【鈴木雅弘】ライト級で日本2階級制覇を果たし まだまだ夢の先へ―― 2022年2月8日
◇日本ライト級王座決定戦10回戦
1位 鈴木雅弘(角海老宝石) 7戦7勝(4KO)
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4位 宇津木秀(ワタナベ) 9戦9勝(7KO)
王座決定戦ながら、チャンピオンカーニバル屈指の好カードのひとつと評判の顔合わせである。ともにしっかりとしたアマチュアのキャリアがベースにあり、プロのリングでも実力を示して全勝を続ける。アマ時代に対戦経験があり、1学年上の宇津木秀の2勝1敗という因縁もある。日本一の座を争うに相応しいハイレベルな攻防が期待される。
昨年10月、利川聖隆(横浜光)との最強挑戦者決定戦に判定勝ち。当時の日本王者で東洋太平洋、WBOアジアパシフィック王座と“3つのベルトを持つ男”吉野修一郎(三迫)への挑戦権をつかんだ。試合後、鈴木雅弘は高揚感とともに“憧れの先輩”と対戦できる喜びを口にした。その4ヵ月前には吉野と同門の永田大士を攻略し、1階級上のスーパーライト級で念願の日本王者となったものの、返上してライト級戦線に参入した大きな理由が吉野の存在だった。
「高校生(駿台学園高校)の頃、よく後楽園ホールに関東大学リーグ戦を観に行ってたんです。あの舞台に立ってる人たちって、僕らからしたら、野球をやってる中学生が甲子園に出てる人たちを見るのと同じような感覚なんですよ。なかでも吉野先輩は手が届かないぐらい強い人で、憧れだったので。そんな人と同じ場所に立って戦えるのは、すごいことじゃないですか。どこまで通用するのか、挑戦してみたかったんです」
だが、“少数精鋭”のキャッチフレーズに惹かれ、進学した東京農業大学を入れ替わりで卒業した先輩は、再び遠い存在になる。元世界王者の伊藤雅雪(横浜光)との“頂上対決”が決まり、日本王座を返上した。
「でも、ライト級の上の舞台で戦っているだけで、僕の目標が吉野先輩というのは変わらないので。そこまでまた上がって行けるように頑張らないとなっていう気持ちですね」
こうして、鈴木が2階級目の日本のベルトを争うことになったのが宇津木だが、「国内レベルでは僕より評価がある選手」と評する。
「みんなが対戦を避けるような強い選手なので。選手の間で評価されるのって、本物だと思うんですよ。正直、ランキングだけは高いけど、評価はされてない選手もいるじゃないですか。日本一を決める相手が宇津木くんでよかったな、と思ってます。勝ったら、自分の評価が上がるし、自信にもなるし、負けても悔いがない相手なので」
鈴木が高校2年になる年の選抜で階級違いの準優勝(鈴木はライト級、宇津木はライトウェルター級)。インターハイは同じライト級で別ブロックのベスト4。ぴたりと足並みをそろえて迎えた初対戦は、鈴木が国体予選の関東ブロック決勝で先勝し、1ヵ月後の国体初戦で実現した再戦では、宇津木が雪辱を果たした。そして、3度目は大学3年の全日本選手権予選の関東ブロック決勝で「高校のときは互角だったのが差をつけられて負けた」という苦い記憶も残っている。
「総合的にまとまっていて、詰め将棋のようなボクシングで相手の隙を突いてくる選手」に対し、鈴木は「我慢」をテーマに掲げる。
「宇津木くんは自分の狙っているパンチを当てやすい場所に相手を誘い込んだり、相手を誘って、パンチを出させて、カウンターを合わせたり、そういうのが巧い選手なんですよ。誘われないように我慢して、我慢して、向こうの作戦に乗らないように」
直近2戦。永田戦では終盤にボディを効かされ、一時は巻き返しを許した。利川戦では終盤に喫した“フラッシュダウン”を境に一気に流れを失った。いずれも踏みとどまりはしたが、そんな隙が今回ばかりは命取りになりかねないのではないか。
「この2試合は僕が序盤で完全にペースを握って、ポイントも取っていたので。このまま勝てるなっていう余裕じゃないけど、自分の悪いところが出てしまいました。でも、永田さん、利川くんは自分のボクシングを貫くタイプで、宇津木くんは相手に対してパターンをいくつも考えているタイプ。10ラウンドのうち、いかに6つ取るかっていう展開が続くと思うので、集中力が欠けることはないと思ってます」
自らを「直感型」と称する。「我慢」して拮抗した駆け引きを繰り広げるなか、「ここ」というタイミングが合致すれば、「倒す展開もある」という。どこか本能的なところがあるのも、このボクサーの魅力だ。
突然の病で父親が闘病生活に入ることになり、家族が経済的に苦しくなったことを契機に、プロボクサーとして自活し、家族を支えるために2020年に角海老宝石ジムに移籍。アマチュア時代には果たせなかった日本一になると「プロ」について真剣に考えるようになったという。
「やっぱり強い相手と面白い試合をして、いろんな方に応援していただいて、お金を稼ぐことが大事。国内でも稼げるボクサーになって、僕を見て、他のボクサーがチャンピオンになりたいと思ったり、ボクシングをやる人がひとりでもふたりでも増えたりとか、僕と同じように家族のことでキツイ思いをしている人が、こういう奴がいるから、頑張ろうと思ってもらえたりとか、少しでも影響を与えられるようなボクサーになりたいと思うようになりました」
昨年の暮れだったか、吉野修一郎が出稽古に来て、ジムメイトとスパーリングする姿を見て、「ちょっと安心した」のだという。
「もうレベルが違うぐらい強くて、まだ僕がやりたいなんて言える立場じゃなかったな、と思ったので(笑)。もっと強くなるチャンスをもらいました」
一度は夢だった日本チャンピオンになった。「その先は想像もしていなかった」という。新たな意識が芽生え、「もっと頑張ろう」と思わせてくれる高い目標もある。日本2階級制覇を果たし、夢の先に続く道をまだまだ歩き続ける。
<船橋真二郎>
●前回大会記事
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