【宇津木秀】王者の誇りと世界への思い胸に 異色チャレンジャーに圧勝誓う
◇日本ライト級タイトルマッチ10回戦
王者 宇津木秀(ワタナベ) 11戦11勝(9KO)
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挑戦者4位 ジロリアン陸(フラッシュ赤羽) 17戦14勝(13KO)3敗
11/1の世界戦で現役日本ライト級チャンピオンは何を思ったか
11月1日、ボクサーとして、人間として慕い、9月にはハワイ合宿をともにしたWBAライトフライ級スーパー王者の京口紘人がWBC王者の寺地拳四朗(BMB)に敗れた。試合直後、さいたまスーパーアリーナの控室で、宇津木は悔し涙を流し、同時に感動もしていた。
「めちゃめちゃ悔しかったんですけど、あのときの京口さん、すごいかっこよかったんですよ。支えてくれたスタッフみんなに『勝てなくてごめんな』って元気よく声を掛けて、記者会見でも堂々と取材に応じた。チャンピオンじゃなくなって落ち込んで、つらいときなのに、なかなかできないですよね。ほんとすごいな、かなわないなと思いました」
どんなに強さを誇ったチャンピオンでも、いつかは負ける日がやってくる。そのとき、敗れた元王者はどのように振る舞うのだろうか。ボクサーとしての、人間としての厚みや深みが問われる場面で、京口の見せた振る舞いは宇津木の心を強く打った。
そして同じリングで行われた日本ライト級頂上対決、WBOアジアパシフィック王者の吉野修一郎(三迫)が元東洋太平洋V11王者の中谷正義(帝拳)に6回TKO勝ちした試合は、また別の意味で宇津木のハートを激しく揺さぶった。この試合に向けて宇津木は中谷のスパーリング・パートナーに抜擢され、計30ラウンドほどスパーリングを重ねていた。
「吉野さんは手堅い。ていねいに相手を詰めて、詰めて、倒しにいく。中谷さんは序盤にストレートやアッパーを当てれば絶対に倒せると思いましたけど、後半になると少し粗くなるところがある。心配していた通りになりました」
冷静に試合を分析しつつ、こうも感じていたという。
「いままでああいう舞台はまだ手の届かない、遠い場所だと思っていたんです。でも、京口さんの控室でしたけど、身近に試合を見て刺激になったし、手の届かない場所じゃないと思えるようになりました。そのためにはもっと強くならないといけない。心からそう思いました」
メンタルトレーナーの存在の大きさ
刺激に満ちた大舞台から2週間あまりで迎えるのが今回のV2戦だ。2月の王座決定戦で9回TKO勝ちした鈴木雅弘(角海老宝石)は元日本S・ライト級王者でアマチュア経験も豊富にあった。6月の初防衛戦で8回TKO勝ちした冨岡樹(角海老宝石)はタイトル戦経験の多い、こちらもアマキャリアのある選手だった。
ジロリアンはアマ経験なし、タイトル初挑戦ときて、注目を集めるのはラーメン二郎好きにちなんだリングネームやマジシャンとしての横顔、YouTubeでの活動とリング外の話題が多い。高みを目指すチャンピオンが最初から激しく闘志を駆り立てられたかといえば、必ずしもそうではなかった。
そんな宇津木を支えたのがメンタルトレーナーの存在だ。この1年ほど、宇津木はメンタルトレーナーの指導を受けて、トレーニングの質を向上させようとしてきた。
「タイトルを獲ったときはすごく気持ちが入って練習できました。初防衛戦は気持ちの浮き沈みがけっこうあった。今回も気持ちが少し落ちたときがあったんですけど、メンタルトレーナーとのセッションで『宇津木くんの目指しているところはここじゃないよね?』、『そうです。世界へ向けての通過点です』という会話をしたんです。そう第三者に言葉にして一気に晴れたというか。そこからは体の調子も上がりました」
ライト級で世界を目指すという困難に立ち向かう覚悟を表す一戦
アマ108戦81勝27敗。プロでも無敗だからエリートと評されるが、本人はそれを強く否定する。埼玉・花咲徳栄高、平成国際大では一度も全国優勝できず、最後の大会を終えると一時はボディビルダーを目指し、卒業後は不動産会社に就職もした。ところが、自らがコーチを務めた1学年下の後輩が関東大学リーグ2部優勝、1部昇格を決め、気持ちは再びボクシングに傾いた。
復帰にあたっては全日本社会人選手権優勝を「プロ入りするための条件」と自分に課し、これをクリアしてプロ入り。4年かけてたどりついたポジションが現在の日本ライト級王者であり、その視線は少しずつ“先”にも向き始めている。
だからこそ、ここで負けるわけにはいかない。TKO勝利ながらも不満の残った直近2試合の反省を練習に落とし込み、ジロリアンの強みをしっかり押さえながら戦略を立ててきた。
「僕のほうがすべてにおいて上だとは思っていますけど、ジロリアン選手は勝っている試合がほぼKOで、一発のパンチ力のある選手だと思います。海外の強い選手ってパンチが強いので、僕にとっては通過点としてすごくいい相手。次の試合ではディフェンス力を見せたい。もらわないで圧勝が今回のテーマです」
ライト級で世界を目指すのは簡単ではない。前出の中谷は海外のリングに上がる前に東洋太平洋王座を11度防衛したし、吉野だって日本タイトルなど地域王座戦に11度勝利しながらいまだ熱望する海外のリングに手は届かない。そんな先人の姿を見ているからこそ、腐らずに、一戦一戦を無駄にせず、精進することが大事だと肝に銘じている。
「(海外での試合について)ほんと、甘くないのは分かっています。だから話があればいつでも行けるように、準備だけは整えておきたいと思ってます」
まずは知名度のあるジロリアンに勝利し、宇津木秀の名前を全国にアピールするのが今回のミッションだ。キャリアの中でも重要な“通過点”のリングになりそうだ。
(取材/構成 渋谷淳)
●宇津木秀アーカイブ記事
【宇津木秀】獲るために来た10戦目のリング 今までのすべてをぶつける 2022年2月8日
●ライブ配信情報
▷配信プラットフォーム:ABEMA
▷ライブ配信:11月17日(木)17時45分~試合終了時刻まで
▷料 金:無料
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