うさぎちゃん-1-
彼女は私と同じくタバコを吸う。
恐らく一日に多くても3回、オフィスビルの下にある喫煙所に現れる。
基本は10時と15時50分。後はよく分からない。大体そのあたりの時間、喫煙所に座って、彼女はタバコを吸いながらスマホをいじったり、電話をしたり、同僚と会話をしている。
笑顔はほぼ無い。どちらかと言えば無愛想に見える。
かん高い声は見た目の印象よりも若く感じられるが、恐らく私とあまり遠くない年代のように思える。
とにかくタイ人の女性は実年齢と見た目の印象の乖離が激しくて、推定が難しい。
うさぎちゃんと私が勝手に呼んでいるその彼女は、同じオフィスビルで働いている。
ある日、彼女は私がタバコを燻らしていると、ライターを貸してほしいと話しかけてきた。
それがことの始まりだった。いや、始まったと思っているのはこちらだけに違いない。彼女はいつもクールで愛嬌なしな素振りを変えない。
が、日を追うごとに、なんと無く、距離感が変わって行く、そんな気がしていた。