両者に問われる3年9ヵ月の歳月 タイトル挑戦権を懸けた再戦! 2021年11月27日
◇日本フェザー級最強挑戦者決定戦8回戦
同級1位
渡部大介(ワタナベ) 18戦12勝(7KO)4敗2分
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同級2位
阿部麗也(KG大和) 25戦21勝(9KO)3敗1分
渡部大介、30歳。阿部麗也、28歳。2018年3月2日以来の再戦は、ともにタイトルに向けて、絶対に落とせない戦いになる。
初戦は技巧と距離感に優れたサウスポーの阿部が判定で勝利した。敗れた渡部は以降、ふたつの引き分けを挟んで6連勝。ノーランカーから日本1位まで這い上がってきた。
「これまでの僕はタイトルマッチにたどり着くことができなかった。挑戦しないことには何も始まらないので、まずは11月27日。挑戦権を獲って、タイトルマッチの舞台に立つために、しっかり勝たないといけないなって思ってます」(渡部)
勝った阿部は翌2019年に2度、日本フェザー級タイトルマッチを戦うものの、最初は当時の王者・源大輝(ワタナベ)と引き分け、2度目は源が返上した王座を佐川遼(三迫)と争うも判定で敗れ、タイトルを逃している。
「ここでつまずくわけにはいかないんで、普通にクリアして、3度目ですね。渡部くんには悪いですけど、踏み台になってもらいますよ。前回は判定だったから、バシッと倒して。タイトルは来年、俺が獲りますよ、と見せつけないといけないですね」(阿部)
いつものように歯に衣着せない阿部に対して、殊勝にも聞こえる渡部のコメントの裏には苦い記憶がある。
2017年10月、故郷の北海道・札幌に凱旋した。日本スーパーバンタム級4位まで上昇し、タイトル挑戦を視界に捉えたところでノーランカーの岡本ナオヤ(東拳)を迎えた。だが……。まさかの1ラウンド40秒TKO負け。一気にランク下位まで転落し、2ヵ月後には押し出される形で日本ランキングから名前が消えた。
「もう、あのときのような気持ちは味わいたくない」。そう当時のショックを振り返るが、その再起戦の相手が阿部だった。本来のフェザー級に戻り、「自分の力を試すには申し分のない相手」と、3度の世界挑戦経験を持つ細野悟(大橋)を下すなど、評価上昇中だった阿部との対戦を自ら希望し、実現したカードだったという。
「判定で負けはしましたけど、微妙な差の積み重ねだったし、それなりのレベルで戦えると確かめることができたので、自分にとってはプラスになりましたね」
それから、再び日本ランキング一桁台に復活した渡部に願ってもないようなチャンスが訪れる。ボクシング漫画『はじめの一歩』の連載開始30周年を記念して、DANGANが2019年に企画したフェザー級のトーナメント戦である。
この大会を勝ち進む過程で渡部は上位復帰を果たすことになる。ボクシングを札幌工業高校で始めたのは、中学生のときに家族と一緒に見た『はじめの一歩』のアニメ版のDVDがきっかけだった。運命的なトーナメントに飛びつくように参戦したのかと思えば、「最初はどうしようか、迷った」と振り返る。
「トーナメントって、誰と当たるか分からないじゃないですか。負けて、またランキングから落ちたらっていう不安が……」
ショッキングなKO負けの直後、果敢に阿部に挑み、日本ランカーに返り咲いたものの、すべてを拭い去れたわけではなかった。
初戦はアマチュア経験豊富な竹嶋宏心(現・3150ファイトクラブ)と負傷引き分けも、優勢点で勝ち上がると、続く準決勝では元WBOアジアパシフィック王者のリチャード・プミクピック(フィリピン)に判定勝ちを収める。そして、奇しくも日本フェザー級4位で迎えた決勝の相手がノーランカーの草野慎悟(三迫)になり、またしても頭をよぎったのが“札幌の悪夢”だった。
「一皮むけて、強くなるには、ここだな、と思って」。立ち上がりこそ、草野に先行を許すものの、じょじょに立て直し、5ラウンドにはダウンを奪う。終盤、食い下がる草野との打ち合いにも上回った判定勝ちは、過去の自分をひとつ乗り越えた勝利でもあった。
「トーナメントに出て、優勝できたことで、いいところまでは行くけど、あと1歩、2歩みたいな自分を少しは払拭できたのかな、と思います」
だが、もちろんまだ何も成し遂げたわけではない。
道都大学まで通算54戦(40勝17KO・RSC14敗)のアマチュア時代も、高校2年時の国体3位が最高成績。準決勝で敗れ、決勝の舞台には立てなかった。タイトルまで「あと1歩、2歩」の差は、3年9ヵ月前に敗れた阿部との「微妙な差」とも重なる。
「当然、向こうも成長しているとは思うけど、僕も自信をつけて、強くなってきているので。3年前の自分との差を埋めたいですね」
2度のチャンスをものにできなかった阿部の行動は早かった。2019年9月の佐川戦から約2ヵ月後、その姿はフィリピンにあった。セブのALAジム(2020年に閉鎖)で11月下旬から約2週間の合宿。これが初めての海外修行だった。
阿部の才能と“華”を買い、A-SIGN興行で起用してきた石井一太郎・横浜光ジム会長から、かねて勧められていたのだが。家族を持ち、自動車部品関連の工場にフルタイムで勤務する正社員の立場。なかなか実行に移せずにいた。
「タイトルを2度逃しましたからね。何かしなきゃと思って。会社には『欠勤扱いでも、給料下げてもいいから、行かせてください』って言って」
長期休暇を認められ、ボクシングだけに集中したフィリピンでの日々は「新鮮だった」という。ALAジムでは、スパーリングだけでなく、専門のトレーナーのもとでフィジカルトレーニングにも精力的に取り組んだ。これも「何かしなきゃ」という行動の表れだった。
それまでもKG大和ジムの合同トレーニングに参加していたが、自ら進んでパーソナルトレーナーにつき、本格的なフィジカル強化に着手した。
「佐川選手みたいな技巧派同士だと、そこで負けちゃうと、どうしようってなったんで。ガードを上げて、自分から前に出て、近い距離でやり合うような、これまでの俺にはないスタイルも必要だなって。そうなると体がぶつかることもあるし、今、体の強さはだいぶ感じてきてますね」
俊敏なステップでリングを舞い、ときにガードを下げ、鋭いカウンターを突き刺すのが阿部のスタイルだったが、それだけでは上には行けないと痛感させられた。
以前、スパーリングで手合わせしたことのある元WBO世界スーパーフェザー級王者の伊藤雅雪(横浜光)に自分を重ねるところもある。初のタイトル挑戦で内藤律樹(E&Jカシアス)との技術戦の末、小差で日本王座獲りを阻まれ、伊藤もまた何かを変えようとロサンゼルス合宿を本格的にスタートさせた。
「伊藤選手もテクニックだけでは限界を感じて、そこから海外に出て、前に行くスタイルに変わったって。最初は慣れなくて、パンチをもらいながら練習したと言ってましたけど、そこを突き詰めて、世界を獲りましたからね」
復帰後は判定で連勝も成果は「まだまだ試合では出しきれてない」。ただ、あくまで相手次第、展開次第で「いろいろできるように引き出しを増やしている段階」であり、この先を見据えた意味合いもある。渡部とは身長差が11cmあり(阿部は173cm、渡部は162cm)、次も勝つための最善の選択をする。
「あっちのほうがリーチも短いし、敢えて相手の土俵で戦うっていう選択肢は俺の中にはないんで。今までのボクシングがベストだったら、そう戦いますよ」
渡部が『はじめの一歩』なら、父親が持っていた『あしたのジョー』のビデオが阿部のきっかけのひとつだった。世界戦のテレビ中継を夢中で見た小学生の頃には「ボクシングをやると決めていた」が、生まれ育った福島には通える範囲にジムがなかった。
会津工業高校ボクシング部でグローブを握り、選抜、インターハイ、国体に出場するも全国では1勝止まり。厳しい現実を知り、見切りをつけたはずだった。就職した神奈川で会社の同僚と「フィットネス感覚」でジムに入会。片渕剛太会長に見出だされ、幼い頃に夢見た道を歩き始めた。今は現実の目標として「世界」を見る。
「(日本タイトルは)さらに上のステージに行くための切符というか、そんな見上げるようなベルトじゃないですけど、2度逃したことで軽くは見れないですし、重さも感じているので。日本チャンピオンになって、次のステージに行きたいですね」
再戦のカギは実際に手を合わせた経験、肌で感じた情報を生かし、いかに相手を上回るか。だが、4年近い歳月は、人として、ボクサーとして、成長し、変わるには十分。両者に等しく流れた時間をどう過ごしてきたかも問われることになる。
渡部は阿部について「苦手意識はまったくない」と言い切る。フェザー級としては小柄ながら、出入りの鋭さとパンチを振り抜く思いきりのよさが持ち味。ベースとなる戦い方を高めつつ、「10対9.5みたいなラウンドを見映えのよさと巧さで持っていかれた」前回の展開をいかに打破するか。策をめぐらせてきた。
また1歩、自分を乗り越え、タイトルに近づく。
「1回、負けている強い選手ですけど、阿部選手は2回、タイトルに失敗してますからね。ここで勝てないなら、チャンピオンにはなれないと思うので、しっかり力を見せて、いい勝ち方を見せたいと思います」
阿部は「やりづらい印象はあった」と相手を認めた上で、こちらも前回を超える内容を求め、自分に発破をかける。
「何回やっても変わんないですよ。何もさせないで勝つのがモットーなので、俺の完封劇を見てくれって感じですね。しばらく倒してないし、ここでKO勝ちして勢いをつけて、俺がタイトルに行きますよ」
<船橋真二郎>
●ライブ配信情報
▷独占ライブ配信:11月27日(土)17時45分~試合終了時刻まで
▷アーカイブ期間:11月30日(火)23時59分まで
▷視 聴 料 金:3,000円(税込)一般チケット
▶販売サイトはこちら
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