小説⑥
「とらちゃん、ドーナツ出来た?」と無邪気な笑顔を向
けてきた、橘。小林は少し照れながら、その笑顔はず
るいです…と小さく呟いた。
僕はこの人の笑顔を守りたいと思った。
「出来ましたよ、修さん」
小林と橘がテーブルに向かうと、榑林が椅子に座り
捜査資料を広げていた。
「被害者の名前は、畑中明人28歳。大手企業の社員
だそうだ。」
「ふーーーん。殺害現場は、被害者の自宅か、
凶器は?」と橘が捜査資料をのぞき込んで聞いた。
「まだ見つかっていないそうだ」
そうか…と呟くと橘は上着を羽織り捜査資料を片手に
外へ出た。
ドアを半分開いて、二人に問いかけた。
「あ、ごめん被害者の自宅ってどこだっけ?」
小林と犬飼が同時にツッコミを入れる。
『捜査資料に書いてあるじゃん(笑)』
「あー(笑)本当だ」と橘は照れ臭そうに頭をかきむしる
橘はたまに天然ボケをかますところがある。
そういうギャップに小林は惚れているのだ。