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星野源は、どうして紅白歌合戦で「ばらばら」を歌ったのか

 2024年紅白歌合戦。当初予定されていた曲目を変更し、星野源が「ばらばら」を披露するという異例の出来事が大きな話題を呼んだ。

 なぜ彼はその決断を下したのか、どのようなメッセージがこの曲に込められているのか。

騒動の詳細は、こちらのnoteで書いているので、興味がある方は是非一読いただきたい▼


 本番当日、星野源はカメラのレンズをのぞき込む写真を投稿し、「ばらばら」の曲だけを紐づけた形でアップした(見出し画像にイラストを書いてみた)。2枚目は、フラッシュをたいてシャッターを切った瞬間を収めた写真であった。


 コメントや文章を一切入れないというシンプルな投稿。コメント欄には、応援の言葉が溢れていた。

 21時半を過ぎた頃、いよいよ星野源の出番となった。賑やかな曲目が続いていた中、かなりシンプルな黒を貴重としたセットで佇む星野源。演奏を始める前、数秒間の静寂につつまれ、番組の空気が一変した。

  「ばらばら」のメインメッセージは、「ひとつ」になることへの疑問、あるいは否定である。
 完全に一体化することだけが正解ではない。完全に同じ考えや意見を無理やり一つにするのではなく、互いに異なるままでも重なり合える部分を大切にする――
 今回の演奏前のインスタグラムの投稿、そして本番のセットからもそういったメッセージを強く感じた。
 星野源がカメラのレンズをのぞき込むような投稿をしたのは、見る側と見られる側が互いを見つめ合うその行為こそ、お互いの“ばらばら”な肯定するという意味があると伝えたかったのかもしれない。
 また、セットをばらばらに照らす、一見無造作に設置されていた照明たちも、私達それぞれの立場や考えがばらばらな方向を向いていることを暗喩していたように感じた。

 テレビを食い入るように見ていた私の胸には、星野源の弾き語りがまっすぐに飛び込んできた。シンプルなセットだからこそ、歌詞の内容、そして彼の声がいっそう鮮明に心に届いたのだと感じる。

 15年以上前、ファーストアルバムの1曲目として25歳の星野源が作ったこの曲は、まさに今の彼の人生にも伴奏する、伝えたいメッセージが込められていた。その想いは、画面越しの何かを伝えようとする彼の黒い目から、ずっしりとした重みと圧力とともにひしひしと伝わった。
 そして、特に強い意志を感じたのが、今回の演奏の中では一部歌詞を変更した箇所。それは、以下の一番の歌詞である。

ばらばら 星野源

世界はひとつじゃない
ああ そのまま ばらばらのまま
世界は ひとつになれない
そのまま どこかにいこう
気が合うと 見せかけて
重なりあっているだけ
本物はあなた わたしは偽物▶わたしも本物

ばらばら 星野源

 世界はひとつになれない、そんな想いが強調されていた。SNS越しに見るあなたも、私も本物であり、SNSの中の自分は虚構と距離を置こうとしても、やっぱり本物だから傷つくこともある。今年の彼は本当にSNSや世間の声に振り回された1年だったのだ。
 自分と歌詞に込めた星野源の想いを見届けることができて、本当に幸せだった。歌い終わりの沈黙に、私は再度、息を呑んだ。

 SNSが普及した現代では、対立や分断が顕著になりがちである。しかし、「ばらばら」であるにもかかわらず何かしら重なり合う部分を尊重し合うことで、新しい価値や共感を生み出せるのではないだろうか。
 今回、星野源があえてこの曲を選んだことは、私たちが抱える分断の問題に対して、一つのヒントを示してくれているように思う。

 

 改めて振り返れば、紅白歌合戦での演出や衣装、カメラワークなどは最小限に抑えられていたように見えた。だからこそ、星野源の“声”そのものや、曲に宿る強いメッセージが余計な装飾に邪魔されることなく視聴者へ届いたのではないだろうか。
 結果的に、私たちが“ばらばら”でありながらどう共存していくのかという深いテーマを考えるきっかけとなった。
 完璧に揃う必要はなく、少しずつ異なるからこそ新しいものが生まれる。そんな気づきを、星野源はやさしく、そしてしっかりと教えてくれた。
 ばらばらな私たちが、一部だけ重なり合うことで見いだせるあたたかさを、これからの社会でどう育んでいけるのか――ぜひ、あなた自身の答えを考えてみてほしい。 

本物はあなた わたしも本物

みなさん、よいお年を。

最後まで記事を読んでいただき本当にありがとうございます。
今後も医師、医療の視点から日々感じたことを心を込めて綴ります。
皆さんの毎日に彩りをもらたしたり、何か日常や生活について考えるきっかけになる記事を作って参りますので、もしよければスキ、フォローいただけると嬉しいです。犬のように懐いて喜びます。

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三谷雄己|綴る救急医
救急の現場を少しずつ知ったうえで、一般の方々との感覚のズレが少ない今だからこそかける文章を心がけて。 皆様のサポートは、多くの方々に届くような想いが書けるよう、自己研鑽にあてさせていただき記事として還元できたらと考えています。 共感いただけた方は何卒よろしくお願いいたします。