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デーモン閣下になりたい、アラサー一般女性の話。

デーモン閣下というのは、あのデーモン閣下だ

顔が白くて頭がツンツンしていて、「お前も蝋人形にしてやろうか」とのたまう、あの悪魔だ。

お昼のワイド番組に出たり、相撲の解説をしたりしているけれど、本業は歌手でとっても歌がお上手な、あのお方だ。


そんな閣下に、私はなりたい。

しかし顔が白い悪魔になりたいわけでも、相撲にくわしくなりたいわけでも、歌がうまくなりたいわけでもない。


この顔が白くて、自分のこと『ワガハイ』って呼んでる人はなんなの?


デーモン閣下はヘヴィメタルバンド(を装った悪魔教の教団)のヴォーカルである。

1999年に当初からの目的であった地球制服をなしとげ、聖飢魔Ⅱは解散を迎えた。

つまり1996年生まれの私が存在を知った10歳くらいのころには、閣下は聖飢魔Ⅱでヘヴィメタる教祖ではなく、バラエティやワイド番組に出演する、お茶の間のデーモン閣下だった


「歌手なんだよ」と、母が教えてくれた。彼女は聖飢魔Ⅱ信者であり、結婚前は会社帰りなどに、ミサ(ライヴ)に参拝もしていたという。


中学生になったころ、CDをいくつか聴き、「お前も蝋人形にしてやろうか」というひとり歩きしているフレーズは「蝋人形の館」からきていること、それ以外にも名曲がたくさんあることを知った。

しかしそのころ、私の中の聖飢魔Ⅱは、まだ「面白くてかっこいいバンドのひとつ」でしかなかった。

そんな私がデーモン閣下になろうとしたのは、大学2年の3月。


きっかけは、芥川賞作家だった。

2017年、デーモン閣下のアルバム「EXISTENCE」がリリースされた。

5年ぶりの発売となったこのアルバムには、芥川賞作家の羽田圭介氏が作詞を担当した楽曲が収録されている(同じく芥川賞作家のブルボン小林氏、漫画原作者の貴家悠氏が作詞した曲も収録されているのだが)。


なんで『スクラップ・アンド・ビルド』の人が、作詞してるの?

私はテレビを観ない人間のため、受賞作を読んではいたものの、彼がテレビ番組にバンバン出て、顔を白く塗って聖飢魔Ⅱを歌い狂っていたことを知らなかった

歌い狂う羽田氏とともに、聖飢魔Ⅱ信者(ファン以上に聖飢魔Ⅱを崇拝する人)には顔を白く塗ってカラオケをしたり、コスプレをしてミサに参戦したりする文化があることを知った

そして私は、こうなる。


私も顔を白く塗って、コスプレしてみてぇ~!

今思えば、当時私がなりたかったのは、デーモン閣下ではなく羽田圭介だったのだろう


2015年は、私が大学に入学した年。小説の書き方が学べる学校に進んで「これからやったるで」というときだった。

お笑い芸人が受賞したという衝撃もあって、当時の芥川賞はインパクトが大きかった(歌い狂う羽田さんは知らなかったけど)。

だからピースの又吉さんと同じ年に芥川賞をとって、「又吉じゃない方もなかなかキャラ濃いらしいね」って注目されて、聖飢魔Ⅱにお誕生日を祝ってもらえて、そのあとで閣下の曲を作詞までされて。

超うらやましい気持ちも相まって、顔を白く塗ることにした。なぜ小説で頑張らないのかは、おいといて。


幸いなことに、私は大学でコスプレサークルに所属していたため、人いちばい閣下になることへのハードルは低い。

と思われたが「私、聖飢魔Ⅱのコスプレするから!」と言っても、周りはキョトンとしていた。当たり前か。最近の若者は、デーモン閣下が歌手であることさえ知らないのを、ここで思い出した。


私は変にまじめなので、「コスプレする!」と言ってしまったら、絶対やらなきゃいけないなぁと覚悟を決めた。

とりあえず11月にある学祭でコスプレすることを目安にし、情報収集や衣装の作成をはじめる。

中学生のころに触れていなかった楽曲も聴いたし、もちろん、閣下以外の構成員も素敵だ。もう閣下レベルの悪魔が五名いらっしゃるので、演奏レベルだけでなく、考え方もヴィジュアルもはちゃめちゃにかっこいいのだ。

聖飢魔Ⅱってすごい、すごすぎて語彙力がチープになってしまう。


CDを聴き、動画を観て、時にはコピーバンドを参考にしたりもして、衣装を作成した。学祭に間に合わなさそうだから、授業中に内職したこともある。

ドーランを買い、家で練習したものの、どう見てもホラー映画に出てきそうな感じにしかならない。だからたくさん練習した。

そして私は……。


とりあえずエース清水長官になった。

※エース清水長官とは 聖飢魔Ⅱの上手ギターで、解散前最終構成員。軍服のようなデザインの戦闘服がトレードマーク。脚が長い。



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(ガサガサの自撮りしか残っておらず、画質を上げようとしたら、なぜかポスターみたいなタッチになってしまいました。この画像だけでイメージづけるのはあまりに恐縮なので、下のリンクからご尊顔をご確認ください。)


いやなんでだよ。そこは閣下だろ。

と思われるだろうが、当時の私には、閣下として大学を歩き回る勇気がなかった。 ​


「閣下になりたい」などと言い、コスプレまでしてしまう私だが、実際のところは勇気も自信もない人間だった

コスプレのサークルに入ったのも、周囲の女の子がきらびやかすぎて、「友達ができないかもしれないから、オタクの多い場所に行かなきゃ」という不安から。

大学内でも、前より下を見ている時間の方が長い。学食に行っても、誰とも目を合わせず、隅っこの席で定食をかっこんで逃げる。

そんな私は、コスプレをして歩き、「あっデーモン閣下だ!」などと指をさされることを想像しただけで怖かった

だから「閣下以外の構成員」になることにした。

(今思えば、長官でも十分目立つのでは……?)


それでも当日まで不安だった。学祭ではやるコスプレをサークルの総務に伝えるのだが、「聖飢魔Ⅱのエース長官やるね」と言った時点で、止めてもらえるんじゃないかという期待もしていた(自分がやりたいのに)。

しかしストップはかからず、私は長官として学祭に参戦。よくある「企画やってるんで来てくださぁい」というような勧誘をすることになった、長官で。


更衣室から出ることが、こんなに不安だったことはあるだろうか。

だって私、絵の具みたいなドーランを塗りすぎて、顔が原型をとどめていない。この顔で出ていったら、笑われるでしょ。もう聖飢魔Ⅱとか、閣下とか長官とか関係なく、これは顔を白くして妙なかっこうしてる、バカな私よ。


だけど、私は更衣室を出て、みんなの前に行かなくてはいけない。サークルの友だちは、私を見てたしかに笑った。だけど、こうも言ってくれた。


「アンタのそういうとこ、好きだわ」

長官は好評で、コスプレのクオリティにうるさい先輩も、笑ってくれた。

コスプレをしているのに、私自身のことを「好き」だと言ってもらえる。こんなコスプレははじめてだった。


ほどなくして、私はついにデーモン閣下になった。更衣室から出て、みんなが白い顔を見て驚くことは、もはや快感になっている。

Twitterに写真を上げると、反応は「なんかはやしが顔を白く塗っててウケる」から、「閣下だ!!」に変わった。友人がリツイートすると、私の知らない人にも拡散されていく。

見てもらえてうれしいな。純粋にそう思い、反応してくれた人のアカウントを見に行くと。


「えwww閣下じゃんwwwウケる」「草」


だいたいこんな感じの反応だった。


覚悟はしていた。

学祭で私のコスプレを肯定してくれた人たちだって、少しは嘲笑が含まれていた気はしていたけれど、見ないふりをしていた


だけど、わかっていても、そんなこと言われたら傷つくよなぁ。

リツイートした友だちは謝ってくれた。いや、謝らせてしまった。

私を笑うのはいいけど、私以外の誰かを傷つけたり、謝らせたりしないでほしいと思った。


しかし、ネガティブは止まらない。


ひょっとして、笑われているのは私じゃなくて、顔の白い悪魔・デーモン閣下なのか?

私がコスプレをする理由のひとつに、好きな作品やキャラクターを知ってほしいという思いがある

マイナーな漫画のコスプレをしたところ、作品に興味を持ってもらえたこともあったから。


だから知ってほしかった。はちゃめちゃカッコよくて、賢くて優しくて歌がうまくて最強なデーモン閣下のことを

デーモン閣下は奇抜なルックスの面白い方だと思われているかもしれないけど、戦闘服はどれもカッコよくて。

相撲解説のイメージが強いけど、ふとしたひとことにも重みとポリシーがあって素敵で。

聖飢魔Ⅱは閣下が五名いるようなバンドじゃなくて、顔の模様や髪型、キャラクターもそれぞれ違って魅力的で。


それなのに、伝わらない。こんなにもわかってもらえない

そして同時に、こう思った。


こんなに理解されない世界で、デーモン閣下は平気なの?

「この顔が白くて、自分のこと『ワガハイ』って呼んでる人はなんなの?」

かつての私も感じたことだが、これは誰もがデーモン閣下に対し、一度は抱いた疑問ではないだろうか。

答えはシンプルだ。デーモン閣下は悪魔であり、どこまでもデーモン閣下なのだ。それ以上でも、それ以下でもない。


しかしデーモン閣下がデーモン閣下であることは、理解されない場面もある。

たびたびキャラクターがネタにされ、ご自身からコメントが出される場合がある。2021年にもなって、まだ、ある。


上記の記事でも触れられているように、こうして閣下ご自身からコメントが出されるケースは「おふざけではすまされない、注意せざるを得ない場合」に限る。

つまり我々が知らないところでも、ネタにされているケースは、まだまだある。


デーモン閣下が一番嫌いなのは、人間の姿で会った人に「えー、そんな顔してるんですね」と言われることらしい。それを「君たちにわからない苦労」という閣下は、孤独なのだと思う。

私が顔を塗って、更衣室から出るときの不安、周囲の笑いと驚き。それを閣下は、おはようからおやすみまで受け止め続けているのだ。

しかし閣下は、デーモン閣下であり続ける。


「常識はずれでなく、常識破りをする」

デーモン閣下は早稲田大学の卒業式に、悪魔のお姿で参加された。それは「ほかの卒業生が社会人としての服装(スーツ)で来ているように、自分にとって世に出ていくための姿で臨むべき」だから。

それから30年以上経過した現在、ワイド番組に出ていても、相撲解説をしても歌を歌っても、デーモン閣下は悪魔の姿だ

聖飢魔Ⅱ解散後、構成員は悪魔の姿をやめ、人間として活動することを許された。しかし閣下だけは、変わらず悪魔の姿で人間界に顕現している。


デーモン閣下は悪魔であることを継続した結果、お茶の間に、日本に、悪魔という存在を定着させてしまった。

閣下は閣下を継続することで常識を破り、「悪魔だって歌うし、相撲解説もする」という新しい常識をつくったのだと思う。

「自分が自分である」ということは、こんなにも難しい。

だけど自分を貫き通すのは、こんなにもかっこいい。

私もこんなふうに、自分を貫くことで新たなあたりまえができるくらい、「自分が自分である」ことに、正直になってみたい


最後に

「叫べ! 呪え! 吠えろ! 怒れ!」

「イヤなことはイヤだと言ってやれ」

聖飢魔Ⅱの音楽は教えでもあるため、信者にあたる者は、それを実行に移すべきじゃないかと思う。

それは聖飢魔Ⅱみたいなバンドを目指すでも、得意な絵で表現してみるでもいいし、上司に負けないで仕事を頑張るでもいいのだ。

私にとっての実行は、最初はコスプレをして、閣下になってみること。けれど、こうして文章でも表現できるんじゃないかと思いはじめた

このnoteも実は一度投稿したものの、自分が恥ずかしくなってしまったこと、あまり思うように読んでもらえなかったことを理由に、非公開にしてしまったものだ。

けれど他のファンの方が聖飢魔IIについて、noteで語っているのを見て、私も書かなくてはと思った。

このnoteが誰かの目にとまり、ちょっとでもデーモン閣下や聖飢魔IIのことを知ってもらえたらうれしい。

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参考文献

デーモン小暮『我は求め訴えたり』ネスコ(一九八七)

デーモン小暮閣下『悪魔の人間学』マドラ出版(一九九三)




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はやし。
読んでいただいてありがとうございました! どんな記事でも、どんな反応をいただいても、おすすめ聖飢魔IIが出るようになってます!DEVIL BLESS YOU!

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