見出し画像

インサイドハーフはアンカーだし、アンカーはインサイドハーフ

割引あり

突然ですが質問です。

レナト・サンチェスはアンカーかインサイドハーフか、どっち?

こう訊かれれば、恐らく大半の人がインサイドハーフ(IH)、と回答すると思います。

では次の質問です。

エンソ・フェルナンデスとヴィチーニャはどっち?

これもほとんどの人がIHと回答するのではないでしょうか。司令塔系の選手でアンカーに挙げられるのはイタリアの選手くらいですからね。

でも、実際は違うからこういうノートを書くわけです。一体、逆張りだ。

逆張りの参考画像(カッピカピで草)

 何故違うかという話ですが、答えは単純です。育った国によって基本フォーメーション/システムは違い、他の国で他のシステムに当てはめようとすると適性ポジションは変化することがあるからです。もちろんそれは様々なポジションで起こり得る事象ですが、今日は具体的なケースについて触れながら中盤にフォーカスして書こうと思います。
 冒頭の質問で挙げた選手は全員欧州サッカーに於いてはポルトガル出身の選手。我々はどうしてもボランチを3センターに当てはめて考える傾向がありますが、ポルトガルサッカーの基本ベースは4-4-2。そもそもアンカーかインサイドハーフか、という議論になると答えがないわけです。ポルトガルのベースはより正確を期せば4-1-3-2だと見ていますが、現状ほぼ絶滅危惧種と言っていいフォーメーションなので、ここではドイスボランチの国とざっくり定義しておきます。
 一方でスペインやフランスは、4-3-3が主流の国。3センターの国と言っておきましょう。スペインは典型的ですが、フランスもクレールフォンテーヌ(国立育成センター)では4-3-3で選手を当てはめていきます。どっかのマザコンがアンカーかIHかでポジション自認に悩んでいる時期がありましたね。一生悩んどけやボケ

マザコンはLGBTQの中にも含められていません

 3センターだと、守備的かつ静的なアンカー、司令塔のIH、活動的で攻守に顔を出せるIHというのがプロトタイプだと思われます。昔のPSGがチアゴ・モッタ、マルコ・ヴェッラッティ、ブレーズ・マテュイディで組んでいたりとか、レアル・マドリードがシャビ・アロンソ、ルカ・モドリッチ、アンヘル・ディ・マリアで組んでいたのがわかりやすい例でしょうか。これが概ね10年近く前の話です。ここからアレンジが加わる(=進化がある)わけですが、その話は置いておきます。とはいえ、話の前提として必要ですので、このプロトタイプ、10年前の組み合わせ方は頭の片隅に置いて以降の話を読んでください。
 話を戻します。フランスは3センター、と書きましたが、あくまで育成段階での話です。トップリーグでは当然システムは混在していて、特にメディアでは中盤に関してレキュペラトゥール(いわゆる6番、回収役)とルレイユール(いわゆる8番、繋ぎ役)という分類の方が頻繁に目にします。2018年W杯のポール・ポグバ&エンゴロ・カンテのコンビが典型でしょうか。攻守分担はわかりやすいですが、動静分担はありません。というか、どちらも動きます。
 今、攻守分担と動静分担というワードを出しましたが、これも重要です。分担は2つあるわけです。
 前述のプロトタイプの話に戻ります。我々が一般的に想定している“アンカー”と“インサイドハーフ”には、前者に“静的”“守備的”、後者に“動的”“攻撃的”というバイアスを与えます。そして、どちらかが入れ替われば(アンドレア・ピルロのように)、もう一方も入れ替える(ジェンナーロ・ガットゥーゾやアルトゥーロ・ビダルのように)という平衡感覚が我々にはあると思います。
 そう、そもそも我々は無意識のうちに攻守分担も動静分担も意識できているのです。そして、意外にどちらかしか意識していない国は(フランスメディアが6番/8番が攻守分担しか意識していないように)多いのです。
 ドイスボランチの国は特にその傾向が強いです。そして、ドイスボランチ国家は少なくありません。ポルトガル語圏のブラジルがそうですし、ドイツもドイスボランチが主流です(ペップ・グアルディオラがバイエルンでイマイチ高い評価を得なかった理由の、小さな一つだと思っています)。他にもイングランドも4-4-2文化の国ですが、こちらはそもそもポジションを守るという概念が存在しない珍島なので放っておきましょう。話ややこしなんねんこの国混ぜたら。
 故にこういった国家では、中盤の選手をアンカーと2枚のインサイドハーフではなく、プリメイロ・ボランチとセグンド・ボランチで分類するわけです。カッコつけて現地語を使いましたが、ファースト・ボランチとセカンド・ボランチです。まあボランチがまずポルトガル語ですが。
 そして、その2人にどういう役割を与えるかという観点で、ポルトガル語圏の2国とドイツ、ついでに珍島は異なってきます。
 ドイツは実はそんなに特徴がないように見ています。攻守分担はあっても動静分担はないパターンか、もしくはその逆かです。どちらかが出来ていればそれで良いのか、結構攻撃的なセットができたり、結構動的なセットができたりします。意外にイングランドに近いところはあるのかもしれません。
 ただ、ドイツの凄いところは3センターで言うところのアンカーとIHが一人ずついて、3人でやるタスクを2人でこなすのですが、それが割とできてしまいます。なぜ2人でこなせるのかと言われたら難しいところですが、単にドイツの前線が他国に比べて守備意識が高めだからというのが大きいように思います。代表を見ても天才肌はあまり恵まれない印象の国なだけあって、そもそも全員勤勉に動くことが前提で組まれている印象。守備的にしたりポジション取りを重視して静的にしたりする必要をあまり感じないのかもしれません。もちろんタイプがモロ被りしないようにはしていると思いますが。
 ややこしいのはポルトガルです。そもそも4-1-3-2だった、というのはまさにこの部分で、プリメイロ・ボランチにCBレベルのタスク、セグンド・ボランチにトップ下レベルのタスクを与えていてこちらは結構極端に攻守分担・動静分担しています。同じポルトガル語圏のブラジルはもっと守備的な概念を持っていて、どちらも守備的な中でスペース管理担当をプリメイロ、運動量担当をセグンドが担うイメージです。ここまできたら4-2-4かもしれません(もちろん最近はそうでもないですが)。攻守分担はなく、動静分担のみが存在するパターンですね。そもそも組み立ては2列目のエース格がやるので、ボランチに求められるのは組み立てではなく守備とスペース管理、運動量。ポルトガルより更に攻守分業的です。攻撃タスクは前線に振る分、守備タスクは後ろが担えば良いという前線様の都合のいい人権意識を感じます。司令塔タイプのボランチが出てきたらそいつを諦めるか、無理矢理当てはめるか、そいつを諦めるかくらいの感覚なのかもしれません。実際ブラジル代表もネイマールが組み立ての中心で、ボランチは守備と運動量に偏っています(そもそもパサー人材があまりいない、育てる土壌でもないので当然なのですが)。ネイマールが自分の人権を放棄して必要以上に守備に走るのと、セグンド・ボランチ系の選手の層が薄いのが悪い方向にマッチすることも多い印象です。ちなむと、ネイマールの後継扱いのヴィニシウスはそこに加えてゲームメイク能力の不足に苦労するかもしれません。
 話を中盤に戻すと、Jリーグに来るブラジル人ボランチも守備的なタイプが多いですね。Jリーグがイマイチ中盤中心のポゼッションサッカーが流行らない(スペイン人の戦術家監督がことごとくJ1で壁にぶち当たっている)のもここのあたりに要因がある気がします。アタッカーが作るリーグという要素があるのでしょう。

参考画像:ここまで読んで「早く結論書けや」ってなってる読者のイメージ画像

 そろそろ本題に入りましょう。「ドイスボランチの選手を3センターに当てはめるとどうなるの?」という話です。
 元々この議論はあまり必要ありませんでした。ドイス向きはドイス向きで、ドイスのチームに行く、3センター向きは3センター向きで3センターのチームに行くと棲み分けられていたからです。
 そうでもなくなってきたのは10年代後半から。各ポジションの役割の多様性が広がってきてからです。3人でやっている仕事を2人でやれるならそれに越したことはないという考えです。これによって、カゼミーロのようなプリメイロがアンカーに入ってポジション維持と広範囲のカバーリングを同時にこなすようになります。自分自身やルカ・モドリッチの万能性、トニ・クロースの特殊性が絡んで、敢えて動静分担を無視するメリットが生じたのです。
 これでカゼミーロはCLでスリーピートを達成したわけですが、その影響で広範囲にカバーリングできてポジション取りが上手いというのがトップレベルアンカーのスタンダードになってしまったのです。そうなると、アンカーの役割はカバーリングCBの役割に近づいてきたのです。これで分かりますね。その後に3バックが流行ったり、マルキーニョスがアンカーにコンバートされた要因です。
 これで3センター向きは3センターのチーム、ドイス向きはドイスのチームへという固定観念を取っ払う必要が出てきます。というより、ドイスボランチができる=2人で中盤を支配できることが優位性を持ち始めたのです。
 勘違いされそうなので注釈をここで置くと、もちろん実際チームでどちらを採用するかは別の話です。2人でできるやつを3人配置することもまた強さなので、3センターはここで否定されはしません。
 だからこそ、プリメイロを、セグンドを3センターのどこに置くかという議論が始まるのです。
 もちろん、基本的にはプリメイロ(ファースト)ボランチがアンカー、セグンド(セカンド)ボランチがIHです。ブラジルはわかりやすいですね。前者はカゼミーロやファビーニョ、後者はパウリーニョです。
 とはいえ、その当てはめ方だと意外にうまくいかないのが現実。わかりやすいのが、ブラジル人集団と化していた当時のシャフタール・ドネツクのドイスボランチ、フェルナンジーニョとフェルナンドです。皆さんご存知の通り両者共にマンチェスター・シティに移籍するわけですが、当初はフェルナンジーニョが攻撃的、フェルナンドが守備的という評価で、当時シティを率いていたマヌエル・ペレグリーニ監督もそのような使い方をしていました。
 しかし、実際はドイスボランチは動静で判断するケースが多いです。ここまで、一般論として攻守分担と動静分担のどちらか、もしくは両方ができれば良いというふうに書いてきました。しかし、ドイスボランチの場合、前方に人数がかかっている=前方が攻めればいいので、攻守分担の方が重要性が薄いのは確かなのです。
 なので、攻撃的だから動的に、守備的だから静的にという使い方では破綻するわけです。動くのが得意じゃないやつを動かしても、その逆もメリットが薄いのですから。わかりやすい例ですが、エヌゴロ・カンテを大人しくさせて動かさない監督はいませんよね?それと一緒です。
 他の例だとベンフィカ・リスボンのアクセル・ヴィツェルとハビ・ガルシアのコンビも好例でしょうか(もう10年くらい前、私が中坊だった頃の記憶を頑張って引っ張り出して話しているので内容はいい加減かもしれません)。前者が攻撃型、後者が守備型という評価で、故に前者はIH、後者はアンカーと見られていましたが、実際は前者がドルトムントでもアトレティコ・マドリーでもアンカーを務めている一方(なんかアトレティコでCBやってるのを見た気がしますが気のせいでしょう)、後者は移籍先のシティでドイスボランチかCBといった具合でした。
 今のベンフィカのドイスボランチ、エンソ・フェルナンデス(移籍したよねっていうクソリプはスルーします、これ最初に書き始めたの昨年末なので)とフロレンティーノ・ルイスも同じような感じ。フェルナンデスが静的に司令塔っぽく振る舞うのに対して、フロレンティーノが守備的なタスクを担います。どちらも動けますが、IHほどは動きません。一方で、アンカーほど大人しくしているわけでもない。そして、フェルナンデスの方は実際にW杯で3センターの中央、つまりはアンカーを務めて優勝を果たしています。
 そうなると、2018年W杯のポグバとカンテのコンビのように動き過ぎて破綻する可能性もあるわけです。それを補填する守備的なSH、ブレーズ・マテュイディの役割を、ベンフィカではフレデリック・アウルスネスが担っています。このノルウェー代表選手の働きは意外に重要でしょう。フェルナンデスが抜けてからは中盤での需要が薄まったのもあって、人材不足のRBを務めているのもマテュイディを感じさせます。
 より守備に振ると、CLでベスト4に進んだ当時のモナコ(2016-17シーズン)のティエムエ・バカヨコとファビーニョのコンビになります。こちらはほとんどプリメイロ・ボランチ同士のコンビとさえ言えましたが、一応はキャリアで一貫してレキュペラトゥール(アンカー)を担ってきたバカヨコがプリメイロ、元々オフェンシブなSBで攻撃性能にも長けているファビーニョがセグンドと分類できるでしょう。やはりファビーニョが3センターにうまく適応した一方、バカヨコはチェルシーで苦労した印象です。なぜフランスで典型的なポルトガル語圏のドイスボランチが発生したのかと言えば、監督がレオナルド・ジャルディムでSDがルイ・カンポスだっただけです。要はベースがポルトガル人だったわけですね。
 攻められる選手が相対的に静的な一方で、守れる選手が相対的に動的なのは、4-1-3-2というフォーメーションに理由があるのでしょう。確かに前線に5枚も配置するようなシステムだと1の部分は動き回らないと守備できませんし、逆にいくら4-1-3-2だからと言っても3の真ん中の選手はドイスボランチ程度の守備貢献は必要になる一方、クラシカルなトップ下の系譜なので運動量や機動力はさほど求められません。
 要はプリメイロでアンカーっぽいダニーロ・ペレイラもウィリアム・カルバーリョも、見た目はあれでも動き回らないと意味がないのです。だからダニーロはPSGで3CBの右だったりIHで起用される一方、アンカーやCB中央ではそこまで効果的に働かない傾向があります。静かにすることを求められると、ポルトガルで要求されなかったビルドアップの技術不足を露呈するのもあります。動かないというのは、相手にとって何処にいるかわかりやすくて狙いやすいということでもあるからです。ダニーロの足元でそれは耐えらんないだろ

 だから、冒頭に読者の皆様に投げかけた質問の回答は逆張りになるわけですね。ええ、ここに至るまで6,000字を費やしました。蛇足と寄り道の連続でしたが、ここまで耐えた読者はどんな企業のパワハラにも耐えられることでしょう。お金をあげたいくらいです。褒めて差し上げましょう。

参考画像:ここまで読んで「魔改造の方が面白かった…」となっている読者の例



著・パリ

ここから先は

222字

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?