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白頭山(はくとうさん)の死#2(成長)

ある日、早朝からお母さんはいつも横になる前、登っていた「咆哮の崖」に僕を連れてくれました。
生まれて初めて登った「咆哮の崖」は下から見上げて想像以上、高い崖でした。
下は足が振れるほどはるかな距離でした。
まさかこの世でこんなに怖い所もあるなんて…
反面、崖の頂上から見下ろした風景、
真っ白で覆われた雪が太陽に反射し、まぶしい山の風景は
見事の絶でした。世の中を見下ろす、全身の神経を刺激するこの感覚は一生忘れません。
お母さんが毎晩わざわざここまで登って咆哮する気分が何となく分かりました。
きっとお母さんも僕の年齢頃、お祖母さんから連れて来たかしら。
僕にこの気分を伝えようとして、ここまで連れて来たわけですね。とお母さんを振り向いた途端、
お母さんが予告もなしで「咆哮の崖」から僕の体を押してしまいました。

え?
うわぁ!!!
お、お母さん、まさか僕を殺す気?
びっくりしてお母さんを振り向いたが、
もう崖から押されて空中に飛ばされ、僕の視野からお母さんの無心な表情はどんどん遠くなりました。
重力に引かれて体は一瞬、はるかに遠い下に落下しました。
状況を考える余裕もなく
途中数回ほど別の崖にぶつかって
最後は腰に火に接した様な熱い衝撃を受けて雪だらけの地面に転がりました。
先日降った厚い雪がある程度クッションの役割をして助かったがけど、
はるかに高い「咆哮の崖」から落ちたのは命の問題でした。
なぜ?
なぜ、お母さんが?
僕はそのまま気を失いました。

どんなに時間が経ったのか。
僕が目を覚めた時はもう昼も過ぎてからです。
お母さんは先と違って愛情をたっぷりと込めて僕の傷を優しく舐めてくれました。
先の衝撃で腰が痛かったです。
どう考えてもお母さんがなぜ僕を「咆哮の崖」から押したか納得できませんでした。
時間が経って雪が解けてこの山にも春がやって来た頃、
僕の体は完全に回復しました。
その後も僕は再びそして、数回もお母さんから「咆哮の崖」からわざと押されました。
むろん、多数のケガをしましたが、回復力もどんどん早くなり、
従って僕の体も本能的にどんどん慣れて
やっと五回目からは
あんなに高い「咆哮の崖」からケガなしで落下することが出来ました。

やっと分かりました。
弱肉強食!
この世で弱い者は生き残れません。
ただ、捕食する者の一食の食べ物にすぎません。
虎としても例外はありません。
お母さんは僕を強く育って自分がいなくても生き残る方法を教えてくれたです。

「咆哮の崖」での訓練が終わってから僕はお母さんに添って狩りに出ました。
お母さんとの狩りも徐々に慣れて「闇の渓谷」方に行った夏がやってきた頃です。
鬱蒼とした蘇鉄森の中で土を掘りながら食べ物を探している
僕くらいの大きさの猪一匹がいました。
僕はお母さんに付いて静かにやつに近づきました。
僕らが後ろで狙っているのが分かるかどうかやつは土を掘るのに夢中でした。
その時、僕はつい突き出ている蘇鉄木の小枝に右足にかかって、
大きい音が出てしまいました。
瞬間やつは動きを止めて周りを警戒し始めました。
慌ててお母さんを振り向いたですが、
あれ?
先まで隣りにいたお母さんが見えなくなりました。
お母さん?
お母さん、どこ?

後ろの背中から何となく強い気が感じられました。
怒ったやつが僕の事を気付いたです。
あれ?
逃げないのか?
相手は小柄の猪ですが…
虎を見たら本能的に逃げるとやつの遺伝子には刻んでいるはずですが…
え?え?
むしろ、やつは僕に殺気で殺到して来ます。
正面勝負か!
慌ててもしょうがない。
これもお母さんのテストかと思った僕はそのまま受けることになりま…
うお!!
痛って!!
やつは小柄なのに強烈でした。
避けるタイミングを逃してやつの角みたいに鋭い奥歯にぶつかれて
自分の意志と関係なく
体は空中に飛んで投げつけられました。
危なかったです。
数メートル後ろは「咆哮の崖」の逆さまバージョンである
「闇の渓谷」でした。
はるかに深いです。

邪魔した俺を許さんか、
怒りが収まらなかったやつは再び僕に殺到しました。
そして、

良し!
二度はやられません。
やつ頭が悪いのか僕が相手にする降ふりをして
ギリギリに体を控えたら
そのままブレーキをかけずに
そのまま「闇の渓谷」にごろごろ転んで落ちました。
やつは骨折でもしたか苦しそうな大きい泣き声です。
狩りは力だけではありません。
知恵も伴います。
渓谷の下まで降りるのは面倒くさいだが、とにかく体力は稼ぎました。
ところが、お母さんは?
狩り終わったからそろそろ体を表しても…

あれ?
急に夜がきたかしら?
「闇の渓谷」とはいえ上がいきなり真っ暗でした。
うわぁっ!!!
……

谷に落ちたやつ泣き声は…
自分の親を呼ぶシグナルでした。
その真っ暗の正体は
本能的に子供の危険を感じ
どこかから稲妻の様に反応し
僕に四倍ぐらいの巨大な大柄を僕に突き飛ばす
上げる憤怒を抑えない目つきの大人のメス猪でした。
ジャンプしたどっしりとした闇は
そのまま僕にひっつかまえる。
もう終わりか…
僕は逃げることも出来ず目を閉じました。

その瞬間、
見ても信じられないことが起こりました。
稲妻よりもっと速い何かが横からやつに体を投げて
やつと共に「闇の渓谷」に転がりました。
お母さんでした。

転がりながらお母さんとメス猪のどんでもない死闘が始まりました。
お母さんの咆哮の声、
濃いほこりと共に飛び散る熱い血!
凄絶なメス猪の悲鳴とあがき。

やがてお母さんは無力に息の根が止まったメスの猪を嚙んで谷から登って来ました。
お母さん!

僕も下に降りて先の子供の猪を嚙んでお母さんに付きました。
「闇の渓谷」での経験で僕は更に成長しました。

毎日お母さんと狩りに出て生存する方法を経験しながら教えもらいました。
相手を殺す目的はひたす食べて生き残る為のみです。
「闇の渓谷」の経験以外にも、
赤い熊との闘いにはかなり危険でした。
オオカミ群れとの闘いでは後ろ左足を深く嚙まれて
回復までしばらく狩りを休みました。
ヤマアラシのとげに刺さってからどんな者もピンチになると
死ぬ気でぶつかって来ることも分かりました。
油断禁物!

僕はどんどん成長し
お母さんを似て、
虎としての本能が沸き上がりました。

<続き>

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