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その頃、わたしは

風呂場に居た名も知らぬ命を潰した頃
口から零した一つの懺悔を男は悔いていました

"ごめんなさい"

羽虫を殺す事象にその言葉は必要であったのか
夢見る頃を過ぎても考えていました

ごめんなさいと言われて潰される羽虫の気持ちになってみます
それはもう憤りを超えて何故\( ⍢ )/ってなもんですよね
🦟"だったら潰すなよ殺すなよ謝るくれえならよお"

であるならば感謝すればいいのでしょうか

"ありがとう!"ブチッ

🦟"ありがとうってなんだ。命なんだと思ってんだ"

頭の中で背丈に見合う甲高い声がこの頃、男の頭を巣食うのです
男は羽虫に人語を与えてみた
しかしそんな羽虫は人間のことなど大嫌いなのです

ごめんなさいだなんて言ったところで耳元で羽音を立てるそれだけのことが、人間にとって殺戮衝動となる充分条件なのは変わりようのない事実でした

そうそう

この頃、男が蚊の一匹も殺せなくなったのはある女のせいなのでした
他人(ヒト)が暮らす部屋に虫たちを招き入れるような酔狂な女と長く居すぎた為か、男にもその影が色濃くこびり付いてしまったのです

嘆かわしい。
"これからは虫の一匹も殺さないでね"
男の奥深くまで根付いたぷかぷかした声が呪いの
如くこの頃、を制限しました

ただ一つ言っておきたいのは
男はあの女にある種の憧れを抱いていた事
決してその呪いは払拭できぬ代物ではない
むしろ男はソレを知らんぷりすることも出来たのです
どこかであの子のようなステキさを男が欲してしまったことのほうが今となっては問題なのでした

故に"ごめんなさい"だなんて不躾で不埒なことを宣う半端者がこの頃、は残っているわけであります

男は人間であるから
男を形づくる根底の部分では羽虫の一匹を殺すことになんの感慨もないのです
アレルギーでも優しく撫でられるネコと羽虫に常世の不平等を見て見ぬふりすることも然り
殺したその手でどこぞの馬の骨・愛玩動物を愛でることも女を抱き締めることも容易いのでした

羽虫に思いを馳せないことはもっと簡単です

ごめんなさい

男の多くは人間で、愛した人の教えを守りきれないこともまた容易いのでした
この頃、風呂場に色濃く残る羽虫の影

本当はわたしは誰よりも夢見がちで
ただ大事にして欲しいだけです
ただその事象をただそれだけだと受け止めることが男にはなぜ出来なかったのでしょう

ごめんなさい

虫を潰すのと同じようにただそれだけの事として受け取れない自身をいつかは誰かに大事にしてもらいたいものです
男は夢見る頃を過ぎても考えておりました

"わたしは人間ですから"

自分を何よりも大事に扱うこともまた
容易いのでした

大きく多くの腕の中
男は眠りたいのでした

明日に落ちてく
夢から覚めて


きのこ帝国だいすき。そんな頃


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