見出し画像

飛ぶのだろうが!!

何かがうまくいかない時、超えたい壁がある時、人生における重要なタイミングで必ずと言っていいほど見るアニメがある。
それがピンポンという作品である。

今回は、ピンポンの素晴らしさを紹介しながら、自分語りを織り交ぜていこうと思う。

見たことのない人のために簡単に説明すると、卓球をテーマにした青春群像劇である。王道スポ根モノだが、人生の全てがこの作品に詰まっていると私は考えている。天才的な卓球センスを持つ星野裕(通称ペコ)と幼馴染である月本誠(通称スマイル)を中心に様々な人物にスポットを当てながら、それぞれの成功と挫折、そして再起を描いた作品である。

見たことがない人はぜひアニメもしくは漫画(一応、実写映画もある)を全てを見てから、読み進めてほしい。

これ以降はあくまでアニメを軸にして話を進めたい。
あなたが好きなキャラクターは誰だろうか?何話が好きだろうか?
この質問はある意味、流行りのMBTI診断よりもあなたの人格を反映していると私は信じてやまない。

私が好きなキャラクターは佐久間学(通称アクマ)と風間竜一(通称ドラゴン)である。いきなり二人も挙げてズルいという訴えは棄却させていただく。
好きな話は第6話『おまえ誰より卓球好きじゃんよ!!』と第10話『ヒーローなのだろうが!!』である。これまた二話も挙げてズルいという訴えは棄却させていただく。好きという気持ちに制限を設けるべきではない。

この二人(二話)に共通して言えることは、ペコに対してコンプレックスと憧れを持っていること、それをはっきりと言葉や行動にすることである。

例えば、第6話ではアクマがペコに対してはっきりと自身が憧れていたこと、そして挫折を味わったペコに対して卓球を続けろとはっきりと伝える。この時のアクマの心情を思うと、なんとも言えない気持ちになる。アクマのプライドの高さや、目が悪いというハンディキャップを抱えながらも奮闘する姿、そして自身の理想には到底届かないことがそれまでの話では描かれており、創作物でありながら残酷なまでにリアルな心理描写に胸が痛くなる。

そんなアクマが
「飛べない鳥もいる」
というシーンで毎回涙が溢れそうになる。

本作には大切な2つの主題があると私は考えている。
「ヒーロー」と「羽」の2つだ

本作の中で、卓越した選手になることや、素晴らしいパフォーマンスを発揮することを「飛ぶ」とペコは表現する。実に感覚派で天才肌のペコらしい表現だ。そして、アクマは『飛べない鳥』だったのである。もしもアクマが大空を夢見る『鳥』でなければ、挫折を味わうことはなかったかもしれない。それでもアクマは、自身にとってのヒーローであるペコを見て、大空を夢見ずにいられなかったのである。そして飛べない鳥にとって現実はあまりにも残酷で、それを受け入れたアクマは大空を駆けるヒーローの翼にはない強さを手に入れるのである。
「競争原理から離れることで見える景色さ」
このアクマのケジメがこの一言に集約されている。
「お前の卓球センスはずば抜けてんよ、おれが保証する。」
きっと大空を夢見ていた頃のアクマでは言葉にできなかったことだろう。

だからこそ、卓球に必死にならないペコをアクマは許せなかった。

続くシーンも印象的である。
ペコ「俺っち昔は強かったのよ」
・・・中略・・・
ペコ「空だって飛べた!」
・・・中略・・・
ペコ「奇跡なんて言葉知らなかったよ!」
・・・中略・・・
アクマ「クラスのみんなみんなお前に憧れてた。俺らにとってお前は…」
アクマ「お前誰より卓球好きじゃんよ!!」

この言葉にペコの若さ故の全能感と、ペコが周りにとってどんな存在だったかを考えされられる。
そしてその後、ペコは橋から『飛ぶ』のである。

その後はペコの卓球選手としての再起が描かれるのだが、やはりこの作品はアクマというキャラがリアリティと深みを与えてくれると感じる。

あなたが物心ついた時、夢見たものはなんだろうか。そして今、それは叶っているだろうか、あるいは今も追いかけ続けているだろうか。
おそらく、ほとんどの人の答えはNOだろう。多くの人は身に余る憧れを抱き、冷たく、残酷な現実に打ちのめされ、小さく、でも暖かな幸せを見つける。
夢追うあなたにとって大空を駆けるヒーローは誰だっただろうか。その人は今もあなたにとってのヒーローなのだろうか。


私は、誰かにとってのヒーローになりたかった。小さい頃はどちらかというとリーダー気質で、友達をまとめる方だった。勉強はできなかったが、理科の実験は大好きで、科学者になるのが夢だった。きっと、自分はすごい人になると思っていた。
そして今、大学で研究を始めて博士課程にいる。紆余曲折を経て、夢を追いかけている。しかし、思うように結果が出せず、留年が決まった。研究を始めた頃は根拠のない自信、全能感があった。きっと研究を続けていけば自分はヒーローになれると思っていた。今は、自分の力に限界を感じ始めている。
「飛べない鳥もいる」
アクマのセリフが胸の奥の柔らかいところに染みてくる。


第10話では卓球の名門、海王学園高校主将のドラゴンとの戦いが描かれる。
ここでもドラゴンの過去や心理描写が見どころになる。
名家、名門に生まれたドラゴンにとっては勝利が必然、卓球は苦痛であり、楽しいものではなかった。そんなドラゴンの目に卓球を心から楽しむペコは稚拙さを持った現実を知らぬ理想主義的な人物として写り、妬ましく、否定したい存在であった。

ドラゴン「どうしたヒーロー!どうしたよ!ヒーローなのだろうが!」
ドラゴン「飛ぶのだろうが!皆を救うのだろうが!」

このセリフに楽しさと強さは両立し得ないと信じているドラゴンがペコを否定したい心情と、救えるものなら勝利の苦痛と虚しさを知る自分を救ってみろという気持ちが表れている。

その後の心理描写が特に秀逸である。
ドラゴンは高く、どこまでも続く崖を四肢を使って登っている。対してペコは自身の翼を使って高く飛び、ドラゴンを解き放つ。

ドラゴン「ヒーローなど!頼れるのは己の力のみ」
・・・中略・・・
「全身の細胞は狂喜している。加速せよと命じている。加速せよ。加速せよ」
「集中力が外界を遮断する。膨張する速度は静止に近い。やつは当然のように急速な進化を遂げる。」
「瞬発する肉体。次第に引き離されていく。徐々に置いていかれる感覚。優劣は明確。しかし焦りはない。」
・・・中略・・・
ペコ「どうかしたんか?」
ドラゴン「いや、いい気分だ。実に。」
ペコ「そうな。」
・・・中略・・・
ドラゴン「私はここまでだヒーロー。」
ペコ「あらら」
ドラゴン「私の羽では限界だ。また連れてきてくれるか?」
・・・中略・・・
ドラゴン「そうさ。飛べるのだ。人は飛べるのだ。」

ペコとの戦いの中で、自身に翼があることに気づくドラゴン。
これまで勝利にのみ自身の価値を見出してきたドラゴンにとって、それを気づかせてくれたペコは言うまでもなくヒーローである。

ヒーローになりたい自分が、うまくいかない時、超えたい壁がある時、ドラゴンが私に語りかけるのである。
「飛ぶのだろうが!皆を救うのだろうが!」
うん。ここで頑張らないと、ベストを尽くして結果を出さないと、誰にとってのヒーローになどなれるはずもないと自分に言い聞かせる。
ヒーローになどなれないのであれば、
「私の羽では限界だ。」
そういって諦めがつくまで、力の限り飛ぶしかない。

とはいえ、現実は厳しく、あまりに残酷で、時間は止まってはくれない。アクマのように諦め切ることもできずに、ヒーローにもなれない自分はこのままでいいのだろうか。いいわけがない。今は、ヒーローではない自分を受け入れ、羽を動かす。誰かにとってのヒーローになれる日を夢見て。
あるいは、もしかするといつかこんな自分にもヒーローが現れるのかもしれない。

あなたにとってのヒーローは誰ですか?
あなたは誰かにとってのヒーローですか?


いいなと思ったら応援しよう!