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白頭山(はくとうさん)の死#5(リベンジ)

「トン!」
山を揺れるほどのもの凄い音と共にママが目の前で倒れました。
僕は大きいショックを受けて嘘だと思いながら、音が出たところを振り向けました。
息が絶えたと思った血だらけの人間一人が倒れたまま発射した長い鉄砲から白い煙が出て
火薬の匂いが濃く周りに広がりました。
現実とは思えない場面でした。

瞬間、溢れる憤怒でやつに襲って体をバラバラ破ってあの鉄砲も曲げて壊してしまいまいました。
事態を終えてすぐママの方に戻りました。ママは僕が幼い頃よく遊んだ「兄弟岩」の上に倒れたまま弱い息をしながら悲しい目で僕をじっと見ていました。
そして、
ママの呼吸は徐々に…
ママの目は最後で言いました。
“君を最後まで見守ってくれなくてすまない…だけど、
君はもう立派だからきっと大丈夫…
強くなるぞ…君はママの誇りだから…“
僕は悲しみとショックで理性を失いました。
“ママ、ダメだよ!僕のせいで…ごめんなさい。”
血が止まらないママの胸の傷を何度も舐めました。

太陽が冠母峰(かんぼぼう)小峰にかけていつもの綺麗な夕焼け頃、
ママは静かに息を止めました。
ママが死んで僕のそばにいないなんて…
超現実的に感じられましたが、
寂しいことにこれは
変わらない現実でした。
僕は本能的に「咆哮の崖」に一気に走り登って
ママの代わりに何度も「ガオー!」と
鳴きました。
僕の咆哮がエコーになり白頭山(はくどうさん)に響きました。
熱い涙が止まりませんでした。
……

どんなに時間が経ったか。
名前も知らない山鳥の鳴き声で起きました。
もう朝も過ぎていました。
先日何も食べてなかったですが、全然お腹が空いてなかったです。
僕は「ママの懐」池に戻ってみたけど、昨日までママが倒れていた「兄弟岩」には
もうママの姿はなく、ママが流した鮮血だけ黒く色が変わって染み込んでいました。
いなくなったのはママだけじゃなく、あちこち死んでいた人間群れも同じでした。
まるで嘘の様に皆蒸発でもしたのか。
恐らく、他の人間群れが山に登ってママと自分の仲間の遺体をもって帰ったと推測しました。
僕は周りを警戒しながら慎重に風に乗ってくる血の匂いとやつらの足跡を沿って山を下りました。
山の中腹辺りまで下りたら緩やかな平地があり、白い煙が見えました。
やがて森の間で丸太で作った一軒の小屋が見えました。
僕は森に身をすくめながら隠して周りを見回りました。
小屋の外には厩舎があって中には3匹の馬が草を食べていました。
幸いに食うことに夢中になって僕の事を気付いてなかったようです。
窓の中を観察しました。
窓から見える家中の風景は壁に付いている暖炉の中には薪の火がで穏やかに燃え上がっていました。
暖炉のそばには一人の人間がロッキングチェアに座って居眠りしていました。
その次の瞬間、
僕は決して見てはいけないことを見てしましました。
暖炉の隣壁にママが四足を広がれて皮だけの凄惨な形で掛けられていました。
やっと抑えた憤怒が再び溢れて来ました。
僕の強気が伝わったか草を食っていた馬たちが怖い顔で鳴きながら騒い始めました。
同時に先ロッキングチェアに居眠りしていた人間がすぐ小屋の中から飛び出してきました。
手には鉄砲が握られていました。
僕は素早く山の方に疾走し、人間の領域から離れました。
逃げる直前、庭で一瞬見えた一人の人間がいました。
それは…
あの日龍王潭(りゅうおうたん)当たりで出会った
白々肌で目つきが大きい少女でした。

少し時間が経ちました。
僕は毎晩「咆哮の崖」でママの代わりに鳴きました。
ママを思いながら…
白頭山(はくどうさん)の冬は早く始まります。
真っ赤の紅葉で山を綺麗に染めた季節もあっという間過ぎて、刃の様な鋭い風と共に猛烈に降り始めた大雪は僕の足はもちろん、体まで丸ごと入るほど積もりました。
山は真っ白の世界に変わりました。
冬は僕が一番嫌いな季節でした。
クッション昨日の雪だらけでママが「咆哮の崖」で猛烈に訓練させた時期だからです。
「咆哮の崖」でいつまでも雪が降る真っ白の風景を見下ろしました。
厳しかったあの頃が今は切りなく懐かしいです。

いつまでも降りそうだった雪も薄くなり、
やみました。
山の下の方から雪を踏む音がしました。
人間ということ直感した僕は素早く崖から下りて体を隠しました。
4~5人ぐらいでした。
右手にはいつもの鉄砲が、
そして、左手にはチェーンに繋がっている荒い顔をして殺気がみなぎる猟犬3匹が登ってきました。
やつらはこんな季節にも関わらず、僕の捕獲を諦めることなく
しつこいほど計画的に組織を組んで追跡するようです。
人間より臭覚が発達している猟犬たちは
もう僕の匂いを感じてワン!ワン!と
荒々しく吠え始めました。
更に、飼い主の手から離れ猛烈な気勢で僕の方に飛びかかりました。
僕はひとまず、
やつらを相手にするため高田にやつらを誘引しました。
……
その後、僕は右足にちょっとしたケガだけで高台から下りて来ました。
複数の猟犬が群れで襲ったから効果あると人間は考えたかもしれませんが、
相手はあくまでも犬、僕は虎でした。
今度は先の人間群れが犬の足跡を沿って来ていました。
僕は身をすくめてやつらを睨んで狙いました。
高台にまで登ったやつらは無力にぐったりとのびっている自分の猟犬たちを見つけて
かなり怒ったか興奮していました。
そして、握っていた艇鉄砲をガチャンと詰め込みました。

僕はわざわざ小さな石をやつらがいる高台の方に左足で転がしまして素早く反対の方に走りました。
やつらは急に石が落ちてくる上に注意を回して鉄砲を発射しました。
もう反対側にいた僕は電光石火の様にやつらに体を飛ばして襲いました。

僕は高台から去りました。
人間群れとの闘いで勝ちましたが、右肩に鉄砲玉がかすめたか血が出ました。
肩の皮を筋肉まで切ってギリギリかすめたせいで火傷したような痛みが伴いましたが、
ママの復讐が出来たということで胸がいっぱいでした。
「咆哮の崖」に登って「ガオー」と鳴きました。
右肩からの血は止まらず、流れて右の体全体を赤く染めました。
鮮血は真っ白の雪だらけの山で目立ちました。
山道をさかのぼって長白滝(ちょうはくたき)の支流である小白滝(こはくたき)で体を洗いました。
塩と成分が近い塩化カルシウムが入っているこの滝は不思議なことに冬でも凍らなくて体を治してくる神秘的なパワーがある所で昔、ママから教えてもらいました。
そして、大きく曲がっている渓谷を過ぎて居場所に戻り
久しぶりにゆったりと眠りました。
<続く>

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