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【増田陸 選手】「感情の奴隷にならない」冷徹な自己分析で精神と技術を鍛え上げる強靭な日本王者。
増田 陸選手ってどんな人?
★日本バンタム級王者
★WBAバンタム級8位
★IBFバンタム級9位
★WBOバンタム級10位
★WBCバンタム級14位
★OPBFバンタム級1位
★WBO Asia Pacificバンタム級3位
所属:帝拳ジム
生年月日:1998年9月23日 (27歳)
出身:広島県広島市
デビュー:2022年7月2日
通算成績:7戦6勝(6KO)1敗
スタンス:サウスポー
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課題が残った初防衛戦。修正点を見つめ直した前戦を振り返る。
ーー前戦は初の防衛戦でしたが、振り返っていかがですか?
納得のいかない内容でした。
最終的にパワーで押し切ったので、理想の勝ち方ではなかったです。お客さんの反応も微妙だったので、その反応が試合を表しているんだろうなと感じましたね。
試合を振り返ってみると、ボディバランスが悪かったですし、相手の土俵で戦っていました。対戦相手の宇津見選手(宇津見義広選手:ワタナベ)が試合中に語りかけてくる場面があったんです。
アッパーを打ったら「ナイスアッパー」と話しかけてきて、そういう一つ一つに気を取られてしまいましたね。相手に流されてボディバランスを崩さないように、前回のインタビューでも話したBCトレーニングを引き続き行って、バランスを意識したトレーニングをしています。
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日本バンタム級タイトルマッチ
増田陸(帝拳) VS 宇津見義広(ワタナベ)
出典:ボクシングモバイル
テーマは「自分のボクシングを突き通す」左の一撃で魅せる次戦について。
ーー今回の試合は、どのようなテーマで戦われますか?
自分のボクシングを突き通すこと、ですね。
対戦相手の松本海聖選手(VADY)は、若くて勢いがあって、テクニックもある選手だと感じています。去年12月の神戸での試合を観戦しました。その時は綺麗でまとまっているなという印象を受けました。
テクニックのある選手と正面から付き合ってしまうと、自分の悪い部分が出てしまうので、相手に流されずに常に主導権を握りたいですね。前戦はパワーで押し切った分、今回は力に頼らないボクシングで攻めたいんです。理想としては、手数で相手を上回るのではなく、自信のある左の一発にすべてを乗せるイメージです。そのために、体の動かし方など全体的なスキルを底上げして、実戦練習などでも落とし込んでいます。
スパーリングは、同じジムの坪井智也さんと小川寛樹とやっています。あとは、天心(那須川天心選手)のスパーリングパートナーで帝拳に来ているメキシコ人ともやっていますね。
坪井さんはスキルフルで、ボクシングも完成されている方なので、学ぶ部分が多いです。坪井さんのようにスタイルが確立された選手に攻められたとき、どうやって主導権を握るかを意識しながら練習しています。
小川は、タイミングが細かくてやりにくい選手なんですよ。でも、坪井さんのときと課題は同じで、自分のリズムでラウンドを進めていき、相手のリズムに呑まれないように意識しています。
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堤戦で味わった極限状態。「感情の奴隷」にならないためのメンタル術とは。
ーーボクシングをやられてきた中で挫折の経験などありましたか?
挫折か...。
色々思いつくものはありますけど、やっぱり堤聖也選手(角海老宝石)に負けたことですかね。
もちろん負けてしまったことにショックを受けましたし、応援してくれている人に良い姿を見せられなかったことが悔しかったです。2週間くらいは気分が沈んでいたんですけど、試合3週間後には練習に復帰しました。復活は割と早い方でしたね。
ほぼすべてのパンチをもらってしまったので、ダメージもかなりひどくて…。2週間はダメージを抜くことに専念していました。試合直後は身体が悲鳴を上げていると感じていたので、家に帰って頭をずっと冷やしていましたね。その間は「神経図の通りに脳みそから神経が繋がっているんだな」と冷静に考えていました。振り返ってみると、結構極限状態でしたね。
堤選手はすでに世界チャンピオンですし、前回よりさらに強くなっていると思うので、今はまだ勝てる自信はありません。ただ、再戦の機会があれば、必ず勝てるように自分もスキルを磨いています。
ーーそれだけ厳しい戦いだったのに、再戦をイメージできているのですね。多くの人はトラウマになりそうな経験だと思いますが…。
僕、トラウマって存在しないと思っているんです。もちろん、トラウマで悩んでいる方もいるので、あくまで個人的な意見なんですけど…。
自分は、何事も感情・思考・身体を切り離して捉えているんです。トラウマは感情に起因して生まれるものだと思うんですよ。でも、思考と身体を分離して考えれば対処できるんじゃないかなと。
この考え方の基盤になっているのが、アドラー心理学の「原因論」と「目的論」なんです。アドラーは、過去の出来事が現在の状況を作るとする「原因論」を否定して、「ある目的のために自分が現在の状況を作っている」とする「目的論」を定義していて。過去に嫌なことがあって、同じことをするのが怖いと感じるのは、「やりたくないから理由付けとして嫌な気持ちを作り出している」という側面もあるとされています。
感情って、生存本能と関係しているんですよね。マズローの5段階欲求にもあるように、生きていく上でネガティブな思考は避けられないもので、生存のために必要だからこそ生じるものなんじゃないかなと思っているんです。
だからこそ、ネガティブな感情を否定するのではなく、「なぜこの感情が生まれたのか」を探ることが大事なんじゃないかと。そうすれば、自分自身のことがもっと理解できると思うんです。
もちろん、ネガティブな感情を無理に受け入れる必要はないです。原因を追究するだけでも十分だし、受け入れるかどうかは自分で決めればいいと思います。でも、感情に振り回されていたら、感情の奴隷になってしまうじゃないですか。感情の奴隷にはなりたくないからこそ、感情で行動を制限しないようにしたいんです。マイナスな出来事があった時に、その場で立ち止まるのではなく、一度「感情・思考・身体」を切り離して考えて、感情の原因を辿って次のステップに進めたらいいのかなと。
自分のマイナスな感情がなぜ出てきているのか気づいていない人は意外と多いと思うんですよ。だからこそ、その理由を追っていくことで、自分自身をより深く知ることができると思いますし、マイナスなことも次に活かすことができるんじゃないかなと思いますね。
ーー社会学や心理学のお話も伺えてとても興味深いです…!多くの人が悩むテーマなので、この増田選手のnoteを読んで背中を押される人が増えるといいな、と感じました。
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前戦後は、念願のヒマラヤ山脈へ。標高4,130mで王者が感じたことは…?
ーー前戦の後、ヒマラヤに行かれていましたよね。弾丸で行かれたんですか?
弾丸ではないですね。
試合が終わったらすぐに行こうと思っていたので、試合前から飛行機や宿の予約はしていました。
もちろん、試合のダメージが大きければ行けないので、最終的には試合の内容次第でした。幸い大きな怪我もなく、試合2日後には出発しましたね。
元々ヒマラヤ山脈に行ってみたかったんですよ。標高の高い場所に行ってみたかったし、仏教や東洋思想を学ぶ中で、そのルーツがヒマラヤの山にあるんじゃないかと感じていたので、実際に現地で確かめたかったんです。
頂上までは行かずに、標高4,130mの中腹まで登ったんですが、自然の力の強さを肌で感じましたね。「自然には勝てないんだろうな」と、景色を見て思いました。畏敬の念、でした。
現地では友達もできて、たくさんの人に助けてもらって素晴らしい経験ばかりでした。ヒマラヤから帰ってきた頃は、自分がとてもナチュラルな状態で、日本での生活も新鮮に感じられたんです。人とのコミュニケーションも前より楽しく感じましたね。
でも、日常に慣れるにつれてヒマラヤで感じたことが薄れている気もします。だから、また違う自然の場所に行きたいですね。次に行く場所はまだ決まっていませんが、素敵な場所があれば行きたいです。
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出典:本人ご提供
昭和のボクサーも通う〇〇で疲れを癒す!休日の過ごし方を聞いてみました。
ーー最近は、休日何をされてますか?
最近は、銭湯に行っていますね。
その銭湯では、昭和のボクサーのサインやチケットなども飾られているんですよ。ハンマーパンチと呼ばれた、WBA・WBC世界スーパーライト級王者の藤猛さんのサインは特徴的ですね。
昭和のボクサーも通っていた銭湯で自分も疲れを癒していると思うと感慨深いですよね。
ーーチャンピオンが2人も通っている銭湯、周りも肉体美に驚かれていると思います(笑)本日はありがとうございました!
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出典:本人ご提供
★U-NEXTでの視聴はこちらから
3月1日(土)17時35分配信開始 17時45分試合開始https://video.unext.jp/livedetail/LIV0000008315