【谷山佳菜子】 元空手&キック王者が格闘技人生20年の集大成 「下馬評をひっくり返す」 2022年12月1日
◇WBO女子スーパーフライ級王座決定10回戦
谷山佳菜子(ワタナベ) 7戦5勝(1KO)1敗1分
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晝田瑞希(三迫) 3戦3勝
絶望の先にあったのがボクシング
ボクシングにデビューした2018年12月1日からちょうど4年目、「運命を感じる」という12月1日に念願の世界タイトルマッチを迎えることになった。空手で世界大会を連覇し、キックボクシングでも3つのタイトルを獲得した格闘家。ボクシングでも頂点を目指すのは当然ながら、その道のりは決して平坦ではなかった。
「空手では世界を取れたんですけど、キックでは世界挑戦の前にけがをして続けられなくなって。キックにすべてを賭けていたので、その夢が絶たれて絶望しました。まだやり切ってない。ここで引退するのは悔しい。そんなとき、蹴りのないボクシングならできるかもしれないと思って、ボクシングに転向したんです」
小学生のときK-1を見て、当時スターだったアンディ・フグ(故人)にあこがれた。自分でやろうとは思わなかったが、高校生になるとき「自分を変えたい。何か一生懸命打ち込むものを」と決意し、空手の正道会館熊本支部の門を叩く。K-1で活躍していたフグが正道会館に所属していたからだった。
最初は幼いころから空手に親しんでいる選手にかなわなかった。それでも道場の先生から「他の子の3倍負けず嫌い」と評された負けん気で努力を重ね、メキメキと力をつけていった。「人のためになる仕事をしたい」と就いた看護師の仕事をしながら09、10年に極真会館主催の世界大会を連覇。フグと同じ道を歩もうとキックボクシングに転向し、国内タイトルを獲得して、ノンタイトル戦ながら世界王者も破った。
さあ、世界だ。そう思った矢先、練習中に左ひざの半月板と軟骨を損傷。最初の手術がうまくいかず、結局3度も手術をするはめになった。最終的に蹴りのあるキックボクシングはあきらめざるを得なかった。
決して簡単ではないボクシング転向に踏み切れたのは、キック時代にボクシングと接点を持っていたことが大きかったに違いない。
「キックの選手だったとき、パンチが苦手でボクシングのジムに出げいこに行っていたんです。藤岡奈穂子さん主催の女子ボクサーの集まりに呼ばれて参加したこともありました。それでみなさんの顔が浮かんだというか、ボクシングならできるかもしれないとひらめいて、当時は大阪に住んでいたんですけど、じゃあ東京に行っちゃおうかなと」
1年半のブランクをへて、ワタナベジムでボクサーとしてリスタートを切った。再び夢を見つけ、ワクワクしての転向だったが、やはりキックとボクシングでは勝手が違う。ボクシングは予想以上に難しかった。
「もともとパンチが苦手でボクシングジムに通っていたくらいですから、ボクシングを始めて『いや~、苦手だわ』とあらためて気がついたんです。向いてないなと思いました」
いいところを伸ばそうと考えを切り替え、楽しくなった
それでも空手とキックのベースがあった谷山は3戦目でタイトルマッチの舞台に立つ。日本&東洋太平洋バンタム級王座をかけたのちの世界王者、奥田朋子(堺春木)との一戦は初戦がドロー、ダイレクトリマッチは負傷判定負けに終わった。結果的にこの敗戦が、ひと皮むけるきっかけとなった。
「それまでは腰を落としてクラウチングというフィジカルの強さを活かすスタイルでした。それが奥田さんに通用しなくて、ジャブを突いて距離を取ったボクシングに変えたほうがいいかなと。手足も長い方なので、それが合っているかなと感じ始めていたところでした」
もともと空手やキックはアップライトのスタイルで、そのほうが戦いやすいという感覚があった。それまでは「苦手を克服しよう」という気持ちが日々の練習に取り組んでいたが、徐々に「いいところを伸ばそう」と考え方も変わっていった。
たとえば以前は「この動きはボクサーっぽいですか?」と質問することが多かった。ところが敗戦後は「空手っぽくこう打ったらどうですか?」とトレーナーに提案するようになった。新たにタッグを組んだ伯耆淳トレーナーは何ごとも肯定してくれた。
こうして自分の形を作り直し、新しいスタイルを体に染みこませていった。苦しかったボクシングが楽しいと思えるようになった。初黒星から1年5カ月後、昨年6月に日本バンタム級タイトルを獲得。今年4月の初防衛成功をへて、今回の世界タイトルマッチにたどりついたのである。
今回の試合は格闘技人生20年の集大成
対戦相手の晝田は元アマチュアのトップボクサーで、「強い選手とやりたかった」という谷山にとって相手に不足はない。モチベーションは最高に高まっている。
「下馬評は絶対に晝田さんが上だと思う。それをひっくり返してこそ、ボクシングの醍醐味だと思ってます」。
そしてもう一つ、胸に秘めた思いがある。2022年は愛する父、信輝さんが病に倒れ、57歳という若さで亡くなってちょうど10年の節目だ。幼き日にK-1の試合を一緒にテレビで観戦し、空手を始めてからは長女の試合をいつも楽しみにして、「一緒に闘ってくれていた」という父。天国の父にベルトを見せたいという思いも谷山の大きなモチベーションだ。
12月1日は格闘技人生20年の集大成。ブログのタイトルでもある“信じた道を真っ直ぐに”突き進んできた谷山がすべてをかけて世界タイトルマッチに挑む。
(取材/構成 渋谷淳)
●ライブ配信情報
▷配信プラットフォーム:BOXING RAISE
▷ライブ配信:12月1日(木)17時45分~試合終了時刻まで
▷料 金:無料
▶視聴サイトはこちら