1-8.「初添乗デビュー」
春とは言えまだ寒かった2015年3月30日ですが
私だち夫婦はより早く春を向かいたくていつも利用している旅行会社に
日帰りバスツアーを申し込みました。
コースは「解禁!カニ汁を味わえる田子の浦と富士山が見える絶景、世界遺産三保の松原を満喫!」を選びました。
定年退職して子供たちも結婚して二人きりになった私と主人は二人とも好きな旅行するのが最近の生きがいの一つでした。若い頃は結構自由に世界あちこちを回ったですが、最近は歳のせいか体もきつくなってやはり我が国の旅が一番だなと思いました。
手配など面倒もあるので手間がかからない団体バスツアーが好きになったのははやり歳を感じます。
今日は鎌田出発なので羽田空港近くの自宅からかなり近くてラッキーでした。朝早く主人と集合場所へ着いたら私だちが一番早かったです。
何より添乗員にびっくりしました。
30代?40代?優しい印象の彼は笑顔だったが、裏で何となく落ち着いてない感じがしました。日本人に見えたけど言葉使いがちょっと…東北の人?まさか外人?
それで…あららら....何これ…バスの扉に書いてある座席表をみた私は目を疑いました。
席毎に○○(名前)はちゃんと書いてありましたが…最後に大事な「様」が抜けていたのです。
これは失礼だなあ…と感じましたが…まあまあ....主人も同じ気分だったのか顔が固まって…やはり私たちは夫婦に間違えないわ。
添乗員の言葉から何となく外人だと推測しました。他の客も少し動揺するのを感じました。
一方、このバスはお客の便利増進のため鎌田だけでなく大森、そして渋谷3か所からお客を載せました。渋谷に停車して予約のお客を待つ間、何人かの客がトイレへ行くとバスから降りました。この辺にトイレがあったかしら。
不吉な予感がやはり。トイレに行って迷ったのか一人のお客が戻ってこないです。添乗員は凄く不安な顔をして降りたり乗ったりしています。彼のせいではないけど、彼は経験が浅いと感じがします。
結局、お隣の中年の婦人から文句が出ました。「あのね、添乗員さん。何とかしてくださいな。もう時間オーバーしているしさ。こういう場合は日本では待たなくて出発するのよ。」
いらいらして頭を下げる添乗員が気の毒だが、お金を払って参加したせっかくの旅だからね…
やっと客が戻り、バスは出発して添乗員が自己紹介しました。
まさかの外人添乗員さん!国内ツアーなのに…初めてです。
複雑な気分でした。時代が変わったですね。
人を差別したくないし外人添乗員って別にだめなわけではないけどさ、100%信頼できないのは事実です。主人は先から無口で車窓の外ばかり見ています。
外人としては結構上手に喋ってはいるけど、やはり発音やイントネーションは不自然なところが結構気になりました。
でも、彼なり頑張っているし優しい感じなので…
……
悲願の三保の松原へ着きました。何十年ぶりかしら。
海の辺だからか風がやや強いし雲がたくさんで富士山見えるかが心配でした。
昔来たことはあるけど、世界遺産指定からは初めてです。
昔は駐車場が海から近かったのに世界遺産指定からは環境保護の為、遠くなったそうで世界遺産になってすべてが良いのではと思いました。
私たちみたいな年寄りには歩く距離がとても気になるからさ。
45人乗りバスで満席だったので後方席だった私たちが降りるまでは時間がかかりました。
やっと降りたら…あらららまあ!何ということ?
先降りた客たちと共に添乗員さんが待たなくてもう先出発したのでは…
列が切れたのを気付いたか、慌てて走って戻って来た外人添乗員さん。
主人が初めて口から言葉を出しました。
「今まで10年間のバスツアーでこんなことは初めてだ!」私が言おうとした通り。
やはり私達は天上夫婦ですわ。
「そう、そう!日本人はそんなことしないわよ。」お隣の中年婦人も同調しました。
息が切れそうな添乗員は何度も頭下げてお詫びする。
まあ、ねえ…
…
寒かっただけに駿河湾の田子の浦で取れた新鮮なカニ、カニ汁はとても美味しかったし、曇りで結局、富士山は見えなかったけど、三保の松原は若い頃来た時の絶景そのままで感動しました。
若い頃見た松の木がもう寿命で次世代に席を譲ったのを見て人生を感じました。
帰り道で寄ったエビせんべいの店も良かったです。
添乗員さんが途中で冗談もしました。
彼なりに工夫してこのタイミングでこの面白い話をしようとしたようだが、誰も笑ってなかったです。
疲れて聞いてない人もいるだろうし、何より笑いポイントが分からなかったです。
少し可愛そうな気もしましたが…
若干渋滞もあったが、ほぼ東京へ到着しいよいよアンケートの時間です。
「添乗員評価」
①大変良い ②良い ③普通 ④悪い ⑤大変悪い
迷いました。
正直な意見こそツアーのクオリティを変える。
悪いけど添乗員さんあなたのためなのよ。と思い切って「④悪い」に〇を付けようした瞬間、
“実は、私本日が初添乗です。せっかくの旅なのに皆様に大変ご迷惑をかけました。申し訳ございません。これからはもっと勉強して精一杯頑張りますので宜しくお願い致します。”とバスの前に立った添乗員さんがマイクを握って謝りました。
あ、やはり初添乗だったのか。
一瞬、自分の息子の事が思い出しました。
今社会に入ったばかりの息子も、どこかの場面できっと[初]ということを経験しているだろう。
誰でも初という時期はあるよね。
しかも彼としては外国という日本で誰も歩いてない道に足を出している。
私は結局「②良い」をチェックしました。そして、コメント欄には
「初添乗だとは信じられないほど良く頑張りました。最初はあれ?と思いましたが、やっと納得しました。これからも頑張って活躍してください。」
で微笑みながら書きました。
主人が無口で書いたアンケート用紙を私に出しました。
驚く事に主人も「②良い」に〇を付けました。評価にけちである主人は良い時も最大評価は「普通」だったから。
主人の顔を振り向いたら恥ずかしか気まずい咳をしながらわざわざ車窓外を見ていました。
やはり私達は夫婦ですわ。
日本国内旅に外人添乗員なんて!
今日は我々夫婦に取ってツアーの新たな世界が広がった日です。
「第一章 不思議な外人添乗員の登場」終