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もちつもたれつ―自助自立―

北友舎さんを取材させてもらった中で、とても印象深い現場があった。
そこは閑静な住宅街地域で、市街地へのアクセスも山や自然公園と言った自然環境へのアクセスも程よく、古くからの住宅や、世代交代で建て替えたであろう戸建てが立ち並ぶエリアだ。一見すると住宅と住宅の間は密接で、雪捨て場を確保する余裕はあまりなさそうだ。

すでに岩瀬社長がショベルで雪山を崩している。道の両脇から住民たちが家族総出でスコップや手押しダンプを手に家周りの雪を掻きだしていた。どうやら、共用の道だけの除雪に限られる通常の「パートナー除雪」とは違いそうだ。地域の代表のMさんに話を伺うと、このエリア一帯は昔1区画の農地で、それを分筆していったことから、それぞれ私有地の一部を「共用の路」としてシェアしている、ということらしい。
「だからね、基本自分の家の前は自分たちで雪かきするもんだったんだよ」

なるほど、土地区画的には私有地だから、オリンピック時などの都市整備からも漏れ、除排雪を自分たちで賄う、という自主自立の精神が近年まで続いている町内会らしいのだ。お互いに声を掛け合って、体が動かないご近所さんのお宅を助け合ったりなど、普段から当たり前に行われているそうだ。たしかに、地下鉄やバス通りがすぐそことはいえ、ここから出ることが出来なければどこにも行けない。「共用の場所を自分たちで賄う」ことがしっかりと息づいているようだ。

このエリアの10数世帯で除排雪費用を割り勘して担い、毎年北友舎に依頼しているそうだ。岩瀬社長が除雪業を始めてまだ間もないころ、顧客獲得のためにチラシをポスティングしたことがご縁らしい。岩瀬社長は個人宅の屋根の雪下ろしや雪かき、氷割りなどの手作業も担っていた。

「手書きのチラシがポストに入っていてね、夜だったけど電話したのよ」
そう語るのは北友舎との縁のきっかけになったNさん。東京の親戚訪問をしている間に北海道でドカ雪があり、帰宅すると家に入れなくなっていた、というのだ。しかも、いつも使っていたロードヒーターのボイラーが壊れていて、積もった雪は数日の間に凍り、細身の女性であるNさん一人ではどうにもできなくなっていた。たまたま、ポストに入っていた素朴な手書きのコピーに頼るしか道はなかったそうだ。

Nさんは、すぐに駆け付けて除雪してくれた岩瀬社長に今も感謝している、と言う。「きれいにね、丁寧にしっかりしてくださるでしょう。もういいわよ、とこっちが思っても、ご本人が納得するまで取り組んでくれる姿が誠実でねぇ。だからね、ご近所に声をかけて、北友舎さんに除排雪をお願いするようになったんです。」
一人暮らしのご年配の女性にとって、雪の除排雪は死活問題だっただろう。一方で、岩瀬社長もNさんに恩義を感じているようだった。値段設定や仕事の区分など、このエリアで毎年請け負わせてもらっている経験から、少しずつ改訂を加え、成長させてもらった、と感じているようだった。

その日も、ヘルプで入ってもらったもう一台のホイールローダーと連携しながら、壁際ギリギリまで、きれいに雪をそぎ、厚くなった圧雪の氷を剝いでいる。ロードヒーターで段差が出来ているお宅の前の氷はなるべく削るように指示を出し、丸1日かけて最後のひとすくいまで、きれいに除雪し、排雪していた。

地区代表のMさんが「岩瀬社長がやんなきゃだめだ」とつぶやいていた。
安全面で言うと、とても狭い路地の割には歩行者も多いところだ。しかも地域住人が大人も子供も一緒になって雪を道路に集めることを手伝い、ホイールローダの一動きを逐一見守っているのだ。大きな重機に乗る身としては危ないし、あまりにも住人の視線が多くてやりにくいのではないか、と思い岩瀬社長に話を聞くと、「ワイワイしてる感じが温かくて楽しい」とのことだった。地域総出で祭りのように何かをする姿に、愛情を持っているようだった。

重機のある所で人が行き来するのは危険だ。お互いのために「危ない」と遠ざけ続けてきた結果が、もしかしたら除雪のアウトソーシングを助長したのかもしれない。ここの町内会のように小さい範囲なら、地域の大人が力を合わせて雪かきする姿を子どもに見せたりできるし、完全に機械と人が分業してしまうのではなく、重機やトラックと連携しながら作業強度を調節して自主的な取り組みを進めることが出来る、という一例を見せてもらった気がする。

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