恋は透明な、アクリルケースの中に
今日は珍しく、日本人のお客様のお話。
この季節、学生服を着たお客様が増えてきました。
修学旅行にしてはまだ4月、
社会科見学にしてはもっと年上の、
中学、高校生のような年齢のお客様たちです
この街ではないイントネーションを喋っていたりするのですが、春に修学旅行をする学校があるのでしょうか
女子のお客様同士で同じキーホルダーを買って
早速カバンにつけたり
男女5人ほどのチームで、女の子が
「みんなで同じキーホルダー買うからお金用意して。男子、聞いてるー!?」と、旅行でテンションが上がってふざけている男子に声をかけていたり
「足りない、200円貸して」と財布の中を見た後に親友らしき男子にお金を借りる男子
「もう金ないの?」と呆れるその友人男子
「せんせー、これ買ってくださーい!」と、男性に駆け寄る制服数人
それをみて写真を撮る引率カメラマンらしき姿
修学旅行あるあるが満載です
この時ばかりは、みやげ物屋のバイトではなく
制服姿のお客様たちが接する街のモブに早変わり
「おばあちゃんにお土産買いたいんですけど、何がいいですか?」
「800円以内で買えるお土産、ありますか?」
いつも以上に
モブ、大忙し。
さて、
そのお客様は、
お店の中で キーホルダーを選ぶことなく、
こけしやだるまを見ることもなく、
それ以上に、周りの品物に興味を持つことさえなく、ただ店の隅にひっそり立っていらっしゃいました
詰襟の黒い学生服を着た髪の短い、
モブより背の低い男の子でした
モブはお客様が何かを手にとると話しかけるのですが、彼が何をほしいのかわからないので、他の接客にいくことにしました
彼と反対側の壁には制服姿の女子が2人
セーラー服のお客様です
1人のお客様が、金色に輝くこの街のシンボルの置物を手にとって悩んでいるようでした
「どうしようかな?」
親友らしきお客様が隣で彼女の手元を覗き込んで、
色が違う同じ大きさの置物を彼女に手渡しました
「こっちもあるよ」
2つの置物を左右に1つづつ持って、また彼女は
悩みます
「うーん、どうしよう」
「買う?」親友が聞きます
彼女の持つその置物は、細かい細工が施されていて
15センチほどのアクリルケースに入っていました
彼女は手首を動かしてアクリルケースの中のそれを
ぐるりと回転させ全体をみて
「うん、買う」
心に決めたようでした
「お決まりですか?」
モブは早速声をかけました
「これください」
彼女はきっぱりと言って、コインを差し出してきました
「ありがとうございます、このままでいいですか?
袋に入れますか?」
「このままでいいです」
楽しそうに話しながら去っていく2人のお客様の後ろ姿を、頭を下げ見送った時
タタッとこちらに近づく足音がして、黒い制服の腕がモブの頭の上をかすめました
「これください」
さきほど佇んていた詰襟男子のお客様です
1つ数が減っている金色の置物に手を伸ばし、アクリルケースをしっかり掴みながら言いました
下げた頭をあげたモブは
「あ、えと400円です、袋・・」と言うと
「いらないです」
こちらが言い終わらないうちに彼は握りしめていたコインを出し、彼女達が出ていった同じ扉から早足で店を出ていきました
ああ、そうか
彼の欲しかったのはそれだったのか
15センチの金色の置物
彼はあのアクリルケースをどこに飾るのだろう
✢✢✢
「今の見た?あのね」と、周りのモブと噂話
キャー見たかった!さっきいた子?
いいわねー、微笑ましいねー
モブ達大盛りあがり
もりあがりすぎて、店長に
「お客さん、みて!」(接客して)と注意されました
「はーい」「すみませーん」
店長に謝りつつもみんなの顔はニヤニヤ
ほっこり、ほっこり
修学旅行の女子と、おいかける男子
歴史的建造物の模型 フ