見出し画像

1995 タイ -2-

私が一目惚れをしたのは、当時仮住まいをさせて頂いていたバンコクの街外れにあった住宅の隣の食堂で働いていた少女。透き通るような白い肌、黒い髪。正直、それしか覚えていない。

仮住まいをさせていただいた約1週間、結局、彼女と会話をすることは出来なかった。その食堂に食事に行く度、遠目に彼女を憧れていた。ある日、その少女の弟が「お前はエイズか?」と私に質問をしたのだった。何故、その子は私にそう言ったのか。

当時、私はタイ語が出来なかったことを負い目に、彼女に自分の気持ちを伝えることが出来なかったのだが、一番の理由は別にある。

私がタイに滞在していた正にその時、日本人はタイ人から非常に厳しい視線を浴びていた。日本人が素人のタイ人でエロビデオを撮影したことにより、それが社会問題に発展していたのだ。

ひとりの日本人として恥ずかしい気持ちで一杯となり、純粋な私の好意を彼女に伝えることを躊躇せざるを得なかった。日本人であることは隠せないが、出来れば周りに知られたくなかった。そして、その少女の弟が「お前はエイズか?」と私に問う。

日本人はセックスアニマルと、こんな子供までそう思うような風潮に、私は戸惑うばかりであった。旅行代理店でネパール行きの航空券を手配しに行った時、そのような日本人がいることを彼に伝えたところ、「お前さんは悪くないよ」と、慰めてくれたのを今でも覚えている。私は涙した。

今思えば、彼女は私を恋に落とさせたつもりは無かったのは間違いないが、私は彼女を含めて、間違いなくタイに恋をした。そして、今バンコクで暮らしている。

いいなと思ったら応援しよう!