先輩が言ったことの証明をまだできていない
まだまだひよっこな人生だけれども、今まで出会った人で、死ぬ前に思い出すなって人がいる。
その人はアルバイト先の先輩で私の憧れの存在だった。
大和撫子を体現したような、優しく、笑顔で、そして厳しさを持つ完璧な人だった。
先輩とは5、6人のグループでバイト終わりによく飲みに行き、安い大衆居酒屋で朝まで笑った。
私は、聞き上手な先輩が、みんなの話に頷き、ころころ笑っているのを眺めるが好きだった。
そんな日々を過ごしていたある日、先輩が結婚するとのこと聞いた。
お祝いにみんなで飲みに行こうと、いつもより少しお高いお店にいくことになった。
お祝いムードがひと段落し、先輩の隣に座ってぐだっていると、先輩にから
恋人いないの?
いつも私が話題をふることが多かったし、そういう話をするタイプではなかったので、少し驚いた。
その時は私は生きるのに精一杯、学費も稼がないといけないし、進学するために貯金もしないといけなかったからギリギリの生活をしていて、そんなことは考えられない。今後もいらないですね〜っと笑いながら答えた。
あなたとお付き合いすることで幸せになる誰かがいるのだから
先輩から、プライベートの話の中で、そんな風に言われたことがなかったのと、そんな考えを持ったことなかったので少し困って、そんな人はいませんよと微笑した。
そんなことない
そんな風に言う先輩はいつもより綺麗だった。
その日からしばらくして、結婚式の招待状が届く。
友人と言える人の初めての結婚式に心が踊った。
春の少し温かいその日の情景を私は忘れないだろう。
あの日、先輩と話してから、何年になるだろうか。
たぶん5年ぐらいになる。
今も、私は生きるのに精一杯だけれどもなんとか朝を迎えられている。
先輩は元気にしているだろうか、ちょくちょく人伝で話を聞くけれども自分から連絡をとるのはなんか気恥ずかしい。
なりより、今の姿では会えないのでちゃんとしたら会いにいきたい。
先輩の言ったことの証明を私はまだできていない。
そんな日はくるのだろうか。
夢見る子供ではいられないことをここ数年で叩き込まれているので、努力しないといけないことはわかっている。
暖かくなってきた風を感じながら先輩を思い出した。