述のマルキーニョスの適性問題に立ちはだかる。そもそも3人とも3バックの経験値が高くなければ、3バックを基本戦術にして目標のビッグイヤーというのもおかしな話だ。3バックでCLを獲ったのは昨季のチェルシーが21世紀では初めてだろう。異例の一昨季の影響を多分に受けた昨季のサッカーシーンは例年とは傾向もレベルも全く異なり、昨季の傾向を踏みに行くのは危険だ。基本的には例年通りの4バック優位傾向を抑えつつ、交代5人制などのコロナ体制が続くことを考慮して選手層の拡充に励むべきである。
 総論すると、既に決まっている補強はあまり効果が高くない。そればかりか、大きなリスクを孕んでいる。ラモス次第では、道徳が好きな方々がよく言う「タダより高いものはない」になるのではないだろうか。

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