【晝田瑞希】ピンクのベルトは私が獲る運命。全力で自分を表現する。 2022年12月1日
◇WBO女子世界スーパーフライ級王座決定戦10回戦
日本女子バンタム級王者
谷山佳菜子(ワタナベ) 7戦5勝(1KO)1敗1分
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前・日本女子フライ級王者
晝田瑞希(三迫) 3戦3勝
スーパースターに近づく大きなステップ
鮮やかなピンクの髪をコーンロウに編み込み、『美少女戦士セーラームーン』の主題歌でリングイン。リングアナウンサーの選手コールに合わせ、華やかなポンチョ型のガウンを颯爽と脱ぎ去れば、ピンクを基調とした派手なコスチュームに身を包んだプロボクサー、晝田瑞希が登場する――。
2021年10月のデビュー以来、ピンクをイメージカラーにプロのリングを彩ってきたサウスポーが争うことになったのが、WBO女子のピンクのベルトだ。
「これは運命だと思って、私が獲るためのシナリオなんだって自分に言い聞かせてます」
アマチュア時代、東京五輪を間近に控えた2018年、19年にフライ級、フェザー級で全日本女子選手権を制した。しかし、アジア・オセアニア予選の日本代表を決める試合で東京五輪フェザー級金メダリストになる入江聖奈(日体大)に敗れ、夢は絶たれた。
次の24年パリ五輪を目指すのか……。悩んだ末にプロ転向を決断。同時に髪をピンクに染めたのは、自己表現とともに折にふれて口にしてきた決意の表れでもあった。
「プロの女子に私が革命を起こしたと言われるぐらい頑張りたいと思います。世界チャンピオンには当たり前のようになって、スーパースターになりたいです」
晝田にとって世界のベルトはまた一歩、革命を起こし、スーパースターに近づく大きなステップ。それでも試合に向かう気持ちは「いい意味でいつもと変わらない」という。
「私はいつも100%で試合に向かうから。世界タイトルだからデビュー戦のときよりも頑張るのかって言ったら、あのときだって100%だったし、私は私の目の前に現れる敵に勝つだけなので。自分の感覚的には変に気負ったところはないです」
プロのリングに舞台を移し、日々、プロの世界で生きる先輩の姿とも身近に接するようになって、思いを新たにしたことがあるという。
1勝の重みを胸に
「私がすごく感じるのは“1勝の重み”です。プロになった最初の頃とは全然、感じ方が違います。ここまで自分でやってきて、周りを見て、どっちもですけど、プロって1回負けたら積み上げてきたものが一瞬で崩れちゃう世界だなって感じてるし、1回勝つことのすごさ、重みを知って、目標に対する気持ちは前より強くなりました。そんな簡単じゃないことは身を持って感じてるので」
今年4月のプロ2戦目。当時の東洋太平洋スーパーフライ級王者で、通算3度の世界挑戦経験がある、ぬきてるみ(現・真正)とのノンタイトル8回戦で薄氷を踏む思いを味わった。終盤7回に2度のダウンを喫した。プロ・アマ通じて倒されたのは初めてのことだった。ぬきの執念を振りきり、判定勝ちしたものの、「悔しくて、情けなくて……」。試合後のリングで涙があふれた。
5ヵ月後の9月にプロ初タイトルとなる日本女子フライ級王座決定戦が決まってからは、自分との闘いだった。
「勝って、勉強できるなんてないんだから」。三迫貴志会長の一言にハッと気づかされ、落ち込んでいた気持ちを前向きに切り替えたつもりだったが、男子選手とのスパーリングでパンチをもらい、効かされるたび、倒される恐怖が頭をよぎり、心が乱れた。
加藤健太トレーナーに時に厳しく諭されながら、自分と徹底的に向き合い、「パンチをもらう覚悟」「もらっても意地でも倒れない気持ち」をつくり上げた。
元アマチュア全日本ライト級王者で体の強さ、パンチ力に定評のある柳井妃奈実(真正)を右ジャブでけん制し、左ストレートを打ち込んでは持ち前のステップワークを駆使するスピーディーなボクシングで完封した。
フルマークの判定でタイトルを奪取しただけでなく、自分の心をコントロールできたことが収穫だった。これから晝田がプロのリングで戦っていく上でも重要な期間であり、1勝だった。
「(前の試合の柳井戦では)加藤トレーナーと話して、100%勝ちに徹すると決めてました。その目標は達成できたと思うし、心身ともにいい状態で挑めて、精神的にも成長できたなって思えた試合です。あの経験があったから覚悟も決められたので、今、振り返ったら、いい5ヵ月だったなと思ってます」
応援してくれる人を喜ばせ、楽しませるために全力で
WBO女子世界スーパーフライ級王座を争う日本女子バンタム級王者の谷山佳菜子は、2009年、10年の極真会館世界女子空手道選手権大会軽量級2連覇、キックボクシングでも複数の団体でチャンピオンになるなど、格闘技歴が長い。
「絶対に私より戦い慣れしてると思うし、戦いの場数も多いと思うし、彼女には戦う本能みたいなものが備わっていると思うんですよ。そういう相手だということをしっかり理解して戦わないといけない」
対する晝田には、岡山工業高校、自衛隊体育学校で培ってきたアマチュアボクシングの実績がある。そう話を向けると「トップアマ扱いされるようになったのは、プロになってからなので」と苦笑した。
「戦績(45戦29勝13KO・RSC16敗)を見てもらったら分かると思うんですけど。私、めちゃくちゃ負けてるんですよ。ボクシングを始めた頃は負け越してたし、成績を残せたのは最後のほうだけだったから」
ただし、それでも諦めずに戦い続けてきた自身の頑張りと経験値には、誰にも譲れない自負がある。
「あの負けの中には、ただいっぱい負けただけじゃなくて、いっぱいいっぱい悔しい思いをした負けが詰まってて。でも、悔しい思いをしながら、コツコツ積み上げてきたものはムダじゃなかったと今でも思ってるし、ムダにしたくはないです」
念願の世界戦という気負いはない。が、前回、ベルトを獲ったことで、ベルトに対する思いはより強くなった。
「ベルトがあるだけで、前とは応援してくれてる人たちの喜び方が違うというか。こんなに喜んでくれるのかと思ったら、もっといいベルトがほしいなって思います」
晝田が考えるスーパースター像とは。自分が戦う姿を見て、少しでも元気になったり、一瞬でも嫌なことを忘れたり、明日から頑張ろうと思ったり……誰かにいい影響を与えるようなエネルギーを発する人。そう言い続けてきた。応援してくれる人たちを喜ばせたい気持ちは人一倍強い。
趣向を凝らした派手な入場パフォーマンス、野性味あふれるファイトでファンを魅了した元東洋太平洋スーパーバンタム級王者で、三迫ジムの先輩・勅使河原弘晶(=引退)に共感してきた。
「テッシーさん自身がパワーを与えてくれる人だったし、みんなを楽しませたい気持ちが強い人だったと思うんですよ」
だからこそ、入場から勝利のバック宙まで、全力で楽しませる。リングの上では存分に自分を表現することを誓う。
「(発表会見で谷山に)倒すと言われたし、全力でぶつかってくると思うんですよ。体も気持ちも強い選手なので。でも、どんな感じで来ようと私は私の動きをするだけ。自分のボクシングを貫けば勝てると思うし、見ている人に何かが伝わるかなって」
(取材/構成 船橋真二郎)
●晝田瑞希アーカイブ記事
【晝田瑞希】「スーパースターになるための第一歩」アマチュア時代の後輩に甘くないと突きつける。 2022年9月1日
●ライブ配信情報
▷配信プラットフォーム:BOXING RAISE
▷ライブ配信:12月1日(木)17時45分~試合終了時刻まで
▷料 金:無料
▶視聴サイトはこちら