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2-1. 「モネの池」 キャンバスを破って出てきた風景

2017年11月○○日

紅葉、深く染める秋の最後シーズン。
お客様たちを乗せた観光バスは静かな田舎の道を走っています。
車窓外に、ほほえましい情景の水田や畑が見える風景。

海に面せず、内陸に囲まれている8県のひとつである岐阜県

岐阜県と言えば富山県と共に世界に誇る「白川郷・五箇山の合掌造り」で有名ですが、今日はちょっと方面が違います。

朝早くからホテルを出発したせいで軽く睡眠中のお客様、
仲間と楽しくおしゃべりするお客様、
車窓の風景を静かに鑑賞するお客様。
様々な様子ですが、バスの中は安定した平和な空気が包んでいました。
ただ一人だけイライラしていました。
添乗員の自分でした。

50人近くのお客様を案内する責任を負っているだけに
初めて行くこの目的地への不安感はなかなかの不慣れ。
「これを見るため東京から一応、来たんだけどさ、
全然似てなかったらどうしよう…」
「まさかあの絵と似ているなんて無理だろう」
事前調査はもちろん終えたけど、情報と実際が違うことも頻繁。
その責任は現場の添乗員に丸投げ…

自然の事はどうしようもないげれど、昨日は雨でこのツアーのメインの一つであった「10月桜」があまり咲かなくてひんやり。

期待以下だったお客様に何とか挽回しようという気持ちが

強くなるしかない。

*リラックス!とにかくお客様を動揺させない!

3年目の経験から得た添乗員としての結論です。

どんな場合でもお客様には笑顔を見せるのが添乗員(特にガイド無しのツアー)の宿命。


そのうち、バスは

山と川を挟んで車があまり通らないくねくね地方道に合わせて

ゆっくりと走っていました。


ちゃんとした案内看板もない目的地なので

ドライバーさんも気を使いながら

ナビゲーションに頼ってゆっくり進んでいました。


あまりにも高くない山を背景にして

遠くから目印であったお花屋のビニルハウスが見えてきました。


「皆様、大変お待たせしました!」
ドキドキしているお客様たちを引率しながらバスがら下りて

畑中の土道を歩きます。

この瞬間だけは、

仏様より、

イエスキリスト様より、

アッラーフ様より、

グーグルマップが神様です。

山麓から降りてきた濃い霧が新鮮な朝の空気をたっぷり連れて

下まで迎えてくれました。

山に向かう狭くて急な石段の上には
あまり目立たない古い神社(根道神社)が見えました。
その下にやっと

小さな池が見えてきました。

別に名前もないこの池は

ある有名な画家のある作品と信じられないほどそっくりで
最近全国に知られました。

「モネの池」
うん?モネ?
日本で?しかもこんな所へ?
いきなりすぎるですね。
クロード・モネ(1840~1926)
知られた通り印象派を代表するフランスの画家として有名ですが、彼は一生日本近くも来たことがありましたけ? 

目的地です。
「皆様、到着しました!」
そして、

?が!に変わる瞬間です。

上 : クロード・モネ(1840-1926)の代表作「睡蓮」連作シリーズの一作 
中、下:「名もなき池」(モネの池)2017年11月○○日撮影

あ!

さすが!

あちこちで感嘆が出てきます。
神秘的な雰囲気に圧倒されて皆キャンバスの中に入ります。
秋と冬が交差する11月朝、

まだ秋を見送るのが寂しくて

未練が残ったのか

恥ずかしそうに真っ赤な顔を見せた

モミジの真っ赤な顔の下に

淡々と姿を見せた池は

文字通りモネの作品が現実に出た風景でした。

はっきりと言って

観光地とはいいにくいです。


観光施設?

公衆トイレ?

もちろん、ありません。

隣のお花屋ハウスでお花と共に展示している小さなギャラリーが

池の唯一なお友達。

そもそも

どこでも見られる

雑草だらけだったこの池。

お隣のお花屋さんの方が池に睡蓮植えはじめ、

更に、いろんな理由で飼えなくなった金魚たちを放流したわけ。

うん?それだけ?

この池が持っている秘密は

なんと一年中14度で変わらない「水温」

冬に咲いた睡蓮は春頃枯れて死んでしまうのが

一般的なことです。

しかし、

黄色→オレンジ色→赤色

この池では年中変わらない水温の影響で

徐々に変色し、

その間、新しく咲いた

生々しい睡蓮と絶妙なバランスを取り、

傑作が誕生します。

数年前からSNSに広がり、

決定的にテレビ局の番組に紹介されて

休日平均約一千人が訪れることになりました。

所在地である岐阜県関市が忙しくなりました。(笑)



無名の人が一晩で一躍有名になる様に

「モネの池」もそうなりましたが、

未だにこの池の正式名前は「名もなき池」

騒いだのは僕らの人間です。

もしかしたら池は

ただ「名もなき池」のままで静かに残りたいかもしれません。

誕生と死が共存し、様々な彩りで染まる

池の風景

モネの傑作もそうですが、

僕らの人生とも似ています。

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