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Match Review|UEFA Champions League 2nd leg |PSG vs Borussia Dortmund

次世代最強FW対決が注目されたこのカードは、無観客のホームで戦うディスアドバンテージを強いられながらPSG(=パリ・サンジェルマン)の勝利で終わった。スタジアムの外ではPSGのウルトラスが大声援を送り、試合後には選手たちがスタジアムの外に出てファンと喜びを分かち合うという、異様だが感動的な光景も見られた。

<決勝T1回戦は逆転劇の温床>

勝った後の2ndレグは意外に難しい。勝利後のハイテンションを維持し続けるには間が長すぎるし、相手が調子を戻して勢いをつけてくる可能性も高い。
特に、決勝トーナメント1回戦の試合間隔は3週間。1週間程度なら勢いを維持できるし、相手の身体的・精神的回復も見込みにくいのだが、3週間だと負傷者が戻ってきたり、勝ち続けたりして相手がやってくる。わかりやすくいえば、追われる側の難しさを巧く体感できてしまうのだ。
1stレグで勝利を収めたドルトムントは、その経験がないチームだ。チャレンジャー精神を是とするチームで、追われる立場の経験は国内外両方で少ない。選手の中にも経験値の多い選手はマッツ・フンメルスくらい。彼の復帰に反対する声は多かったが、フロントは経験値や年齢のバランスを気にしていたのではないか。今冬のエムレ・ジャン獲得もその側面を考えてのものだろう。
しかし、フロントの努力の甲斐も虚しく、最悪の試合運びをしてしまった。

<戦い方を間違えたドルトムントは典型的な“逆転される側のチーム”だった>

はっきり言って、ドルトムントは戦い方を間違えた。ボールロスト後の即時奪回を目標とし、かなわない場合は即ハーフラインまでプレスラインを下げてリトリートするわかりやすい形だったが、リトリートは必要なかったのではないか。というのも、1stレグでPSGのマルコ・ヴェッラッティが出場停止になっていて、PSGの中盤は運べるMFが不在状態だった。つまり、プレスをかいくぐる選手はいなかったのだ。ちょくちょくこの試合でもハイプレスにPSG選手が苦戦するシーンはあり、ハイプレスを強気に続けていれば可能性があったように見える。
そもそも、守備的に振る舞う点差だったのかがまず疑問ではある。2−1勝利だったとは言え、アウェーゴールを奪われている状態の2−1は引き分けに近いものがある。SNS等を中心にやたらとクラブ一丸となって煽り倒していたが、まだ半分が終わった時点でいささか傲慢すぎやしないかという感想を抱いたものだ。
話を元に戻すと、一度守備的に振る舞ったチームが攻撃に転換するのはとても難しい。選手交代でわかりやすい合図をしない限り。
その合図は実際用意されていた。エルリン・ホーランと全く噛み合っていないトルガン・アザールをわざわざスタメン起用して、スペース創出に長けたユリアン・ブラントをベンチスタートにまでしてその伏線を張っていた。
しかし、伏線を回収する前にきれいに2失点したのを見ると、ストーリーに拘泥しすぎたのではないかと思える。攻撃は最大の防御という言葉がある通り、攻撃に少しでも可能性があればPSGにプレッシャーをかけられたはずだ。しかし実際は、エースのホーランでさえ消えてしまっていた。攻撃の可能性は全くない状態にまでして、ブラントをベンチスタートにするメリットはなかった。途中投入するスーパーサブは、ブラントじゃなくてもジョバンニ・レイナも居ただけに尚更だ。
伏線を張ったなら、守り切るビジョンは描くべきだった。失礼を承知で言えば、あの構成でどうして守れると思ったのだろうか。
前線の組み合わせがどうであれ、トゥヘルが確実に狙っていたのはエムレ・ジャンとアクセル・ヴィツェルのドイスボランチだろう。悪くないコンビだが、どちらも直情的になりやすいからか前方に意識が行きがちで背後へのケアは甘い。背後をボランチがケアできない分にはCBのスペース管理能力が必要となってくるが、ドルトムントの3バックの中央を務めるマッツ・フンメルスは機敏さに欠けるので前方のケアは苦手。要はCBとボランチの相性が悪い状態だったと言える。
結果、DFと3列目のライン間を使われ放題になった。この日のPSGはそもそも2列目サイドから中に切り込んでくるネイマールとアンヘル・ディ・マリアに加え、スペースを創るのも使うのも巧いエディンソン・カバーニとパブロ・サラビアまで起用して徹底的にライン間を狙ってきていた。前半終了間際には、そこにLBのファン・ベルナトが突っ込んできて大混乱し、そのベルナトに決定的な2点目を与えてしまった。
ルシアン・ファーブル監督はその対応に追われて有効な策を打てなかったばかりか、交代を遅らせてしまった。対応できなかったヴィツェルを71分に下げたが、その時すでにPSGはキリアン・エンバペを投入していた。エンバペがベンチスタートなら、途中から出てくるのはわかっていたのだから、出てくる前に流れを変える手を打つべきだった。アザールをブラント、ヴィツェルをレイナに替えたのは、エンバペが投入された10分後。延長を睨んでいたのかもしれないが、エンバペに先を越されないことが先決だったと感じる。
ジャンの退場は妥当でしかなかった。トルコ系らしく熱情的なこのボランチは、1stレグから良く言えば気合い十分、悪く言えばエキサイトしすぎなプレーを連発していた。自分からどうぞ狙ってください、と言わんばかりのプレーぶりで、それを狡猾な南米選手の多いPSG相手にやったのだから開いた口が塞がらない。あの内容では終盤気持ちが切れたのは理解するが、そもそもそういう展開にしてしまったのも自分の責任が大きいだろう。経験を買われて移籍してきた選手というのも含めて擁護は難しい。
引いて逆転され、流れを変えることもできなかったファーブルの表情は、ウナイ・エメリのそれと被って見えた。

<強いトゥヘルPSGの試合だった>

一方のPSGは、昨季のリバプール戦を彷彿とさせるハイテンションな内容を演じた。
1stレグで2発を沈めてきたホーランをプレスネル・キンペンベとマルキーニョスが徹底監視。出色だったのはキンペンベ。集中した表情で鋭い出足でインターセプトを連発。そもそもホーランにボールを渡さなかった。攻撃面でも的確な判断でプレスを躱し、本来運び役を担うはずだったヴェッラッティの不在を埋めてみせた。
ヴェッラッティの不在を埋めたのはベルナトとティロ・ケーラーもだ。前者はDFラインから運び、ネイマールと有機的に絡んでコンビネーションで突破を図り続けてドルトムントDF陣を翻弄。守備ではアクラフ・ハキミに全く仕事をさせずマッチアップに完勝した。後者は、攻撃的なベルナトとのバランスを取りながら的確な配給とポジショニングで攻守に貢献。レアンドロ・パレデスが若干釣り出されて不安定なポジショニングを取っていたのを、イドリッサ・ゲイエと一緒になってカバーしていた。1stレグでマルキーニョスが右CBとしてこなしていた仕事を完璧にトレースし、彼が1stレグに出ていればもっと楽だったのではと思わされた。
後方にはビルドアップに長けたDF陣、前方にはネイマールやディ・マリアといったゲームメイカーを得たドイスボランチは欠点も多いコンビだが、守備の役割に集中できるコンディションを得て奮闘。特に典型的な守備的MFであるゲイエは出色の出来を披露した。選手の能力に応じて適切な仕事量を与えていくトゥヘルのマネジメント能力はさすが中小クラブを躍進させただけあるなと感服させられるものだった。
そして、後方の選手たちを引っ張ったのは前線のラテン系選手の熱量だった。特にネイマールとディ・マリアにはこの試合にかける想いを感じさせるパフォーマンス。先制点はこの2人の息がピッタリ合ったCKだった。カバーニもチームトップの走行量で攻守に効果的な働きを続け、サラビアも適確なポジショニングを取り続けてアシストを記録した。2000万ユーロにも満たない移籍金だったことを考えればとんでもないヒット補強だったと感じさせられる。
パリの4−2−2−2は、欧州戦では熱量を一番引き出すフォーメーション。ネイマールの奮闘と、試合後の感涙を見るにつけそう感じさせられた。

<両者共に冷静でいて欲しかったが>

試合後、PSG選手の振る舞いが物議を醸した。ホーランの“禅パフォーマンス”を真似て、揶揄した集合写真がクラブの公式SNSから発信されたからだ。
伏線はあった。1stレグで、ホーランがこのパフォーマンスをしたのはペナルティーエリアの中だった。他の選手を見ても分かる通り、ゴールパフォーマンスはなるべくピッチの端に行って行うのが相手GKへの礼儀。ピッチで座り込む行為自体あまり好意的に受け入れられないものであることも含め、非常識なゴールパフォーマンスだった。
ドルトムントの公式SNSでもこのパフォーマンスを使った煽り気味の画像が投稿されたり等、PSG側を刺激するような行動が見受けられた。真偽の程は不明だが、ホーランがSnapchatに投稿したとされる“煽り画像”はPSGの公式チャントを揶揄する文言もあったとされ、それがネイマールを中心としたPSG選手の心に火を点けてしまったのではないかと思われる。
もちろん、煽り返しもどうだかな、と思う。少なくともPSGはこの大会を制覇したいと思うなら、言い方は悪いがドルトムント程度の煽りはサラッと受け流すべきだった。同じレベルには立って欲しくなかった。
ホーランにも失望させられた。彼の煽り行為は、ネイマールとはまた違った悪質性がある。タブーに触れてしまって、冗談ではなく本気で他人を怒らせてしまうタイプに見受けられるのだ。今回は運良く煽り返されただけで済んだと捉えて欲しいものである。ロイ・キーンにエゲツない報復をされている過去(もちろんキーンが悪質なのは当然だが)を持つ父親の遺伝ではないかと気にかかって仕方ない。そういった性質が、偉大なものになるはずのキャリアを台無しにしないことを祈りたい。
選手だけでなく、両軍フロントにも今一度リスペクトの姿勢を思い出してほしい。勝利後のSNSは見るに堪えなかったし、ドルトムント側のオトナたちも“金満批判”等余計なことを言い過ぎである。クラブの上の人間がああいった姿勢を見せれば、選手も煽り合いになるのは当然だろう。背広役として、キチンとあるべき品格を示すべきだ。
残念な締めになってしまったが、2戦とも勝者は讃えられるプレー内容だった。無観客というハンデを乗り越えてトータルでの勝利を得たPSGも、予算規模で大きく上回る相手に可能性を示したドルトムントも良いチームだと思う。やってしまったことは仕方がない。これから変えていけば良いのだから。
<この項おわり>

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