3-14. 意外の洗足式(優しいドライバー)
「何か匂いますね。」
バスの空気に載った正体不明の強烈な匂いは
あっという間に出発を目前にした車内を支配しました。
やばい(?)匂いでした。
僕のコメントにバスのあちこちから
嘆声(?)が出てきました。
「臭い!」
「やばくない?」
???
何の心配もなく、
多くのお客様に付いて
一緒に出たツアーが
懐かしい感じを超えて
もう非現実的な話に感じる最近です。
一緒に観た美しい風景、
顔にすれる美風、
風と共に載せてきた海の香、
雄大な大自然、
そして、旅でのいろんな出来事と思い出、
特に、まだ添乗員として自分に自信ふがなかった
新人の頃が未だに心に残っています。
地方からいらっしたお客様たちを東京駅からお迎えし、
観光バスは常磐道を走りました。
まだ心的な余裕がなくて、旅の楽しみより
「お客様を満足させないと」「絶対ミスしてはいけないぞ」
という圧迫感が頭を押していました。
心優しいお客様たちですが、初対面ではまだ気まずいとか
確信できないという不安な目で見られるのも現実です。
お客様たちと添乗員間微妙に発生するこの空気、
つまり、緊張感は以外な事でボン!と解消される事もあります。
この旅ではとても優しいドライバーさんに出会いました。
お客様に対するおもてなしはもちろん、
新人の外国人添乗員にもいろいろ気配ってもらいました。
バスは常磐道を走って走って、
日本三大名瀑、袋田の滝を寄ってまた北へ、
福島県いわきの方に走りました。
宿、ハワイアンズを行く前に最後に寄るところは
太平洋を綺麗に望める塩屋崎灯台でした。
青空を向けて綺麗に立っている真っ白の灯台、
綺麗な海は
長い時間バス旅をした
お客様たちの疲れを
優しく取ってくれました。
そして、バスに戻り、出発しようとしたら
何か強烈な匂いがしました。
「何か匂いますね。」
「臭っ!」
あちこちから嘆声がでました。
これは…おそらく動物のうんち(?)の匂いでした。
このまま出発は無理と感じるレベル(?)で僕は、
「皆様、念のためご自分の足元を確認してください」と
車内底を確認しながらコメントしました。
その時、
「添乗員さん、足!」
あるお客様が僕の足を指輪で指しました。
「え?」
車内を歩く自分の足跡が出来て何かついていました。
当惑した僕は自分の右足靴底を確認しました。
!!!
恥ずかしくて真っ赤になった顔で僕は
「す、すみません、犯人(?)は自分でした…」
「わははははは!!!!」
バスが揺れるほど(?)車内は大爆笑でした。
意外な事件(?)で添乗員とお客様たち間の
緊張と警戒という壁が一瞬崩れました。
僕が感動したのはこの後の事です。
車内を汚した自分に怒っても(?)おかしくないドライバーさんは
「皆様、出発前に少し綺麗にしますのでそのままお待ちください。」と
コメントし、テキパキと車底を掃除しました。
「換気しよう」とお客様たちも自分の座席窓を開けて協力してくれました。
「オーさん、ちょっと靴失礼しますね」
掃除を済ませたドライバーさんは今度腰を下げて
濡れタオルで僕の汚れた靴を直接綺麗にふいてくれました。
実に感動しました。
お客様たちはこの場面を座ったまま暖かい目で
静かに見てくれました。
臭い匂いと空気は今度
穏やかで温かい
甘い空気に変わりました。
その空気を乗せてバスは
太平洋が望めるいわきの海に沈む
太陽を見ながら
出発しました。
ドライバーさんにとても感謝します。
この事件(?)をきっかけでドライバーさんとは
しょっちゅう仕事で出会い、
今は個人的にも連絡する
友人になりました。
「○○さん、本当にありがとうございます。
そして、尊敬します。」