PSGリオネル・メッシ誕生の意義
PSGフォーメーション予想
現実的なフォーメーションはこのあたりだろう。前線の3枚は、一番下の3トップの組み合わせ方がベストになるのではないか。メッシがグアルディオラの下で偽CFをやっていた頃に比べるとアジリティよりも技巧にかなり寄ってきていることを考えると、エンリケ時代のように右サイドに置いて、得意のサイドチェンジを活かしてエンバぺを左サイドで走らせたい。近年は中盤テイストが強まっているネイマールはトップ下に置きたいので、攻撃に限ればこの組み合わせでうまくハマるだろう。ただし、この場合だと両サイドの守備能力に疑問符が付く。エンバぺとメッシを前に置いて、ネイマールが左サイド、ヴァイナルダム(orヴェッラッティ)が右サイドに回って素早く4-4ブロックに移行するのが理想だと考えられるので、トランジションのことを考えると従来通りネイマールを左サイドに置いてエンバぺを中央にするかもしれない。1枚目は頻繁に噂される3バックでの想定だが、メッシの飛び道具(サイドチェンジ)は活かしにくくなるし、3人の距離感が渋滞する可能性も否定できない。3バック適性があるハキミのためにそこまでするのもバランス感覚に欠けた話のように思える。
もっとも、プレースタイル的な嚙み合わせでいえば、3トップはネイマール、メッシ、ディ・マリアが理想だ。メッシの分も攻守に走る奴隷が欲しいが、ネイマールとディ・マリアはそれぞれバルセロナとアルゼンチン代表でそれをこなしてた(こなさせられてた)(人権問題に発展していた)(北朝鮮の炭鉱状態になっていた)わけで、これほどまでにメッシがプレーしやすい環境もないように思える。ただし、ディ・マリアもそろそろ年齢的なプロブレムが立ちはだかっているのは否めないので、写真2枚目のような攻撃的なオプションだったり、IHの控えにとどめたほうがいいのではないだろうか。
写真1枚目の3バックには否定的だ。ラモスを使うための方策として予想されているのだろうが、本人自体がコンディション的にも実力的にも厳しいのではないか。3バックでは中央に最も適性があるものの、チャレンジャー型CBを中央に入れると両サイドCBとの組み合わせが一気に難しくなる。実例でもダビド・ルイスがやっていた程度しか思い浮かばないし、彼はそもそもボランチで機能する程度に機動力とポジショニング能力があった。3CBの中央は適性でいえばダニーロ・ペレイラやマルキーニョスに分がある印象だ。サイドCBは機動力が求められるので、年齢的に厳しいのではないか。同様の理由でRB器用にも否定的だ。
4バックでは現状の能力でキンペンべに劣る。チャレンジャーは出足の鋭さが重要になってくる分、年齢と共にそこの衰えが否めないラモスは無理がある。そもそも、35歳で膝にメスを入れたアスリート系CBを獲得してくるフロントの神経がおかしいのだが。せめて動く人を取るべきだろう。
ドイスボランチ(IH)は正直新加入のワイナルドゥムとヴェッラッティで固まるのではないか。平均的な選手のイメージが強いワイナルドゥムだが、稼働率は抜群に高く、同じく稼働率に定評があるパレデスよりも安全なプレー選択が多くてリスク管理に長けている。ヴェッラッティの稼働率は不安だが、そこをカバーするのはゲイエかパレデスになるだろう。個人的には、移籍金と素行、守備能力の観点でパレデスを切ってほしいが。もちろん、そこにカマヴィンガが入ってワイナルドゥムと争ったりヴェッラッティの欠場時の穴を埋める存在になれれば理想だ。エレーラは愛するファンが多いマンチェスター・ユナイテッドに帰ろう。たぶんレギュラー取れるし。
WBは不安しかない。左で復帰してくるファン・ベルナトは丸1年の離脱からの復帰が見込まれているが、前十字靭帯断裂という大怪我にしてもいささか長い。相当状態が悪い可能性も否定できず、ここは移籍期限ギリギリまでに何らかの補填が欲しいところだ。あっ、テオ・エルナンデスは結構です。ハキミみたいなのもう一体増やして何になるんだよ。そのハキミももちろん不安材料だ。ドイツやイタリアでは通用していたが、フランスでは最大の武器であるスピードという長所が相対的に薄れる。足元は平均的で、守備力はカンセロ級と考えると、これはヤバいかもしれない。てかこれならエンバぺWBでもいいじゃん。ダメならメッシの奴隷にするかチェルシーに出荷しよう。たぶんトゥヘルがキレて辞任する。
肝心の結果は他クラブ次第の相対的なものなので、言及は避ける。リーグアンを制せないとは考えづらいが、CLは本当に相対的だ。私の予想は、付け入る隙は存在するが、現状対抗できるチームを推挙することはできないというくらいだ。ここのところは本命不在の大会が続いており、本命が出てきただけでも良しとしていいのではないだろうか。本命になってスターを揃えた以上は、「狙って獲る」という一番難しく、一番強い勝ち方を見られる可能性があるということである。
獲得の意義
正直戦力的な意味合いは薄いだろう。攻撃陣が手薄だったのは事実だが、欲しかったのは王様ではなく、ディ・マリアに代わることができる奴隷タイプだったからだ。歴代最高クラスのプレーヤーであることは間違いないが、ネイマールとエンバぺを抱えているクラブがそこにメッシを上乗せする必要があるわけはない。ポチェッティーノからすれば、ショートケーキとモンブランがあるのにパフェが来た気分だろう。あのお腹を見る限りワンチャンいけそうだけど。
ただし、歴代最高クラスの選手が初めて移籍という行為を選択し(選択せざるを得なかった)、そのハジメテになるというインパクトがどれほど大きいものかは計り知れない。歴代最高の選手がマラドーナか、ペレか、メッシかは人によるだろうが、ビジネスライクな21世紀の欧州サッカーでワンクラブマンを貫いて6個のバロンドールを持っている選手という付加価値で見れば、歴代最高の存在であることは論を俟たない。それだけ大きな存在であり、別格のスターである人間を(事情があるとはいえ)動かしたという事実は、クラブの価値をこれまでより一層引き上げる。というより、欧州のリーダークラブたる地位を確立したと言えるだろう。
実際、この状況でメッシを受け入れるのはリーダーとしての振る舞いそのものだ。通常のクラブでは金銭面、環境面のどちらかの問題で受け入れ態勢が整わない。資金力を有していて、競争力も申し分なく、スターの扱い方にも実績があるチームは、パリしかなかったのではないか。バルセロナから離れることが決まったメッシが、一直線にエッフェル塔を目指した事実がそれを物語る。要するに、これによって欧州の盟主としての地位を持ち、その地位を完全に確立する移籍となったのだ。これは、カタールがW杯までに成し遂げたかった野望であり、ビッグイヤーのその先で叶えるはずの夢だった。カタールからすれば、願っていた以上の奇跡が起きた気分なのではないだろうか。
もっとも、こういった立ち位置を確保するためにパリ・サンジェルマンを買ったという見方はできる。1強リーグは古巣と戦う機会が少ない。これは国内試合だけではない。例えばCLのグループリーグと決勝トーナメント1回戦だ。同国対決が避けられる抽選方式なので、もしプレミアリーグに移籍すれば、古巣との対決が実現する確率が理論上高くなる。その点PSGは確率論的には古巣と当たる可能性は低い。加えると、イングランドやイタリアのようにサッカー中心の国でメディアやファンからのプレッシャーが理不尽と言うこともない。フランスはラグビー国家だからだ。選手の側からすれば、クラブとメディアの癒着が強くてメディアがクラブに都合のいいように動く傾向が強い国、タブロイド紙みたくワンシーンをいちいち切り取られてネタにされるような国には行きたくないというのもあるだろう。もちろん、これまでにも散々連呼されている金銭面やパリという都市の魅力も大きな要因である。そして、これらの要因が大物選手からすれば心理的に行きやすいチームであり、ブランディングしやすい環境を作り出している。こういった計算がカタールにはあったのかどうかは石油王のみぞ知るわけだが。
話を戻すと、PSGの算段では、去就問題で揺れるエンバぺに強すぎるまでの圧力をかけられるというところも魅力的だっただろう。ここまでは残存契約が1年になったエンバぺが、クラブサイドに圧力をかけていたが、こうなると完全に形勢逆転だ。メッシとネイマール有するスター軍団が、「この状況で離れるの?」と言わんばかりに圧力をかけられる。メッシとネイマール、エンバぺの3人の競演を夢見る世間は、エンバぺの移籍には否定的もしくは強い感想を持たないだろうからだ。そもそも、この夏の市場の主役はメッシで決定であり、ここからエンバぺが動こうが動かまいが主役にはなり得ない。取る側のマーケティング的な旨味もかなり減るだろう。ヒールキャラだったPSGがもはや正義の側に移ってしまい、その逆がヒールになるパラレルワールドが実現した以上、そこから出ることは相当なプレッシャーがかかる。
移籍するにしても残留するにしても好条件を引き出したかったエンバぺサイドにとって、メッシの移籍はこれ以上ない痛打になった。ミスだったのは、市場の動きを読み違えたことだろう。この夏の主役は自分だと思っていたような動きだったからだ。親族代理人で、情勢について知るコネクションは少なかったのが要因だろうが、メッシが動くという情報を掴めなかったのだろう。メッシ、ロナウド、ネイマールは一般レベルでも知られた選手だが、エンバぺはサッカー界の域をまだ脱していない。”御三家”の誰か一人が動くと移籍市場で主役になるのは厳しく、正直代理人業務を半分程度は大物代理人に委譲したほうが良いように思った次第である。
一方のバルセロナとメッシは、予定されていた別れのように思える。CVC問題があるにせよ、CVC案件が本格的に持ち上がったのがここ1週間のこと。受け入れれば再契約できたようだが、裏を返せばその話が出てこなければ再契約は絶望的だったのではないか。再契約楽観ムードはクラブの外に悪い雰囲気を長期間漂わせず、新加入選手を迎えやすくするためのハッタリで、バルサとメッシの間ではある程度の話がついていたように思える。実際、退団が決まってからパリへと向かう速度は尋常ではなく、その迅速さでごまかされているものの、急転直下で退団が決まった割には不自然にスムーズに移籍が決まった。恐らくはバルサとメッシ、メッシとPSGの間では以前から話がついていたのだろう。バルサはメッシとの美しい物語を壊さないために悪役を買って出た。メッシはクラブとの関係も自分の格も落とさずに済むエッフェル塔を目指して、PSGもそれに応えた。キレイで最大限配慮した結果のように思える。
PSGはカタールW杯前の最後のタイミングで、これ以上ないストーリーを描いた。W杯が終わればどうなるかはわからない。ただ、カタールの10年プロジェクトは、イブラから始まってネイマール、メッシとおそらく最大の奇跡まで起こしてクラブをヨーロッパの主役にした。プロジェクトは成功であり、ドリームチームがあとは競演すれば画竜点睛となる。この後の結果は正直クラブも世間もさほど気にしないだろう。そんなことを気にしているのは、暗い部屋の隅でスマホをいじっている人種のみである・・・。