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白頭山(はくとうさん)の死#7最終話(エピローグ)

馬に乗せてあげる!
パパの友達おじさんに誘われて
パパと一緒に山の中腹にある小屋へ行きました。
3匹の白馬はとても体が大きくて立派でした。

しかし、小屋の中に入った私はつい泣いてしまいました。
温かい火をつけたペチカの上に、
四足を広がれた虎の皮が掛けられていたからです。
私は怖くなりました。
この前出会ったやつとは似ていましたが、
よく見たら
やつより大きくて模様もちょっと違いました。
でも、
怖くて悲しい気持ちはなかなか変わらず
庭に出ました。

馬たちが馬屋で湯気がモヤモヤ出ている湯てた草を美味しく食っていました。
ところが、その後急に驚いて前足を立ち上げ
騒ぎました。
どうしたの?
そして、
私は見ました。
山道の方
森の中で逃げる大柄の動物
去る前、私に顔を振り向いたあいつ
しま蝶々の模様とそっくりの虎さん。
一瞬の事でしたが、
はっきりと見ました。
喜びを伝えたやつの目つきを。
大人たちがそんなに怖い鉄砲を撃ったなかったら
私がやつの所まで走って抱っこしてあげたかったのに…

その後、やつに追いかけて山道を出た5人の大人たちと怖いワンちゃん達が
遅い時間まで戻ってこなかったからパパとパパの友達のおじさんは怒って
山の下仲間たちを呼びました。
良く分からないけど、
大人たちは多分、
虎さんを殺そうとしているようです。
パパが言いました。
やつは人を何人も殺した悪いやつだと。
でも、
私は知っています。
訳なく勝手に人を殺すやつじゃないことを。
おじさんの小屋に掛けられた大きい虎の皮がやつのママだと
後で聞きました。
やつが怒った理由が分かりました。

翌朝、山の下から登ってきた大人たちが小屋で交流したら
皆でやつをつかもうと小屋を出はじめました。
腰までの高さにたくさん積もった雪にも気にせず
白頭山(はくとうさん)の山頂方面に向かいました。
パパ、お願いだからやつを殺さないで。

ところが、
おばさんと小屋で待っててと言い
他の大人たちと出るパパが
何が思い出たか、
ひょっと私の顔を振り向いて
友達のおじさんと何か話しを…
そして、急に戻って
一緒に行こうと言いました。

虎さん、殺さない?
うん、殺さないよ。
本当に?
うん、今虎がケガしているからさ、
捕まえてケガも治してあげて食べ物もあげるんだと。
私は喜んで小屋からマフラーと手袋を持って
虎さんに会いに
一緒に小屋を出ました。

しばらく山道を登って早道を利用し、
大きく曲がっている渓谷も皆上手く通過しました。
私はパパにおんぶされました。

やがて草原が出た頃
パパの友達おじさんが
あそこに虎さんがいるぞと
行ってみてと言いました。
パパは私の事を心配している顔でしたが、
友達のおじさんがパパの肩に手をかけて、
「俺はプロの猟師だ。俺を信じろ。」と言いました。
ウン?何の意味?

やつに向かって歩きました。
ところが、
え?
あれ??
先までいたパパと大人たちが急に見えなくなりました。
パパ?どこ?
一人になってしまった私は
怖くなって泣きながら、
慌ててキョロキョロと当たりを見回しました。
その時、
やっと私の事を気が付いたか
雪だらけの次地からやつが私に姿を見せました。
蝶々を似ているしま模様は相変わらず綺麗でした。
その間もっとたくましくなった気がします。

私が泣いているからか
ちょっと当惑した表情でした。
先までの怖い気分も
春の温かい日に雪が解けるように
すぐ喜びの笑顔に変わりました。
やつも喜んでいる顔でした。
ほら、見て。
やつは悪いやつではない。

その時、
「トン!トン!」
急に後ろから鉄砲の音がしました。
後ろ足に当たったかやつがふらふらして血が出ていました。
そしてどこかからかわながやつを狙って投げられました。
やつはケガした体を速く転がしてギリギリわなを避けました。
あっという間の事で私は一体どういうこと?と
ボーっとしていました。
いつどこから出たか消えた大人たちが急に出て
パパがすぐ私を抱っこして逃げました。
……

まだまだ幼い私でしたが、
分かりました。
大人たちが
私を利用して
やつをつかもうとしたという事を…
殺さない。
捕まえて治療して食べ物をあげると
約束したのに…

パパも大人たちももう嫌になりました。
やつが可哀想
すまない。
涙がでました。
パパ、降ろして!!

「トン!」
……

時間が止まったようでした。

胸から血を流し、
力なく倒れて
やつは
私を見ていました。

虎さん、
ごめん…
本当にごめん。
あなたがこんなことになるとは
私…
全然思わなかったわよ。
目に心を込めて言いました。

…大丈夫。
君は悪くない…僕…これから
ママに会いに行くわ…
と、やつも目で返事しました。
そして、何かを思い出している様子でした。
平和な顔でした。
そして、
一度大きく咆哮して動きを止めました。

虎さんよ、
さようなら…
<終>

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