日記番外編3~あいだみつおさんがどうにも苦手だという話~
朝から西武線沿線にある、とある幼稚園に行きました。
園長先生と打ち合わせです。
その帰り、お昼を食べようと、駅前の喫茶店に入りました。
ここには前にも来たことがあって、そのときはお茶でしたが、
メニューにあったビーフシチューセットが
どうしても気になっていたのです。
席につき、メニューを見るまでもなく、
「ビーフシチューセット」
と宣言した私は、おもむろにパソコンを開き、
今日のミーティングのメモを取り始めました。
と、そのとき、
「ちょっとトイレに行きたい」
と思い出しました。
ちなみにこの喫茶店には、店内トイレがありません。
同じ商業ビル内の一角を共同使用しています。
商業ビル、というと、六本木ヒルズとか、ミッドタウンとか、
ぱんぱかぱーんとしたものをイメージしがちですが、
ここは実に控え目な、
パッと見は古びた団地ではないかと思うような、そういう場所。
トイレも当然ウォシュレットではなく、和式であります。
男子トイレには、小便器が二基に和式大便器が二基ありました。
比率的には小便器が三基あってもいいんじゃないかと思うのですが、
まあそんな細かいことはどうでもいいでしょう。
僕は喫茶店でメニューを宣言したときと同じように、
迷うことなく和式大便器に突入しました。
パタリと鍵をしめ、おもむろにベルトをはずします。
そして座り込みますと、
目の前に大きな注意書きが現れました。
――あいだみつおの標語でなくて良かった…
僕はあいだみつおの標語を見ると
うんこが出なくなるというジンクスがあります。
何か心にやましいことがあるのでしょうか。
「人間だもの」と言われると、
「ふんっ!」と反発心が生まれ、
心静かにゆっくりうんこどころじゃなくなるのです。
だからトイレにあいだみつお様がいらっしゃる飲み屋にはいかない、
と心に決めているくらいです。
その意味で、ここのトイレはセーフでした。
このとき僕の目の前に現れたのは、
このトイレは水が流れにくいので注意をしてほしい、
という旨の指示書で、以下のように書かれていました。
このトレイは大変水が流れにくくなっています。
ご使用の際は、下記に注意してください。
1:大便の途中で水を流す(半分くらいのところで)
2:最後にもう一度流す
3:目視
……。
一体この1と3の指示は何なのでしょうか。
果たして世の中の人は、
「ああこのくらいで半分だ」
と自覚してうんこをしているものなのでしょうか。
少なくとも僕はしていません。
というか、一気に出てしまうタイプです。
そうなると、気づいたときには全部出ているので、
「途中で止める」
という作業を、この指示書は強要しているわけであります。
これには困りました。
出すものは出したいけれど、
きちんと半分で止めないといけない。
これは例えるなら、
告白はしたいけれど、
告白して友達関係まで失ったら嫌だ、
と思い悩む恋心と同じです。
まさか、この狭い空間で、
あの頃の甘い青春に巡り合えるとは思いませんでした。
さらに最終ステップの目視。
自動車教習所の教官に口酸っぱく言われて以来、
久しく耳にしていなかったこの言葉を、
まさか和式大便器に言われるとは。
そういえば、この後食べるのはビーフシチューだったな、
と思いながら、生まれて初めて、道半ばでの「ふんぎり」に挑戦しました。
(2009年4月2日初出・2022年7月18日一部改稿)