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トランスジェンダリズムとは?…9

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東京オリンピックでトランスの選手が


 2020年3月、コロナショックで、東京オリンピックの1年延期が決まりました。1年後に果たして開催できるのかどうかは怪しいものだと思いますが、もし開かれることになったら、東京オリンピックはオリンピック史上初の、トランス女性が生物学的女性と競い合う大会になる予定だったということなんですけど、ご存知でした?

 2020年4月19日の朝日新聞は、スポーツ欄のほぼ全面1ページを使い、「女性になり出場理解は深まるか」という見出し付きでこの話題を大きく取り上げました。不公平だという批判も多いということや、IOCのガイドラインの基準値が「男性ホルモンのテストステロンのレベルが1リットルあたり10ナノモル未満の状態を大会前の12か月の間維持すること」であると紹介し、スウェーデンのカロリンスカ研究所の「テストステロン量を減らしても筋肉量は変わらなかった」という結果にも言及しています。

 しかし、「勝てるようになったのは、性別を変えたからではなく、練習したからだ」というようなトランス女性選手の声を載せ、「男女に分かれて競技する時代じゃない、男女を区別せずに競技する抵抗感も慣れの問題だ」と主張している大学准教授の意見で記事を締めくくっていて、どちらかというと全体的に歓迎ムードなのですね。

 でも、ちょっと待ってください。大事なことが書いてありません。IOCのガイドラインの基準値10ナノモルが、いったいどの程度の数字なのかという説明と、トランスジェンダーの定義です。

女性の 12 倍のテストステロン基準値

 調べてみると、生物学的男性であるトランス女性を女性の競技に参加できるようにする ために、2015 年に新たに決められた IOC のガイドラインは、それ以前のものより相当緩くなっていることがわかります。

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 緩和前は、SRS(性別適合手術)を済ませていることが条件でしたが、それは削除されました。つまりペニスを保持したまま、女性の競技に出られるようになったのです。また、テストステロン基準値は、以前は0.1〜0.2ナノモルだったのが、緩和後は、大会前の12ヶ月の間、10ナノモル未満であればいいことになりました。10ナノモルと言えば、女性で観察される平均レベル(朝日新聞は、「高い女性で約3ナノモル」とだけ書いていますが、女性の平均は0.8ナノモルです)の12倍で、これは一般男性の基準値(7~30ナノモル)の範囲内であり、ちょうど体が大きく成長する思春期男性のレベル(5~10ナノモル)に近いということです。

 この連載の第3回目トランスセクシュアル(GID性同一性障がいがあり、生まれつきの体に違和感があって治療のためSRSを望む人)とトランスジェンダー(生得的身体に違和感がないが性別をトランスしたい人、いわゆる女装者も含む)の説明をしたと思いますが、IOCの緩和前の基準値は、トランスセクシュアルのものだったのです。

《第3回目↓》


 ある研究によると、男性の骨格筋量は、女性より平均で36%多いそうです。私は昔、少林寺拳法(だったかな?)をやっている知人女性から、女性は拳法をやっていても、素人の男性に力で勝つことはできないと聞きました。前述のように10ナノモル未満は思春期の男性のレベルです。そして実際に10代の少年が出した100メートルスプリント記録は、史上最速の女性の記録を上回ります。

 確かにテストステロン値を下げると、トランス女性の筋肉サイズや赤血球レベルは下がるけれど、思春期に獲得したものは変わらないと、複数の文献にありました。つまり「より大きく、より長い肢、心臓や肺のようなより大きな臓器を持つより大きな胸郭、より大きな手、脚は狭い骨盤のためにより垂直である」などのスポーツに有利な特徴は、一生涯のものなのです(ということは、SRS=性別適合手術をしても、思春期を男性として過ごした生物学的男性が有利なのは変わらないということですね)。

 また、記事には、生まれた時から「女性」として生きてきた選手でもテストステロン値が平均より高いと一部の競技では女子として参加できないと、セメンヤ選手の例に言及していました。


セメンヤ選手は女性なのに排除された

 ネクスDSDジャパンのヨ・ヘイルさんが書いたネット記事を読んでみましょう。

 2009年のベルリンオリンピックで金メダルを取った直後から「性別疑惑」をかけられたキャスター・セメンヤ選手(1991年生まれ)は、南アフリカの陸上選手です。セメンヤ選手がかけられていた「インターセックス」(DSD)疑惑ですが、この連載で毎回書いているように、DSDというのは「男女の中間の状態」ではなく、男性なら男性、女性なら女性のそれぞれの体のバリエーションを表すものです。結論から言うと、セメンヤ選手は女性だということでした。ただ、アンドロゲン値(男性ホルモン。テストステロンはアンドロゲンに含まれる)が平均より高い「高アンドロゲン症」でした。これは、DSDに限らず、一般的な女性の体にもみられる状態だそうです。高アンドロゲンの選手の参加は他の女性選手に対して公平ではないからということで、この件は、公平性の問題のように言われていますが、欧米では女性差別の問題として取り上げられていたそうです。

 なぜなら、国際陸連(IAAF)の専任医師がセメンヤ選手におこなった「身体検査」が、定規でアンダーヘアの長さを測り、汗腺の臭いを測り、女性のとても大切な体の一部の長さを測るようなものだったからです。これは、アパルトヘイトや黒人女性の「標本化」といった、人種差別・女性差別の過去の歴史を彷彿とさせる行為です。ヨ・ヘイルさんは「そもそも、男性選手で記録を出した人が、一般男性の平均よりもアンドロゲン値が高いかどうかを問われ排除されたことは、一度もありません」と述べています。

 国際陸連(IAAF)は、400メートルから1マイルの女子競技の種目(セメンヤ選手の出場する種目のみです!)に参加するためのテストステロン値を人為的に下げるようにという制限規定を決めました。2019年7月31日のネット記事によれば、その規定の適用の一時停止の仮命令(スイスの連邦裁判所による)が撤回され、セメンヤ選手は世界陸上ドーハ大会に出られなくなりました。記事には、IAAFは「体の性のさまざまな発達状態(性分化疾患、DSD)」に伴って明らかに男性的な特徴を持つ選手を、生物学的男性に分類し、「女性選手にとって公平な大会」を目指す上で、セメンヤのように男性レベルのテストステロン値を持つ選手が有利になっていると主張した、とありました。

 IOCは、男性を男性の通常レベルのテストステロン値で女子競技に参加できるようにした一方、IAAFは、女性を男性並みのホルモン値だからと男性に分類し、女子競技から排除って...。
 は???


ナブラチロワも「不正だ」と反対した

「スポーツで女性枠にトランス女性を参入させるのは絶対に反対。トランス女性はトランス女性枠を新設すれば良い。昔は女性枠も少なかった所から、女性スポーツ人口を増やして努力してここまでになったのだ。タダ乗りは許されない。障害者(ママ)スポーツも同様。障害者スポーツ人口を増やすところから始めた。なぜ自分たちで努力しないで、身体能力の違う女性枠に割り込めるのか?そんなことでメダル取ったとして、本当に自分自身を誇りに思い自慢できるのか?私は軽蔑するだけですがね」。

 ツイッター上での一般の方の意見です。トランス女性の重量挙げ選手の記事についたコメント欄には、さらにド直球な声が。

「(写真を見て)普通に巨大なおっさん」、
「元女性が男性枠に挑んでる話をまったく聞かないのだが」、
「男相手じゃ勝てないから女のなかで無双したいんだよね」、
「おかしいと思ってる奴の方が圧倒的に多いのにおかしな話だわ」

 等々。
 また、有名なテニス選手のマルチナ・ナブラチロワは英サンデー・タイムズ紙で次のように語りました。

「例えばとある男性が女性になることを決断したとしましょう。(中略)その元々の身体的優位性で勝利を積み上げていくわけです。ある程度の大金を稼ぐことに成功するかもしれません。すると女性になるとの決断を撤回し普通の男性に戻って家族を作り子どもを作るのです、突然気が変わったなどと言って。そんなの馬鹿げています。そんなものは不正です」。

 ごもっとも!
 しかしその後、ナブラチロワは、LGBTQのために活動するNPOのAthleteAllyから、「発言はトランスフォビックである」と批判され、同組織の大使および諮問委員会のメンバーを解任されました。

 日本ではまだ起こっていませんが、海外ではトランス女性の選手が、女子競技の記録を塗り替え、優勝杯を総取りしつつあります。まさに「トランス女性を入れると、女性のスポーツは死ぬ」という状況です。

《つづく》


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