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大門美奈写真集「浜」(赤々舎)について

「浜」表紙

写真集「浜」について

わたしのWEBサイトからの転記(追記あり)ですが、改めて、2018年に発売した写真集「浜」(発行:赤々舎)についてご紹介します。

茅ヶ崎に転居して昨年で10年になりますが、住むというのは家に居住するということだけでなく、その風景に身を置くことなのだと改めて感じます。
同じ風景のなかで共通認識としての「浜」を持つことは、ある種の身体的な繋がりさえも感じるものです。

この写真集は赤々舎の姫野さんのご紹介により、HON DESIGNの北尾崇さんにアートディレクションしていただきました。

このざらざらした感じ、伝わるかしら

思い通りの仕上がりがとても嬉しくて、しばらく写真集を抱いていたのを覚えています。

キヤノンギャラリー銀座での写真展が決まってから急遽写真集の出版が決まりましたが、思い切って決断して本当によかった。キヤノンギャラリー銀座を皮切りに、キヤノンギャラリー名古屋(現在は閉廊)、キヤノンギャラリー大阪、翌年の東京・京橋の72 Gallery、また、2020年には公益財団法人茅ヶ崎市文化・スポーツ振興財団の企画により茅ヶ崎市庁舎のプロムナードのギャラリーでの展示など(主要作品は財団に収蔵されています)、現在まで5箇所で展示を行いましたが、その間多くの方の手にこの写真集が渡っていったことをとてもとても嬉しく思います。

特に印象に残ったのが、「写真集を見ていたらもう一度展示を見たくなって」と何度も展示に足を運んでいただいたり、何度か展示を見ているうちにやっぱり写真集を買おうと思った、と手にとってくださった方がいらしたこと。

おおらかさのある「浜」。ビシッと黒の箔押しです

表紙は砂のような、ざらりとした手触りの素材にしてもらいました。題字は北尾さんと同じく京都在住のデザイン書道家、臼井彰さんによるもの。
大らかで力強い書体でありながら、優しい印象に仕上げてくださいました。

そうそう、見返しの色について。
姫野さんと北尾さんと打ち合わせしている際、お二方からは「ベタだけど、海のイメージで青がいいのでは」とご提案いただきましたが、後日私が提案したのはいわゆるドドメ色。これがね、わたしのイメージする海の色なのです。夏本番、みんなが浜に集まり始める濁った緑色。

改めて、写真集の紹介でした。

ステートメント

セツさんが2018年の2月に亡くなった。
セツさんは、茅ヶ崎ではじめて親しくなった友人だ。
サーフショップの社長が「茅ヶ崎に住んでいるならセツに会いに行け」と言う。どこにいるのか聞くと家にほど近い居酒屋に毎日いるからそこへ行けば会える、と。
そこで出会ったのがセツさんだった。一言で言うならば、海とともにあった人だ。

あるとき、セツさんに呼び出されて浜へ行くと、セツさんと爺さんがいた。
爺さんはこの浜で長年地引網をしている漁師だという。「サミー・デイビス Jr. みたいでしょ」とセツさんが言うので、以来、その爺さん を「サミー」と呼んでいる。
浜で過ごしていると、名前などなくても、自分が何者であるのか話す必要などないように思えてくる。
浜で会い、時には一緒にお酒を飲んだりしていてもお互いの職業も年齢も、本名すら知らないのだ。
そんな非常に緩い、しかし確実に誰かと繋がっていることのできることを実感できる場所が、私にとっての浜なのだ。

またある日、いつものようにカメラを持って浜へ行った。当たり前のようにスナップをしていると、サミー が「なぜ写真を撮るのか」と聞いてきた。
私が自分の生業を説明し、改めて撮らせてほしいと頼むと、頭に巻いていたタオルを取って「おう、じゃあ撮んなよ」といつもの相州弁で応じてくれた。 自分のことを話し たのはこのときだけだ。

海から受ける恩恵は大きい。
魚が新鮮だ、景色が良い、といったことだけでなく、海がそこにあるというだ けで生活自体が変わるのだ。
ここに写っているのは、たった4年の出来事。
たった数年でも、浜も、浜からの風景も、浜の人々もどんどん変わってゆく。
ノスタルジーではない。人々の関係性のなかで築かれてきたこの浜を、何らかの形で残さなければという、半ば使命感にも似た気持ちでいる。
それが、この浜や、浜で出会った人たちへの恩返しになるのではないかと。
今でも浜へ行くと、オレンジ色の自転車に乗ったセツさんがふらりとやってくる気がしてならない。
私がこ の「浜」という居場所に出会えたのは、人と人との繋がりが導いてくれた必然なのだ。

Mina Daimon Photography | 大門美奈写真集「浜」(赤々舎)について
  • 大門美奈写真集「浜」

  • アートディレクション:北尾崇​(​HON DESIGN​)​

  • 発行:赤々舎

  • サイズ:299 mm × 225 mm

  • ページ数:72​ページ

  • 上製本

販売先

  • 全国の書店​ほか

  • オンラインショップ

それぞれにメリットはありますが、わたしのサイトよりご注文いただくとサインとささやかなおまけをおつけしています。

キヤノンギャラリー銀座に来てくれたサミー。残念ながらこの翌年他界されました。今も浜に行くと気配を感じます。夏に日焼けしてないと「あんだぁ、まっ白じゃねぇかよぉ」と怒られるのよ

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大門美奈
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