うさぎちゃん -8-
今思えばあれが最大のチャンスだったに違いない。うさぎちゃんがタバコを吸いに来たとき、ライターがガス欠になって困っていた所に偶然にも居合わせたのだ。
彼女がそっと近寄ってくる。ライターが全然点かないのは横目で見ていたので、要件は話を聞く前から分かっていた。
キ、キター!うさぎちゃん!
彼女はためらいがちに何かを言ったのだがそれを覚えていないのが悔やまれる。もしかしたら、仕草だけだったのかも知れない。
ライターになりたいっ!、と心からそう思った。何なら着火してくれるのはうさぎちゃんだ。
タバコに火を点け終わるまでの数秒間、間近に彼女を眺められたのにそれも覚えていない。視線をそらした自分を呪う。
その時に何故踏み込んだ会話に持ち込まなかったのか。せめて、次に会った時に挨拶ができるくらいの何かを残せなかったのか、と。
ニ兎を追う者は一兎をも得ず。私はといえばうさぎちゃんを追うことすら出来ない。