新・櫻前線 神奈川DAY1

『静寂は、暴力だ』

一つ断っておくと私は日向坂のファンであり、それは揺るぎない。そして最近どうしてもセンシティブな事象になっていると思うので、この後坂道の比較もしない(というか私にはできない)し出てこない。
ただ、私はたまたま誘われて行ったあのライブがぶっ刺さってしまい、その余韻から抜け出す事ができないだけ。

櫻坂は元から嫌いではない。ただ、私に刺さらないだけだった。

欅坂の最後の紅白を見た人はそれなりにいるのではないだろうか。
結果的に、欅坂としては最後の紅白となった2019年、演ったのは不協和音。最後は平手がほぼ倒れ込むようにしてパフォーマンスを終えていた。
ウッチャンの「よくやった!」。私はもう、これは狂気だと思った。
しかしその後のCDTV、そこで演っていたのは森田がセンターの黒い羊だった。
私は見入ってしまった。まさに1匹の色違いの羊が迷い込んでしまったかのような、そんなパフォーマンスだった。

それからさらに時が進み、欅坂は櫻坂に改名した。
森田センターのNobody's faultが公開される。カッコいい。でもあまりにも仕切り直します!という運営の都合の押し付けを勝手に私は感じてしまった。
というか欅時代とカラーが白になったこと以外、何が変わった?と。
むしろ平手を中心に、メンバーが抜けたことによる不協和音が聞こえてくるような気がした。
その後もコンスタントにシングルが出るが、私に刺さることはなかった。
流れ弾で紅白を出た時なんて、あれは滑っている、と強烈に思ったことを覚えている。

時がさらに進み、コニファーフォレストで合同ライブが開かれた。
と言ってもぼぼ単独ライブを日程別に行うばかりで、ライブとしての合同感は開催した2年ともなかった気がするが……。
2021年は日向坂のライブに参加し、2022年もそのつもりだった。ただ、2022年はライブ直前に櫻坂のメンバー内で体調不良者が続出し、公演が延期になった。
あの年、私は仕事で頻繁に休日出勤をしていたこともあり、平日休みが多かった。そのため、チケトレで大量に余っていた櫻坂の平日公演のチケットを取得し、ふらっと観に行った。
持っていた知識は大園玲が自分の好みであることと、どろかつがいることくらい。

あのライブは、幻想的だった。

楽曲が、パフォーマンスが、カッコ良い。
ソニア、最終の地下鉄に乗って、車間距離、制服の人魚、ジャマイカビールなどの表題以外の楽曲の強さ。
なぜ恋、BANなどの表題の力強いパフォーマンス。
そして、たまたまサブステ前の席だった私は、思ったよりも寂しくないのパフォーマンスにやられた。
水が降り頻る中、夕暮れの野外ステージで笑顔でペアダンスをする増本と大沼、そして合流する森田。
ああ、思ったよりも寂しくはない、思ったよりも幸せかもしれない。
ライブで心をこんな風な揺さぶられ方をした経験はなかった。
そしてラストのWアンコールで突然披露された摩擦係数。
ただ立ち尽くした。

前段が長くなったが、ここで時は2024年3月26日へ飛ぶ。
今回のアリーナツアーに足を運んだきっかけは、単純に友人に誘われたからだった。
ライブ前は、単純にちょっと楽しみ、それだけ。野毛で2、3杯引っ掛けてぴあアリーナMMに向かった。
私にとっての櫻坂のライブのイメージはあの時のW-KEYAKI 2022年で止まっている。3期なんて顔と名前も一致しない(石森ちゃんだけ認識していたので何となくタオル買った)。

ライブが始まる。

Overtureからのクラップ。Whacha say we do?
何すんだ?という高揚感。そしてピークに達してからのマンホールの蓋の上。
徐々に会場を染めていく。
そして摩擦係数にそのまま突っ込んでいく。Wセンターの森田と天ちゃんが対比構造を組むように、メインステージとセンターステージで向き合う。
ダンストラック。にやりと笑う2人。もう会場はふたりの対決を見つめることしかできない。
BANが始まる。
「変わらないっていけないことなの?」
そんなことない。でも、あまりにもカッコよく変わっている。

MC明け、Anthem timeからスタート。
一気にまた会場の色を3期の底抜けの明るさで染まっていく。
そして1サビ終わり、曲が次に移る。ああ、櫻も1ハーフやるんだ、くらいに思っていた。
次はドローン旋回中。櫻坂の楽曲中で個人的に一番のライブチューン!絶対にライブで聴きたいと思っていた。3期に負けない!とばかりに盛り上げ、会場のボルテージは最高潮。
そして1サビ終わり、私は耳を疑った。Anthem timeに戻った。2曲のを力技でmixされていた。
会場のギアもまた1段入り、そのままの勢いで曲が終わる。そして、やはりこちらもドローン旋回中へ回帰していく。
こんなのありかよ。良すぎる。

Don't cut in line!で熱が籠った会場に3期のユニット。もうこんなこともできるんだよって。
その次はコンビナート。イントロで会場がオレンジに染まる。港湾のあのナトリウムランプのような、無機質だけど柔らかい色に包まれた会場は、増本だからこその光景。

そしてセンターステージに置かれるいくつもの机。
何度LOVE SONGの歌詞を読み返しただろう。
櫻坂の3期生、此処に在り。
イントロのあのドラムとピアノには否応無しにテンションが上がるように人の身体は作られている。
サビ前のbridge直前のベースのグリッサンドで鳥肌が立ち、サビのど頭で腕を突き上げてしまう。
楽曲はそのまま後半に進む。MVのように机を存分に使う。そして後半のCメロの振り。ハンドマイクではなくヘッドセットだからこそできる、かっこよさとかわいさを兼ね備えた振り。この瞬間のハートがずるい。
転調してラスサビ、振りがリレーされていく。その勢いのままラストのアウトロへ。
力強さと切なさ、可愛さ、それが全て備わっている。

そしてすぐにメインステージに置かれる一脚の椅子。青春の白さから打って変わって、大人。
ダンストラック、武元のオンステージ。
油を差せ!
会場がネオン街に変わる。
3期生楽曲の真っ直ぐな恋と、あの時を少し懐古してしまうような、いや幻想を抱いている今の自分。
あまりに完璧な演出だった。
それからそのアンサーのような藤吉センターの恋は向いていない。
「やめておく」
臆病。

MCを挟んでからの、ダンストラック。そしてCool。
無機質な格好良さ。
大園玲がボブになったことで一層無機質な世界観になっていっている気がする。
そこからの承認欲求。
ダンスパート含めて、櫻坂の世界観を再度会場に構築していく。
不安?知らん笑

再構築された会場のステージに山下瞳月が立つ。
静寂。空調の音だけが聞こえる。
メインステージからセンターステージへ続く道を歩き始める。
ああ、自分の心臓の音がうるさい。
全ての視線が山下に注がれる。真っ白なスポットライトのように。
もう私は、何かに祈っていた。
センターステージの3期生と合流する。
無音のまま、山下が踊り始める。
アリーナに、ステージとスニーカーが擦れる音だけが響く。
3期生全員、踊り始める。
無音のまま。
イントロが流れ始める。メンバーの少し乱れた息遣いがマイクに入る。
静寂の暴力。
息遣いが聞こえる。歌も聞こえる。一糸乱れぬ踊りがある。
でも、会場は無音のような気がした。否、あまりに会場を支配していたから、自分達以外を、全て無きものにしていた。
音も、光も、存在も。
「静寂は、暴力だ」

全て、持って行かれた。私は気付けば泣きそうになっていた。

ここからダンストラックを持って行き、3期が完成させた世界の隣に、最後もう一つの世界をまた積み上げていく。
泣かせてHold me tight!
あの曲を喰らい、呆然とする私の頬を、まだ終わってねえぞ!と叩いてくる。

そして、イントロの特徴的なベースが始まる。
Start over!
藤吉夏鈴は主人公だった。
MC中に空を飛ぶ飛行機を見上げているようにぼーっとしていた彼女は、今溢れてしまう笑いを堪えるような表情をし、そして頂上に君臨していた。
そして挑発をするように、ステージから全てを見下していた。
「大事なのは、どこからやり直すか」
「そりゃ、諦めかけた数秒前」
この瞬間、藤吉が主人公の物語の世界が出来上がる。

ステージのスクリーンにLAST SONGの文字。
何歳の頃に戻りたいのか?
この曲では山崎天が主人公になる。
「行き先がどこかなんて今はどうでもいい」
きっと本当にそう思っている。微かな逡巡もある。
でも腹を括ったかのように、会場を引っ張り上げる。そして自分の物語を展開していく。
「過去に戻れやしないと知っている」
「夢を見るなら、先の未来がいい」
山崎もこの瞬間、藤吉と別の世界を作りあげる。対立した世界を。

正直このライブで私は、静寂の暴力に全てを持って行かれた。ただ立ち尽くしてしまうくらいに。
あの瞬間、音楽は流れていた。メンバーは歌い、踊った。
ただ、あの空間は静寂に支配されていた。その様は、暴力としか言いようがない。
言いようがなかった。


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