【岩川美花】失意の敗戦から即チャンス到来 往年の名選手から学び2度目の世界王座獲得狙う 2022年9月1日
◇IBF女子アトム級タイトルマッチ10回戦
王者 宮尾綾香(ワタナベ) 27戦21勝(6KO)5敗1分
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挑戦者 岩川美花(姫路木下) 17戦10勝(3KO)6敗1分
往年のビッグネームの映像を見てレベルアップ図る
「これ、戦略になるかもしれないのであまり書かないでほしいんですけど、オーランド・カニサレスが大好きなんです!」
ずいぶんと渋い名前が現役女子ボクサーの口から出てきたものだ。1980年代から90年代にかけてIBFバンタム級王座を16度防衛したメキシコ系米国人は技巧派、試合巧者として知られる往年のチャンピオン。これだけのビッグネームが話題に上ったからには、敬意を表してその事実を書き記さねばなるまい。大丈夫、名前を出すだけで戦略が伝わるはずもない。
そういえば岩川は2月、鈴木菜々江(シュウ)とのダクレクとリマッチ前にはこんなことも言っていた。
「今、ドニー・ニエテスの試合を見て勉強しています。ニエテスのディフェンスってすごくないですか?」
フィリピンの4階級制覇王者、ニエテスとはこれまた通好みのチョイスである。ボクサーにはさまざまな人種が存在する。それがどんな世界の名選手であろうと、他人の試合にはまったく興味を示さない人がいれば、ほどほどに楽しんで世界のボクシングを見るグループがいる。そして数は少ないものの熱狂的なマニアも確かに存在する。
岩川は世界のボクサーの映像を見て、「あれ、この人が頭を左に振ったときは次にどんな動きをしているのかな?」などと旺盛な研究心を持って繰り返し見るというから、筋金入りのマニアと言えるかもしれない。
ニエテスから多くを学んで臨んだ2月の試合は残念ながらスプリットデシジョンで判定負け。WBOアトム級王座のベルトを2度目の防衛戦で手放すことになった。
岩川はファイター型の鈴木に対し、20年9月の第1戦のように脚を多く使わず、ニエテスのごとく近距離で巧みにポジションをズラして主導権を握ろうとした。残念ながらその作戦はうまくはまらなかった。それでも立て直すチャンスはあった。岩川は惜敗した一戦をこう振り返った。
「スタートで打ち合ってみて、鈴木選手のパワーに耐えられないと感じました。それで途中でアウトボクシングにしたら、ちょっと遅かったけど『アウトにしたほうがいける』と思ったんです。でも、同時に『これを続けるのは体力が持たない』とも思ったんです。あの試合はもう、試合中に3回くらい限界を超えてしまって……。よく最後までがんばれたな、というのが正直な気持ちでした」
実は試合の2週間前に新型コロナウイルスに感染。高熱を発して4、5日は起き上がることすらできなかった。熱が下がってから動き始めたものの、試合直前のブランクが影響しないわけがない。試合は「あんな感覚はあとにも先にもない。フルマラソンを走ったような感じ」というほど体力を消耗し続け、フルランドを終えての小差判定負けだった。
以前から「戦ってみたかった」という宮尾との同級生対決
こうしてベルトを失ったにもかかわらず、すぐにチャンスが巡ってきたのは日ごろの行いと言うべきか。しかも相手は以前から「戦ってみたかった人」という同い年の宮尾だ。岩川がタイトルを失った直後、同じリングで宮尾は世界チャンピオンに返り咲いた。なんという巡り合わせだろう。神様は岩川を見捨てなかったのである。
「宮尾さんはキャリアのある選手ですし、技術があってしっかりボクシングができる選手。いろいろな駆け引きがありそうだし、面白い試合になりそう。すごく楽しみにしているんです」
打倒宮尾、世界王座返り咲きに向け、トレーニングには熱が入った。スパーリングの前にはカニサレスの映像を必ずチェックし、実戦練習に反映させようとした。うまくいくこともあれば、うまくいかないこともある。うまくいかなければ再び映像を見て、なぜうまくいかないかを考える。仮説を立て、検証し、修正し、また仮説を立てる。岩川にとってそれは至福の時間だった。
「スパーリングはけっこう充実してできたと思います。自分でもなぜか分からないんですけど、最近は手数がよく出るようになりました。あとは『ここだ! いけ!』という場面で詰められないことが多かったんですけど、けっこう詰められるようになってきました。なぜだかは自分でもよく分からないんですけど」
気がつけば、以前はできないことができるようになっている。カニサレス効果かどうかは不明だ。ただ、25歳でボクシングを始めた遅咲きの岩川ならあり得ることなのかもしれない。39歳の元世界王者はいまだ発展途上ということだろう。
再び世界王者となり、ジムのある関西地区か故郷の高知県で防衛戦を行う、というのが現時点で最大のモチベーションになっている。宮尾を下し、もう一度世界チャンピオンになることが、新たな道を切り開く第一歩となるのは間違いない。
「自分が目標としている動きがあるので、それをしっかり遂行したい。今回の試合でいえばリズムを確立すること。相手に合わせず、自分のリズムを作れば勝機は見えてくると思っています」
宮尾が相手なら、互いの良さを引き出し合い、自分が理想とするボクシングに一歩でも二歩でも近づけるパフォーマンスができるのではないか。岩川は9月1日、自分への大きな期待を胸に世界タイトルマッチのリングに上がる。
●ライブ配信情報
▷配信プラットフォーム:BOXINGRAISE
▷ライブ配信:9月1日(木)17時45分~試合終了時刻まで
▷料 金:980円 ※月額会員制
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(カバー画像:ボクシングモバイル撮影)