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ネコとスマホ/私小説①/ストレスジャンププール

また今日も、いつもの電車に乗るのか、、、

両足に、足枷と鎖付きの鉄球が付けられたように、足取りが重たい…

会社でなく、刑務所に行ってるんじゃないか?

もう疲れた、行きたくない

毎日、途方もない量の仕事をこなすことも…

休憩も満足に取れず、一日中働き詰め…

残業代は踏み倒され、休日出勤も、能力不足だとタダ働き…

どんなに頑張っても、些細なやり方や、受け答えが気に入らないと、、、

怒声・罵詈雑言・嫌がらせ・意地悪…

理不尽と不条理が、身体に染み付いて離れなず、夜もよく眠れない…

恐怖に怯え、仕事の失敗も増えるばかり…

はぁ…

もう嫌だ

行きたくない

今日こそは、もう終わりにしたい…

ホームの先端に、歩みを進めると、手に持っていたスマホを落としてしまった…

ほんと、不注意や忘れ物が多くなったよな…

はぁ…

視線を下に向けると、ネコが私のスマホを咥えて、見上げている。

なんだよ 返せよ

少ない給料で、生活費を切り詰めて買い換えた、私のスマホ

ネコにまで、私の大切なものが奪われるのか…

ネコが、ホーム上を歩き出して、階段を目指している

ちょっ ちょっと 待ってよ

私は、引っ張られるように階段に向かうと、目の前にはプールが広がっていた

ネコはプールの中に入って行き、姿が見えなくなる!

私のスマホが、水中で鳴っている!?

不可思議なことが、起こり続けて、頭が混乱している

私のスマホ…

意を決して、プールの水面に手を触れると、、、

~~~~~~~~~~~~~~

気が付くと、私は見知らぬ公園の中にいた

さっきのネコが、ブランコの上に乗って、こちらを見ている

そうだ、私のスマホを…

「おまえさんには、不要のものだろう」

えっ!? ネコが喋った!?

「おまえさんには、不要のものだろう」

やっぱり、幻聴じゃない

私はホームにいたはず

一体、どうなっているの?

「おまえさんには、不要のものだろう」

さっきから【不要】【不要】って、うっせえわ

私のスマホだし、昨年から【不要】と【不急】って言葉、見聞きするだけで【不愉快】で【大嫌い】なんだけど

「言いたいことがあるなら、伝えてみては、どうかな?」

このネコ、人の言葉を話すだけでなく、心の中も読めるの!?

カイシャで、我慢や耐えることばかりで、気持ちや思いを伝えることって、しなくなったけ…

って、今はスマホを取り返えさないと。

『わ わ わ … わたしの スマホを 返して』

やっと口に出せたけど、職場にいる時みたいな、話し方になっている。。。

「ふふふ、やっと伝えることができたのう。

だが、おまえさんには、不要だろう」

なにこのネコ、超腹立つんだけど!

伝えろって言うから、伝えたのに

あれ、そういえば、こういうやりとりって、職場でもよく…

すると、私のスマホから着信音が鳴り出した。

ネコの乗っている、隣のブランコに、いつの間にか私のスマホが現れた。

反射的に、私はスマホに近付くと、、、

「むう、、、あまり時間がないか。。

おまえさんのスマホは、ネコのワシには【不要】である。

ここは、ある人間との思い出の場所なんじゃ。

おまえさんのように、よく疲れた顔をしていたが、ワシのことを撫でたり、食べ物を分け与えてくれてのう…

だが段々と公園に来ることが減り、めっきり見かけなくなってのう…

ワシも、ふと寂しくなって探し歩いていた時に、黒い服の人間達がいる中で、あの人間そっくりの絵を見つけたんじゃ。

昨年から人間達は、口元に布を当てる者が増えて、息苦しそうで、眉間にしわを寄せ、目付きが鋭く、不機嫌な者が増えたのう。

表情がよく分からぬが、悲しそうであったり、涙を流している者がおって、ワシは、あの人間がこの世を離れたと、理解した。

強い悲しみと寂しさで、胸が一杯になり、張り裂けそうで、とても苦しくなった。

すると、急に人間の言葉が、聞き取れるようになったのじゃ。

"過労・パワハラ・いじめ"

という言葉を聞いてのう…」

私は、着信よりもネコの話す人間のことが、気になった。

私と同じ?

似ている境遇の人?

着信音が鳴り止み、留守電に切り替わったスマホから、怒声が響き渡った、、、

冷や汗が流れ、一気に現実に引き戻された…

さっきから、鳴っていたのは、アイツからの着信だったのか、、、

昨日は、ミスなく仕事を終えたはずだけど。。。

理由もなく、言いがかりや文句を付けるのは、いつものことか、、、

早く折り返して、表面上の謝罪を並べないと、面倒なことになる…

スマホを手に取ろうと、ブランコに近づくと、ネコが焦りを見せながら、、、

「それから、ワシは疲れた顔をしている、人間達のことを観察することにした。

人間の言葉を少しずつ覚え、スマホから音が鳴ると、おまえさんのように、苦しく辛そうにしていることに、気付いた。

あの人間も、そうじゃった…

だから【不要】だろうと言ったのじゃ… 」

そうだったのか

私のことを案じて【不要】と言ってくれていたのかと、ようやく理解ができた。

あと少しで、スマホに手が届きそうな距離で、再び着信音が鳴り出した。

ネコは、必死に語りかけてくる…

「それから、疲れた顔をしている人間の中に、よくスマホで話している人間がおった。

「労働相談」や「労働組合」とういう所と話していたが、話し終わると、落胆しておったのう…

"誰も味方になってくれない"

"誰も力になってくれない"

ワシも、その人間の身を案じておった。

このままでは、危ういと。

が、ある日を境に、その人間から、希望や意思の強さを感じるように、なったのじゃ。

"信頼できる、社労士さんに出会えた"

"初めて、味方になってくれる、力になってくれる人に出会えた"

と、よく話していたのう…」

社労士って何だ?

その人が出会った人や、起きたことが気になるが、、、

再び着信音が鳴り止むと、またアイツの怒声が聞こえ出した

反射的にスマホを手に取ると、急に辺りが暗くなり、ネコが残念そうな顔をして私を見ている

そして何も見えなくなった、、、

~~~~~~~~~~~~~

気が付くと、私は駅のホームに戻っていた。

スマホを落とした直後の、私だった

視線を下に向けると、あのネコが、私のスマホを咥えている

そして、階段を目指して歩いて行く先には、あのプールが、薄ぼんやりと見える

今、私が行きたいのは、プールだ

あのネコが話していた、2人の人のことが気になる

もっと話しを聞きたいと思い、プールに足を向けた

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荒削りで、拙い小説を読んで頂き、ありがとうございます。

yomogida4さんの、“ストレスジャンププール”という趣旨に共感して、書いてみました。

完璧や完成度を上げることよりも、私が伝えたい思いを、形にしました。

夢のような世界はあまり描けず、現実的な話しばかりで💦

もしよかったら、ご感想を寄せて頂けたら幸いです。

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