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小雪 第六十候 橘始黄


少し間が空いてしまいました。毎年のことですが、冬至に向けて昼間でもどことなし翳りを感じるような期間は意識の速度がゆっくりになって、あっという間に日が過ぎてしまう気がしないでしょうか。

小雪の末候は、第六十候「橘始黄(たちばなはじめてきばむ)」。期間は 12月2日から12月6日。橘の実が黄色く色づき始める頃という意味だといいます。

チェンマイはこの5日間、それまでなかなか下がらなかった気温が日に日に下がってゆき、にわかに冬めいて6日の朝の最低気温は13度!昼間もそこはかとなく薄寒く、近所の家では暖をとるための焚き火の匂いが終日ただよっていました。

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熱帯の冬、寒季は日本の冬に比べれば穏やかで晩秋か初冬くらいのお天気ですが、チェンマイという場所柄なのか植生や建物の構造のためなのか、まるで放射冷却のように身体の熱が外へと吸い出されているような、精妙な揮発性の物質が肌にまといついているような、不思議な冷えや微細な寒さが体を密やかに侵食する頃。数値で示される気温よりも体は芯から熱を失っていくような感じがするのです。生活様式もその器の部屋も、きちんと冬じたくがある日本よりも、身体は冷えてしまいがちな気さえします。

そんな冷たい感覚に見舞われていると、暖房器具を入手するのも難しい場所柄、お風呂が最上の体を温める方法となり、そこには冬至には少し早いですが明るさや暖かさを象徴するものとして、黄色い柑橘(できれば柚子!)を入れて香りや色彩を楽しんでみたくなります。
なにしろ橘といえば、田道間守 が常世国から持ち帰った不老不二の果実、非時香実。丸いかたちも暖かさと清らかさのある香りも色も、柑橘類はやはり生命力を象徴するような存在のようですし。

そう思って見回してみると、北タイで橘の仲間といえば、子供の頭くらいの大きなソムオー(ポメロ)、皮が凸凹で、果実よりも葉が良く使われるマックルー(カフィルライム)、そしてマナオ(ペルシャライム)、そしてチェンマイよりもう少し北の地域やスコータイからやってくるマンダリンでしょうか。
マックルーやマナオは、ちょっと柚子に似ているようでいて、いずれも香りは個性的でどちらかと涼感を感じるような気がし、マンダリンが橘に一番近いのかもしれませんが、果肉の水気を守るためにワックスが塗られてしまっていたりして、お風呂に入れるにはなんだかちょっと違う。致し方ない、と、クレイに柚子の精油を少し混ぜたものを溶かし込んだお風呂に浸かったのでした。

実は、第六十候 橘始黄が終わる6日から日没は遅くなっていきます。けれど21日の冬至までは昼の時間は短くなっていきます。つまり、日没が遅くなる分、日の出は来年1月27日まで遅くなり続けるのです。
そんな風に日の出が遅くなるのは、日没よりもなにか、その時期が昏い時なのだ、眠りの期間を過ごすのだという感覚が深くなる気がし、ともすれば体も意識もそのほの昏さやそれにともなう眠りの領域へと大きく傾きがちになります。
太陽が再び高さを取り戻し、あちらこちらで明るさが昏さに勝るようになる頃まで、今しばらくは、仮ではありまうが"橘"の香りと湯の暖かさの力を借りていたいと思います。


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