【長井香織】勝利への“秘策”あり!連敗を脱し、目標の世界戦へ這い上がる。 2022年9月1日
◇東洋太平洋女子アトム級王座決定戦8回戦
前・東洋太平洋女子アトム級王者
松田恵里(TEAM 10COUNT) 6戦4勝(1KO)1敗1分
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前・日本女子アトム級王者
長井香織(真正) 13戦6勝(2KO)4敗3分
「絶対に勝てる、みたいな相手とはしたくない」
「勝利がほしいです。どんな形でもいいんで。とにかく1勝がほしいですね。どんどん増してます。負けが2回続いてるんで。ほんとに勝ちたいです」
勝利への思いがいくつもいくつも重なっていく。最後に勝利したのは1年5ヵ月前の昨年4月。日本女子アトム級王座の初防衛戦だった。引き分けを挟んで6連勝を飾った。
5ヵ月後、大きな相手に挑んだ。当時は無冠とはいえ、WBA女子世界アトム級王座を5度防衛したこともあり、長くトップで活躍する現IBF同級王者の宮尾綾香(ワタナベ)。キャリア初の後楽園ホールで判定負けを喫し、まだ駆け出しの2戦目以来、約5年ぶりに敗者としてリングを降りた。
今年5月、ベルトを返上し、今度は1階級上の東洋太平洋女子ミニマム級王座に挑戦した。元WBC女子世界ミニマム級王者の黒木優子(YouKOフィットネス)を決定戦で破り、日本に続き、2つ目の王座に就いた千本瑞規(ワタナベ)はアマチュア経験豊富な3戦全勝のホープ。再び東京に遠征し、判定で敗れた。
そして、今回、アトム級に戻ってベルトを争うサウスポーの松田もまた、アマチュアのキャリアがあり、すでに東洋太平洋、日本王座を経て、世界にも2度挑戦した実力者である。
「松田さん、強いなぁ。絶対に強いです」
勝ちたい、1勝がほしい、と切実な思いを口にしながら、表情はどこまでも穏やかだ。
「絶対に勝てる、みたいな相手とはしたくなくて。楽しくないから。ワクワクするような試合をやりたいってなったら、強い人とやるのがいちばんじゃないですか」
勝利への“秘策”
3年前、強い意志を持って、真正ジムに移籍した。
「そのときから、『世界を目指したい』っていう気持ちは、ずっと変わらないです」
移籍初戦が初のタイトルマッチとなる日本王座決定戦。それから「ワクワクするような試合」が続く。
「タイトルマッチで強い選手とやらせてもらえて、山下(正人)会長には感謝しています。だからこそ、結果を出せてないのが、ほんとに悔しいです。ただただ、悔しい。次は絶対に結果を出したいと思います」
千本戦では、勝ちたい思いだけではない、勝つための明確な戦術を遂行した。
試合前、「トレーナーさんが考えてくれた“秘策”がある」と話していた。トレーナーさんとは、元ワタナベジムで、プロ転向後の千本を間近で見てきた井上孝志トレーナー。この試合の前からコンビを組んだ。
スタートからインファイトを仕掛け、徹底した密着戦に持ち込んだ。千本を嫌がらせ、力を出させなかった。が、懐にもぐり込んでから先の攻撃がつながらず、明確なポイントを奪うことができなかった。
「フィジカル面で押し切れなかった」。それが試合を通じて、感じたこと。「押し負けたり、引っ張られたり」。バランスを崩され、「自分が踏ん張れなかった」。今までのアトム級では一度もなかったことで、1階級上のミニマム級との違いを実感したという。
それでも、今までにない自分を引き出すこともできた。
スロースターターを自認するが、「1ラウンドの始めから、走っていくぐらい行けて、『おお、自分、走ってるわ!』って、ビックリしました(笑)。絶対にないことやったんで」。試合だけではない。そんな自分と出会える日々が楽しい。
「井上さんは経験豊かで、いろんな引き出しがあって、ひとつずつ教えてくださるので。『あ、こんなやり方があるんや』って、勉強になります。ちょっと怖いところもあるけど(笑)、私のことを思って言ってくれてるのが伝わってくるので」
井上トレーナーはワタナベジム時代、世界2階級制覇王者の京口紘人、現WBO世界ミニマム級王者の谷口将隆らを見いだし、数々のタイトルマッチを経験してきたベテランである。松田に対しても“秘策”を授かっていると、いたずらっぽく笑った。
「作戦、ありますよー」
巧いゆえの穴
長井本人もなかなかの“策士”だ。
今の憧れ、お手本は寺地拳四朗(BMB)のボクシング――。千本との試合に向けて、話を聞いたとき、しれっと語っていたが、ファイターに徹する作戦をかく乱する意図で「わざと言ったんですよー(笑)。申し訳ない」と種明かししてみせた。
前回と同様、松田のことは手放しで称える。
「しっかりアマチュアでやってきた人なんだな、というのはスタイルを見て、感じます。基本に忠実で、きれいなボクシングをして、出入りもできて、カウンターも合わせられるし、パンチの種類、角度も多彩やし。巧いなーって、動画を見るたびに思いますけど」
もちろん、多くは語らなかったが、ひとつだけ付け加えた。
「でも、巧いゆえの穴もあるのかな、とは思いますね」
サウスポーとは、これが初対戦になる。初めてのスパーリングも移籍したばかりの頃、ジムの先輩で元世界3団体王者の多田悦子と手合わせしたときで「違和感しかなかった」という。
松田戦に向けたスパーリングでも「しっくりきていない感じはする」と“違和感”とも戦ってきた。「ぶっちゃけ、間に合うんかな」と不安を口にしたが、どこまで信じていいのか……? 後輩の山中菫、福岡から神戸の真正ジムまで、長期の出稽古に来た黒木優子など、サウスポーのパートナーには恵まれ、とにもかくにもラウンド数は重ねてきた。
今回の女子五大タイトルマッチの話があったとき、再確認した気持ちがある。そのうち2つがアトム級の世界戦と聞いたときだった。
「『くそっ』って思いました。同じ興行で、同じ階級の世界戦があるのは悔しい、というか。自分はまだ東洋も獲れてない段階ですけど、そこまで這い上がりたいなって。願わくは宮尾(綾香)さんと再戦したいです。あれは不完全燃焼だったので」
穏やかな表情のなかに固い決意がにじんだ。
「勝たないことには、次が見えないんで。ここが分岐点だと思っています」
<船橋真二郎>
●ライブ配信情報
▷配信プラットフォーム:BOXINGRAISE
▷ライブ配信:9月1日(木)17時45分~試合終了時刻まで
▷料 金:980円 ※月額会員制
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