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L'Arc〜en〜CielのLOVE FLIESは「融け合う意識」がテーマ 歌詞解釈・意味・考察


The color is singing
Shining rain is overflowing
All in your mind



「LOVE FLIES」の概要

1999年リリースのシングル。作曲はken。kenらしいハードなリフと、気だるい雰囲気を伴って曲が進行していきます。Stone Temple PilotsやAlice In Chains、Dinosaur Jr.みたいなオルタナ/グランジ感プンプンのリフ嫌いじゃない。


そんな気だるさもラストサビで大爆発。まさに「LOVE FLIES(愛が飛ぶ)」ように、全てが天に向かって浄化されていく情景が浮かびます。


シングルの中でもかなり好きな曲で、その理由が、なんといってもラストサビでのコーラスのかけ合いに依るものですね。hydeのメロディーに付いていくkenのコーラスと、独立したtetsu(ya)パートの三人のかけ合いが聞ける稀有な曲。


シングルカットされた曲ですが、セールスは不調。そこそこ売れた「侵食-lose control-」で自信がついた上でのシングルカットだったとも推測できますが、この曲をシングルにするということに意味が『REAL』をリリースする上で重要なことであったと思います。


MVは「NEO UNIVERSE」と類似していて近未来的。特殊メイクを施したyukihiroが若干トラウマですが、アート性の高いMVで結構好きです。監督は宇多田ヒカルの「HEART STATION」や中島美嘉の「雪の華」も担当した武藤 眞志。


『CHRONICLE 2』にはbehind the scenesが収録されていて、高速でグルグル回るカメラにビビるtetsu(ya)やkenを見ることができます。


歌詞はkenが1999年に行われたツアーでの景色を下敷きにしたもの。客席から愛がポッポッと翔んでいるように見えたそうです。その溢れていく感じがラストサビに表れているんですね。kenもラストがお気に入りのよう。

「最後のサビの英詞になってからがかなり好きなんですよ。この英詞の部分が曲と交わってる」

『R&R NewsMaker』、p.27、2000年10月号

「コーラスワークもあるんだろうけど、何ていうのかな、脳みそからいろいろ溢れかえってる感じ」

『R&R NewsMaker』、p.27、2000年10月号


「LOVE FLIES」の歌詞分析・解説

「LOVE FLIES」では、メンバーとファンの意識の融合がテーマになっています。
メンバーとファン、二つの意識が愛を媒介として一つになることで得られるオーガズム。
hydeは、「LOVE FLIES」でそれを描こうとしたのではないでしょうか。


歌詞を見ていきましょう。

果てしない君の元へ
どれくらい近づいただろう
Right side of the dreams
Left side of the truth
Show me the way
【夢の右側 現実の左側 道を示して】

「夢の右側 現実の左側」、つまり、夢にも現実にも腰を据えられていない、ふわふわした状態だと解釈できます。ライブをしている自分がまるで夢にいるかのように錯覚しているのでしょう。


「REAL」がテーマだとして解釈するならば、〈夢(dreams)〉と〈真実/現実(truth)〉の対比は重要な部分かと思います。
(「REAL」の曲順で「NEO UNIVERSE」の後に「LOVE FLIES」が来ているのも重要)


「果てしない「君」(=〈夢〉)にぼくらはどれだけ近づいただろう。背中合わせの〈現実〉と〈夢〉」


ある種形而上学的な、独我論的な考察や解釈ができます。そしてこの解釈が、この曲の面白さを何十倍にも引き立てます。


(make my sense)
The color is singing
【(気づかせてくれ)色が歌っているじゃないか】
溢れる輝きを与えて
(in believing come with me)
【(付いてきてくれると信じてる)】

叶わぬ世界へ君よ放て
I feel Love flies
Go on Fast awake
【愛が翔んでいくのを感じる 早く目覚めて】

「”色”が歌っている」というのは虹、つまりラルク自身であるともとれますし、客席のファンがキラキラして歌っているようにも見えるかもしれません。


溢れる輝きを与えているのはラルクか、それともファンの方なのか。ぼくはどちらで解釈するのも正しいと思います。


というか、どちらの立場にも立って解釈できなければ、この曲の魅力は半減します。ファンの〈視線〉もラルク側の〈視線〉も、横断的にどちらの世界も示そうとしているからです。


しかし、〈夢〉と〈現実〉の二つの世界を同時に見るのは、論理的に不可能。だからこそ、「果てしない君」なんです。


もう一つ。『マルコヴィッチの穴』のように、kenやメンバーの〈視線〉が、ファンの意識に到達している(その逆も然り。すなわちファンの〈視線〉がメンバーの意識に到達している)ということ。


「叶わぬ世界へ(「=NEO UNIVERSE(二項対立を超えた世界)」へ)君よ放て」。この君はおそらく二人称的な君。


意識と意識の融合。諸星大二郎の「生物都市」的な世界観でhydeは「LOVE FLIES」の詞を書いているのでしょう。


幻影が手招いている
最後の愛引きかえようか


「幻影」とはライブ終演後の、日常生活の隠喩。

ライブ会場でファンに愛を翔ばすことで、また、ファンから愛を翔ばしてもらうことで「幻影」を打ち破ろうとします。


Right side of the soul
Left side of the life
Show me the way
【魂の右側 生命の左側 道を示して】

「魂」と「生命」は、「死」と「生」または「精神」と「肉体」とも解釈できます。


融け合う意識に肉体や魂は不要なもの。ライブによって、メンバーもファンも肉体や精神から解脱し、意識を融け合わせるのです。「幻影」はもはや、融け合う意識の中には存在しません。


(make my sense)
The color is singing
Shining rain is overflowing
All in your mind
【(気づかせてくれ)色が歌っているじゃないか
輝く雨が溢れかえってるじゃないか
全ては君の心の中で】

(in believing come with me)
Look at the skies…
and then I feel I feel Love flies
(You have to take my way)
【(付いてきてくれると信じてる)
空を見てみて…ほら、愛が翔んでいくのを感じるでしょう
(君がぼくを導いてくれなきゃ)】

Go on Fast awake
【早く目覚めて】

kenやメンバー、ファンが雨の中、愛がポッポッと翔んでいくのを、それが光り輝いて溢れているのを見ている景色が、その場にいなかったぼくらにも容易に想像できます。


「All in your mind」は、「すべては君の意識に起こる」ということ。ウィトゲンシュタイン的な独我論のことを言っていて、世界とはすなわちこの世界、君の世界にほかならないということ。


そして、融け合った意識の中では、ファンの意識に起こった快感は、メンバーが感じている快感と同じ。ライブでオーガズムに達した時、それはメンバー自身も達しているのです。hydeはまさにそれが言いたかったのです。


「NEO UNIVERSE」といい「LOVE FLIES」といい、SF的な世界感が表れていて、非常によいですね。「REAL」は本当にコンセプトに沿ったアルバムだと再認識させてくれます。


ちなみに、シングル盤の方がベースの音が好みです。ブリブリしてます。


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